デスノ 跡継ぎ | ナノ
葛藤
罪は 償えない
罪を償うというのは 被害者が元の状態に戻った時やっと償えるものなのだ
そんな簡単に罪は償えない
まして 私の過ちは 死によって永遠に償えないかもしれない
跡継ぎ
傷痕
初めて現在は姓を『クウォーク』、名を『ケイ』と名乗る少女と逢ったのは、特許を得る波に乗っている時だった。
第一印象はつぎはぎ。もしくは廃棄処分前の人形。
身体に合わない服はだぶだぶで小汚なく、髪の毛はぼさぼさ。
四肢は骨と皮だけ。
表情には生気が無く、虚ろな瞳。
ケイは決して顔を合わせようとはせずに俯いていた。
陰鬱な空気を纏っていたケイの世話を、ケイの先代である今は亡きLに任された時は悪寒が走る程だった。
にこりともせず気味の悪い子供。
世界中の子供がこれだったら世界は滅びると思える程の不気味さ。
そんな子供の世話を出来るはずがない。
第一、せっかく自分の中で軌道が良くなっている時期だったあの時は、子供に構わず発明に専念したかった。
だが私はずっと資金援助をしてもらっているうえに衣食住の世話をする代わりに住み込ませてもらっていた手前、先代の頼みは断れない。
結局引き受け、廃棄前の人形の様なケイに物事を教える事となったのだ。
ケイは常に無表情で俯いており、視線は合う事が無かった。
いつも怖がってばかりで、身体を強張らせて、『はい』としか言わない。
知らない男にあれを覚えろこれを覚えろと言われたら小さく傷ばかりの子供は怖がるに決まっているのに、私はそれに気付かずにケイを嫌がる気持ちを全開にしていた。
ケイは小さいながらに自分を認めてもらおうと必死だったのだと、今なら分かる。
小さい子供が勉強以外に時間を潰せない生活を、聞き分け良く受け入れる訳が無いのだから。
それでもケイは聞き分けの良い子になりきり、私達に必要とされる様にしていた。
私にも徐々にだが、懐いてはいた。
だが当時の私はケイの世話にストレスを感じ、話しかけられても無下に扱って耳を貸す事さえしなかった。
ある日、ケイはきっと自力で解けていたのだろう問題を持って来て、教えて欲しいと私に言ってきた。
私に話しかける為の口実だった様に、今なら思う。
しかし当時の私は問題を手早く教え、こう言った。
「(今は亡き先代)Lが貴女を『次期L』と見込んでいるのですよ。なのにこんな問題が解けなくてどうするのですか」と。
もしあの時に戻れるならば、私は迷わずそんな台詞を吐いた自分を罵倒するだろう。
否、言ったのは一度だけでは無い。
何度も何度も繰り返しに、『貴女はLになるから此処にいるのだ』と、遠回しにもストレートにも口にした。
悔やまれてならないのは言った事と、言った時にケイの表情があんなにも凍りつく様だったのに気付かなかった事。
どうしてあんな事が言えたのか。どうして気付かなかったのか。
悔やみは増す一方。
ケイは自分の存在を認めて欲しがっていたのに、Lとしてしか見ない私と先代しか傍に居なかった。
良い子にしていれば存在を認めてもらえるかもしれないと期待をして、その期待が何度も崩されるのはどのような気分だったのか。
外に出て他の誰かに存在を認めてもらう事も叶わず、私と先代が言う言葉に何度苦痛に胸を潰されそうになっただろうか。
ケイは暫くして、自分の存在を認めてもらおうとしない子になった。
自分の存在は『L』と思い込んだのだろう。
『L』でなければ必要とされないと思い込んだのだろう。
違う。
思い込ませたのは私達だ。
私達が、そう仕向けたのだ。
ケイは頑固な部分がある。
仕事以外の事でだが、一度した思い込みを修正出来ないのがケイだ。
だからケイは大人になった今でも『L』以外の自分を求める人はいないと言う。
私が違うと言おうとも、それは今更で、ケイは「気を使われている」と思い笑って受け流すだけだ。
だから次代の『L』、今はビショップと呼ぶ少年を見つけた時からケイは生きる事に執着しなくなっている。
今生きているのはビショップの世話の為。
次代がいればもうケイ自身は用無しなのだと思っているのだろうか。
ケイは自分自身の存在意義をまだ見つけられていない。
見つけられない様にしたのは私。
存在意義を見つけられないケイは、生きたいと願うのを不思議がる。
人として当たり前の事を疑問に思う。
他人の事ならば生きたいと願うのを当たり前として受け入れるくせに、自分の事となると受け入れないのだ。
『やる事はやった。だからいつ死んだって良いんじゃないのか?』というのがケイの口調に見え隠れしている。
先代は生に執着し、最後まで生きようと藻掻いていた。
だからこそギャップがあり、それに私は躊躇しているのかもしれない。
先代は灼熱の太陽の様な人で、ケイは月の様な人物だ。
あってもなくても困らない。
ただ在るから見て楽しむだけという月。
ケイは知能もあるのに先代の様に自分の身体に適する薬を作ろうともしない。
静かに死を受け入れる態勢。
それは諦め等では無く、悟りをひらいた訳でも無く、自分に価値は無いと思い込んでいるからだ。
私の過ちはケイが『L』としてしか自分の事を見なくなるまで続いた。
ケイはより『L』となれるように指紋を無くす程だ。
探偵は自分の存在を隠す為に証拠になるものは残さない。
そしてケイが行う証拠を残さない様にするその姿勢は、『L』として完璧であろうとするが為。
そこまで追い込んでしまった私は何が出来るのか。
今更ケイの強がりを、精神的に脆いのだろうケイ自身を暴く事など私は怖くて出来ない。
ケイはいつまでも弱い部分を持っていると思う。
ビショップと呼ぶ次代のLへの優しさが、比例している様に思う。
ケイが望んでいた生き方なのだろう。
抱き上げて欲しかったのだろう
抱き締めて欲しかったのだろう
頭を撫でて欲しかったのだろう
自分を自分として見て欲しかったのだろう
愛して、欲しかったのだろう
私は抱き上げる事もしなかった
私は抱き締める事もしなかった
私は頭を撫でてもやらなかった
存在を『L』としてしか見ていなかった
愛するのが、遅過ぎた
ケイはまっすぐな子だ。
まっすぐ過ぎるからこそ、存在意義を認められなかった自分を決して見せないようにしてしまった。
存在意義を認められなかった小さく惨めな弱い自分を必死に隠しているのだ。
そして皆に認められる様に『L』を完璧にしようとする。
強がりだ。
だが強がりを言わせる様に仕向けたのは私。
今、ケイは少しずつだが自分の中のケイ自身に触れ、動揺をしている。
『何故私はこんな気持ちになるんだろうか』と、理屈ではない感情を理屈で解決させようとしている。
『L』の時のケイは完璧な人間だが、ケイ自身はとても不器用だ。
ビショップといるケイは人間らしさを持つ。
私が出来なかった事を次代のLが、まだ幼いビショップと呼ばれる少年が成し遂げようとしている。
それは感謝と、悔しさ。
何年も私が出来なかった事を易々とやり遂げる子供。
ケイと私は常に二人きりだったので、他人の介入が快く思えない。
自分の子供っぽさに笑いが洩れる。
私はケイに人間らしくなってもらいたい。
だから私は二人の邪魔をしない。
私が出来なかった事を、少年に託すのだ。
私が愛するケイを、私が愛する少年に任せるのは、決して悪い事ではない。
〜戯言〜
ワタリの葛藤。
ヒロインの過去は想像すると切なくなります。
書く勇気はまだありません。
ワタリの願いは、ケイさんの幸せなんでしょうね。
いえ、過去の過ちが後ろめたさになって、とかでは無く、家族の様なものだから。
ワタリもワタリで、ケイさんに無償の愛を注ぐ自分に理由をつけちゃってるんです。
ワタリも不器用なんですよ。
その不器用さこそ、人間らしさなのでしょうけれど。
- 19 -
[
*前
] | [
次#
]
←
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -