デスノ 跡継ぎ | ナノ
天体観測
窓硝子が風で音を鳴らす。
夜になると風が強くなる。
窓を閉めているのに風の唸る声が聞こえて。
怖いわけでは無い。
ケイが抱き締めてくれているから。
けれど眠れない。
ガタガタという窓の音と、ざあぁと風の走る音。
寒い。
怖いのでは無いけれど、ケイの上着を掴んだ。
跡継ぎ
月光
「眠れない?」
寝ていると思っていたケイの声が暗闇の中でする。
起こしてしまったのだろうか。
布擦れの音がして、やわく抱き締められた。
背中をとんとんとあやす様にされて安心する。
心音が近付くて、暖かい。
身体があたためられてゆく。
窓が外から何かぶつけられたとでも云うかの様に大きな音を立てる。
「風が強いな」
「はい」
ケイは深く息をする。
それは溜め息にも似ていて、音を嫌がっている私に呆れてしまったのだろうか。
「冬が急いで来てるんだな」
ケイがぽつりと、私に聞かせるのでもなさそうな声で言った。
見上げると、夜目に映るのはケイの輪郭だけ。
ケイはどんな表情をしているのだろう。
輪郭の影のケイは見上げた私の方を見る様な動作。
ケイは私をきゅうっと抱き締めてくれた。
私は一度深呼吸をしてから、私も抱き付く様にしてケイに寄り添う様にくっついた。
服を掴んで、柔らかい物に耳を寄せると心音と鼓動を感じられる。
ひどく安心出来る。
けれども眠気は未だに襲ってこなくて。
「季節の変わり目はどうも眠れないよな。前もそうだった」
ケイは小さく笑った。
以前もそうだったと言われ、そういえばと思い出す。
季節の変わり目はどうしてか眠れない。
「カーテンを開けようか」
ケイが起き上がると冷たい風が入って来た。
ベットから下りたケイは加湿付きの暖房機具をつける。
「部屋が暖まるまでもぐっておきな」
ベットに腰掛けて、毛布で私を包み込ませようと毛布と掛け布団をぽんぽんとするケイ。
素足のまま窓側に行き、カーテンを開ける。
明かりが硝子越しに注ぐ。
青白い光。
その中にいるケイは外を眺めている。
光に溶け込みそうで、消えてしまいそうで。
消えないで。
冷たい床。
走るとケイはどうしたと云う様に私の方を向く。
抱き付いて、存在を確認する。
ケイは消えない。
消えたりなんかしない。
ケイは抱き返してくれた。
安心する。
「もうすぐ満月だから月明りが強いな」
見上げた空には、暗い闇に浮かぶ月と星。
ケイと見てきた空で今日が一番綺麗に見えた。
「冬は空気中の塵が強い風で飛ばされるんだ。だから空気が澄んで星がよく見えるんだよ」
月に、クレーターのだろう影が見える。
ある星は光が強くてオレンジ色にも見える。
ちりばめられている星。
真っ暗な空間に光の粒がたくさんある。
夏に見た空も綺麗だった。
けれど今見ている空はもっと綺麗。
加湿機の音がし始める。
窓はカタカタと鳴った。
ケイが身を離そうとするから、私は手を離した。
「まだ寒いからベットにいな」
ベットの方に連れて行かれて、毛布に包まれる。
「すぐ戻って来るよ」
そう言ってケイは私の髪を撫でてから部屋を出て行ってしまった。
隣りの自分の部屋に行ったのだろう音。
風が走り去る音と窓が揺れる音だけが響く空間。
窓が開くのを待った。
ケイは扉の前に来て一度止まり、扉を開けて両手に何かを持ち入って来た。
手に持っているのは毛布で、ケイは月明りが指す窓辺に毛布をカーペットの様に敷く。
もう一枚ある毛布は無造作にカーペット化された毛布の上に置かれた。
「何をしているんですか?」
「床が冷たいからね、座っても冷えない様に」
予想通りの答え。
嬉しくなる。
ケイはまた扉を開け、部屋から出て行ってしまう。
今度は自室の方にではない。
廊下を進む足音が小さくなる。
何処に行くのだろう。
早く帰って来て欲しい。
戻って来た時、ケイは大きな三脚と筒型の物を抱えていた。
「望遠鏡ですか?」
「そう。天体望遠鏡。古いけど使えるだろうから、見てみようと思ってな」
ケイは毛布と窓の間に三脚を立て、セットを始める。
私はベットから降りてケイの方に走る。
ケイは毛布の上をぽんぽんと叩き、私に隣りに座る様に示す。
隣りに座ると、置かれていた毛布で身体を巻かれた。
「羽織っておいた方が良い」
部屋の温度は先ほどよりも暖かくなったがそれでもまだ寒い。
望遠鏡を覗くケイはパジャマ姿。
寒いに決まっている。
「長いこと手入れして無かったから汚いな」
ケイは無理かな。と呟いてレンズを拭く。
そして覗いて、調節をしていた。
「レンズを拭くだけじゃ駄目みたいだ。明日手入れをするとしようか」
ケイはふうっと息を吐いて私の隣りに座った。
「覗いても良いですか?」
「ああ。もちろん良いぞ」
穴を覗くと、月が見えた。
黄色の丸は少し欠けている。
月にあると云われる黒い小さな点もしっかりと見える。
「ケイ、見えますよ」
「……あぁ、そうか、私は裸眼だからか」
最近眼鏡を頻繁にかける様になったケイ。
ケイは目をこすった。
「眼鏡をかけないんですか?」
「眼鏡をかけながら望遠鏡を覗くのはどうもな」
困った様に笑う。
目をレンズに近付ける時、眼鏡は障害物になるのだろう。
ケイは空を見上げた。
「夜空は黒い空に白い星だろう?目を凝らさなくても今は見えるから、眼鏡は良いかな」
ケイは笑みを浮かべた。
青白い月明りを浴びて、何だろう、壊れてしまいそうだ。
ケイは物じゃないから壊れると云う表現はおかしいけれど、そう思った。
ケイは手を伸ばし私の頬に触れた。
指先がとても冷たくて。
「そんな顔するな」
正面から抱き締められる。
風が外で啼く。
窓がカタカタと鳴る。
背中を毛布越しに撫でられ、大丈夫だよ。と言われた。
「怖い事も哀しい事も無いよ」
気持ちを詠んだ様な言葉。
私の事を理解してくれている言葉。
手は離れ、ケイは普通に私の隣りに座った。
「人はな、死んだら星になるんだと云われているんだ。真偽はもちろん分からない。誰も死後の世界を知らないからな」
空を見上げる。
満天の星。
あれが命の輝きなのだと先人は考えたのか。
「宇宙は未知の世界だから死後の空間。星の輝きは命の燃焼。そんな考え方が出来る人をロマンチストだとは思うが、人は亡くなっても空から大切な人を見守っていると云う考えは良いと思う」
膝を抱える座り方。
私と似た様な座り方のケイ。
目を閉じて、うずくまる格好。
青白い月明り。
怖くなる。
「ケイ」
「え?」
ケイは目を開き、ようやく私を見てくれた。
「……眠いですか?」
「眠気は無いよ」
ならどうしてケイは目を閉じていたのだろう。
「目を閉じていても光って感じ取れるのかなと思ったんだ。日中は肌に光が当たると背中だとしても分かるだろ?月明りはどうなのかなって」
日中の明るさとは違う明るさ。
太陽の光は暖かい。
けれど、月明りは暖かいのだろうか。
毛布を羽織っている私には分からない。
「ケイは寒くないんですか?」
「部屋もだいぶ暖まってきているからな、私は平気だ」
手に触れてみると、先程頬に触れた時よりもは暖かいがまだ冷たい指先。
ケイは困った様に笑った。
「私はこれが普通なんだよ」
「でも冷たいです」
苦笑される。
ケイは少し考えたあと、私を見た。
そして立ち上がり私の後ろにくる。
「毛布貸して」
身体に巻いていた毛布をケイに渡すと、ケイは私の後ろに座った。
似た様な座り方だけれども、ケイは足を広げてその間に私は座っている。
そして毛布が巻かれた。
今度はケイも一緒にで、いつもソファでしている格好と良く似ている。
違うのはケイの太股の上に座っていない事くらいだ。
後ろから抱き締められる格好。
ケイの身体は私と比べて冷たく、服越しに冷たさが伝わってきた。
ケイには私の熱が伝わっているのだろうか。
そうだったら良い。
「温かいなL」
きゅうっと抱き締められる。
ケイの身体は少し冷たい。
なのに暖かい。
「星の話でもするか。冬の星座の話とかして無いよな」
神話にある星座の由来。
ケイは本当に何でも知っていて、神を信じていないと言いながらも神話に詳しい。
「聞きたいです」
「分かった。でも眠くなったら言うんだぞ」
「はい」
安心感で少し眠たくなってきているけれど、聞きたくて眠いとは言わなかった。
ケイは何も見ずに声を発する。
頭に入っているのだ。
海の底に沈んでいく様な感覚。
ケイの声が聞こえた。
「おやすみL、良い夢を」
おやすみなさいと返したかったのに、私の思考は海底に沈んでしまった。
〜戯言〜
冬の空は綺麗ですよね。
土星も見えますから。(肉眼は無理ですよ)
風が強い日は雲や塵が流されて空を見上げると星座が分かる程よく見えます。
神話は結構面白いですよ。
良かったら見てみて下さい。
- 31 -
[
*前
] | [
次#
]
←
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -