デスノ 跡継ぎ | ナノ
文化祭
ここに住むようになってもうすぐ一か月が経つ。その間にケイと一緒に寝る事と、天気が良い日の散歩は自然と日常の枠に収まった。
散歩は時々ワタリが車を出してくれて、後部座席に二人並んで座りラジオを聴きながら流れる景色を眺める。遠くまで行った時には、ワタリが先にリサーチしてくれていた美味しいと言われるケーキ屋に入っておやつを買う事もある。
車を出してくれる時、今日は何処に連れていってくれるのだろうねと楽しそうにするケイを見て、私も新しい美味しい物に胸を躍らせているのは内緒だ。
眠るのはベッドに横になってケイの腕を枕とする寝方に定着してきていて、最初こそ人が近くに居るなんて無理だと思っていたのに、何もしてこないケイに少しずつ慣れてきていて、最近はそこまで緊張しないようになってきている。
そんな日常を過ごしてきて、今日はケイと手を繋いで散歩している。地域の活性化を目標としているのだろう、周辺でのイベントのポスターを張る看板に、駅で二つ先にある高校が文化祭をしているという紙が貼られていた。
「ビショップ、行ってみないか?」
文化祭。
聞いた事はあるが見た事は無いそれに、私は首を縦に振った。
跡継ぎ
文化祭
校門は色とりどりの造花で飾られていて、そこに文化祭の文字。一目でここが文化祭をやっている高校だと分かる作りだ。中には当然ながら高校生ばかりいる。
私達が住んでいる場所は活気に満ちていると言うよりは静かな住宅街、といった様な場所だから、これほどまでに多い人はあまり見た事が無く、ざわめきが騒音のようで少し恐怖に似たものすら感じる。
「いっぱい居るなぁ。手を放しては迷子になってしまいそうだね」
ケイはさて行こうか、と言って繋いだままの私の手を引いて、あっさりと派手に飾られた門をくぐってしまった。つられて私もくぐるけれど、まるで別世界に足を一歩踏み入れたような気分になる。
「中は祭り事ばかりだから楽しいはずだ」
校舎入口で高校生からパンフレットと履物とビニール袋を渡される。
ケイは常に大きな肩掛けバックを持って散歩をするので、その中に私達はビニール袋に入れた靴をしまった。子供用のスリッパだけれども、私の足よりも大きくて少し歩き辛い。
初めて入る校舎は以前テレビで見た学校と似た造りだ。学校は必ずこういう形にするという決まりでもあるのだろうか。
靴箱を抜けて渡り廊下、教室に階段、階段の踊り場を見下ろせば窓の向こうに見えるグラウンド。
ケイも楽しそうに造りを眺める。
ケイにとっては懐かしいものなのだろうか。
「どうした?ビショップ」
視線に気付いたケイが話しかけてきて、咄嗟に言い訳が思いつかなかった頭に口ごもってしまう。バレないように見ていたつもりだったのに、そんなに凝視していただろうか?
気持ち悪がられただろうか?嫌になっただろうか?
「人がいっぱいで驚いた?」
「が、っこうが……初めて、でっ」
「私も初めてだよ。一緒だね」
驚いてまたケイを見た。ケイは笑みを浮かべていて、嘘はついていなさそうだ。
ケイも学校に通っていなかったのだろうか?大人なのに、学校に行った事が無い?
「凄いよな、学校って。皆同じ服を着て、同じ空間で集団生活して。私には考えられないよ」
ケイは肩を落として笑って、本当に通っていないのだと察する。
ケイは頭が良いから、学校ではない特別教育を受けていたのかもしれない。私の状況も今後、そうなるのかもしれない。
「そうそう、文化祭って大概お化け屋敷が一番混むらしいよ。ビショップはお化け屋敷に行ってみたい?」
ホラー系統は見た事が無いので分からない。
ケイは入り口で受け取ったパンフレットを開いて、しゃがんで私にも見せてくれる。
中には構内地図と、何の催しをやっているかの手書きイラストと文字。先程ケイが言った通り、各階に必ず一つは黒塗りのマス目があって、そこの説明はお化け屋敷、やホラー体験、と言ったものだった。
「此処、ホラー有の推理アトラクションだって。行って見ようか」
「……」
祭り事に参加した事が無く、お化け屋敷に行った事が無いから少し困る。大まかな想像しか出来ないから、行きたいか行きたくないかと言われたら分からないのだ。
「高校生が作ったやつだからそんなに怖くはないと思うよ」
最後の思うが気になったが、未だ見た事が無いお化け屋敷に興味を持っているのも事実だ。怖いもの見たさ、と言うのはこういう感情を言うのかもしれない。
頷くと、私はケイと一緒に地図に倣ってその場所へと向かう。
「着いた。此処だよビショップ」
上を指しているので見上げると、黒地に血痕が描かれた、いかにも怖そうな看板が天井からぶら下がっていた。字は『Who killed us?(誰が私達を殺したの?)』
おどろおどろしいそれに、先ほどまでの興味がしぼんでいくのが分かった。
「思った以上に凝っていそうだな。止めておこうか」
首を横に振る。興味はしぼんだけれど、怖いもの見たさはしぼまないし、ケイが居る今のうちに体験を一度はしたほうが良いと思う。
本当に良いの?と言葉にせずに首を傾げるだけの動作で問うてくるケイに、頷くことで答える。
「じゃあ並ぼうか」
列の後ろに並んで、待っている間に回りにいる人達を眺める。
様々な制服に笑い声。
混ざり合う話し声に、駆けていく足音。
色々な人の作り出す音が入り交じって人一人の声は聞き取れないけれど、皆楽しそうだ。
時には忙しそうに駆けてゆく人も、家族連れもいる。
母親に手を引かれる、父親に手を引かれる。親に絶対の信頼を向けているから出来るのだろう、私と年の近い子供の笑顔。
「ビショップ?」
「……え?」
ケイを見ると、ジッとしているからやっぱり怖いのかなと思って、と言ってくるので首を左右に振る。
その時視界に入ったケイの手には私の手形に白みがついていて、力いっぱい握ってしまっていたのだと気付く。
何て馬鹿な事をしたのだろう。ケイの手は、痛かっただろうに。
けれど、怖いから強く握ったのだと勘違いしてくれたのは良かったのかもしれない。
「ビショップ、怖いならやめて良いんだぞ」
「大丈夫です」
「なら、良いけど……」
「お二人ですか?」
お化け屋敷入口の女性が言った。
普通の制服姿だ。
「えぇ、この子と一緒です」
ケイがいつもと違う口調になる。
他人に対してはいつもそうだ、ケイは外では敬語になるし、話し方も女性的になる。
「はーい分かりました。このお化け屋敷は殺人鬼を突き止めるホラー有り、推理ありのゲームになってます。迷路の最中にヒントが書かれた紙が落ちていますので、それで犯人を捕まえて下さい」
「だって、ビショップ」
「分かったかな?ビショップ君」
知らない女性に話しかけられて、首を振るだけが精一杯だった。
「二人入りまーす!ちっちゃな子がいるから優しめにお願いしまーす」
カーテンで仕切られた入口の向こうに向かって言う女性は、そのままカーテンを開けて、私達を促す。
「どうぞ」
「行こうビショップ」
カーテンの先、薄暗がりで左右をベニヤ板で囲まれた狭い道を歩いていると、急に壁が叩かれて驚く。
「怖い?」
「……へい き です」
「……無理をするなよ?」
頷く事で返す。
ケイの方にあったロッカーが大きな音をたてて急に開き、中から人が飛び出して来た。
「あ゛ぁ゛、あ゛」
床を這う髪の長い生き物。学生が演じているのだろうと想像出来るけれど、それでもやはり気持ち悪いし、薄暗くて狭い空間は圧迫感があって息が辛い。
「…ケイ…早く…」
早く此処から遠くに行きたい。あの家に帰りたい。
「待って。あそこにメモが落ちてる」
ケイは私に此処に居てねと言ってお化けに近付いて行く。
お化けが襲いかかりそうな仕草をするのを気にせずケイはメモ用紙を取って来た。
メモ用紙には『RD』と書いてあった。
「よし。行こう」
進むとトンネルがあって、私が足を止めてるとケイが先に行こうかと言ってくれたので私は頷いた。私が先に行ったら、後ろにケイが居る状態になって視界にケイが入らないのだ。それは、とても怖い。
ケイが先に行ったら男性が脅かす声が聞こえたので、前に進むのに抵抗を感じる。でも、このままではケイが先に行ってしまうかもしれない。
怖くて、でも立ち止まっているのも怖くて、一気に駆け抜ける。
「わっ!」
出た瞬間に大きな声を出されて、体が強張って動かなくなる。目だけ動かして音の発生源を見ると、顔を青白く塗り、目の回りを黒くしてボロボロの服を着た人がいた。
「ビショップ」
声によって固まっていた体が急に動くようになって、ケイの方に走った。
「ごめんねボク、怖かった?」
お化け役の男性が言う。
「ビショップ、大丈夫だから」
私が怖いのは、大きな声。
母と離れて数週間経ったのに、なのに、まだ大きな音は怖い。
嫌なのに。いつまでもこんな風ではいたくないのに。
「ビショップ」
ケイが私を抱きしめるのをやめてしまう。
周りの温度が下がった様な気がした。
嫌だったのだろうか。
こんな事で取り乱す子供なんていらないと、思ったのかもしれない。
抱きついても嫌がられない、受け入れてもらえて当たり前だと思っていた自分が恥ずかしい。
こんな子供、手がかかるだけで邪魔でしかないのに。
ケイは口の端を上げた表情で私と向き合い、そして脇の下に手を差し込んで来て、私を抱き上げた。
背中とお尻の下を支えられ、ケイの腕に横座りの格好になる。
「耳を塞いで、目を閉じていれば怖くないよ」
言われた通りに両手で耳を塞ぐと、ケイは私をじっと見つめた後、私を抱っこした
まま進む。
恥ずかしい、と思うべきなのだろうけれど、羞恥心よりこの格好の気持ち良さと、嫌いな大きな音から逃れた事の方が強いからなのだろうか、恥ずかしいと思わない。
ヒントを拾ってあっという間にたどり着いた出口の手前。ケイは私を下ろして
手を繋いでくれた。
角を曲がって進むと、制服姿の女性二人。
「お疲れ様でしたー」
「さて、この中で犯人は誰でしょうか?」
ヒントは一番最初から並べると『RD』『BLE』『GREN』。
そして犯人候補は『YELLOW GIVSON』『BLACK SUNSON』『MARY EUENED』の三人。
何を表すのだろうか。
犯人候補の名前は色を指す人が二人。
つまりヒントは『R(E)D(赤)』『BL(U)E(青)』『GRE(E)N(緑)』だ。
関連性があるならば『YELLOW GIVSON』『BLACK SUNSON』と言いたいけれど、『MARY EUENED』はヒントで消された文字が姓の所に順序よく『EUE』と入っている。
ヒントは赤青緑。
何の色だろうか。
否、色では無いのかもしれない。
何かを表すものなのかもしれない。
「ケイは分かりましたか?」
「あぁ」
「じゃあお姉さんどうぞ!!」
「え?」
次の人が来てしまうのだろう。
ケイは私に解かしたかったのだろうが、時間切れだった。
「BLACK SUNSON」
ケイが言い、女性たちは正解ですと言って飴を一つずつくれた。
「ありがとう御座いましたー」
廊下に出ると、ケイの分の飴も私にくれた。
「どこまで解けた?」
「……ヒントが色というところまでです」
推理力の無い私をケイは嫌うだろうか。
「それに気付けたなら十分だよ。他のヒントはお化けにあったから、ビショップには少しばかり難しかったね」
ケイは楽しそうに笑った。
「高校生の文化祭で、しかもメインはお化けなのに凝った問題だった。楽しい問題だ」
「楽しい、ですか」
「あぁ」
ケイは謎解きを教えてくれた。
「ヒントがすべて色ってあたりで『MARY EUENED』は犯人から抜きたくなるけど、ヒントから削られた文字『EUE』が入っているから『MARY EUENED』が犯人なのかと思う。でもヒントが赤青黄。ここで光の三原色って気付く事と、ヒントの文字が2文字目3文字目4文字目と規則的に削られている事に気付けば、『BLACK』の1文字目の『B』を削れば『LACK(欠けている)』という意味になる。それに、お化けは体の一部が欠損していたんだ。他にも、光の三原色なら光を表す語が欲しくなる。『RIGHT(光)』や『SUN(太陽)』とかね。『BLACK SUNSON』には『SUN』が入っている。この二つから犯人は『BLACK SUNSON』に絞られる。ついでに、あの三色を絵具として混ぜると無彩色で黒に近くなるっていうのも答えに出来るかもな」
お化けの欠けているというのは分からなかったけれど、光の三原色にも、文字が欠けている事の理由にも無彩色にも気付かなかった。
ケイは笑みを浮かべたままだ。
「大丈夫、じきに解ける様になるよ」
本当に?と聞きたかった。
私は高校生が作った問題も解けないのに、将来ケイの様な探偵になれるのだろうか。
「他に行こうか」
「……はい」
手を引かれる。
「今度は面白いやつに行きたいね」
「はい」
次に行った場所は世界一周の様なもので、各国の事を質問されたりその国特有の遊びをしたりして点数を稼いでいくというやつだ。
「ニィハオ!ここは中国です!!」
一輪車に乗った男性が言った。
前には卓球台。
ネットの向こうには点数の書かれた紙を付けたヌイグルミ。
「球を点数の書かれたヌイグルミに当てて下さい。それが点数になります!一番小さいプーさんに当てたら100点です。一人三球です!ではどうぞ!」
「ビショップからやりな」
ケイがそう言うと男性がラケットを渡してきた。
私はテレビで見たのを見よう見まねでやる。
「残念!残り二球です!」
「残念!」
「はーい10点です!お姉さんどうぞ!!」
ケイが卓球をやる。
「凄いです!50点!」
「あー、100狙ったんだけどなぁ」
「頑張って下さい!」
「どうも」
「はい!20点」
「凄い!100点です!!」
周りのざわめきも凄いけれど、本当に100に当ててしまうケイはもっと凄い。
「凄いですねー。卓球得意なんですか?」
「運ですよ」
ケイは笑みを浮かべて言った。有言実行出来て良かったよ、と胸を撫で下ろしているケイが少し子供っぽく見えて、なんだか面白い。
「合計180点です。おめでとうございまーす!」
「どうも」
点数を書いた紙をケイが受け取って次のステージへ。
「こんにちは!ここは芸術の国、ヨーロッパ諸国についてやります。今から問題を出しますので、一分間で出来るだけ多く答えて下さい。それではよろしいですか?」
「ビショップ、良いか?」
頷く事で示す。
「では、始めます!有名なモナ=リザが飾られて居る場所は?」
「パリのルーヴル美術館」
「ドイツの首都は?」
「ベルリン」
「グリム童話を書いたのは?」
「グリム兄弟」
「シェイクスピアの作品を二つあげて下さい」
「ハムレットとマクベス」
「アメリカ大陸に辿り着いた最初のジェノヴァ人は?」
「コロンブス」
「それでも地球は動く。と言ったのは誰?」
「ガリレオ=ガリレイ」
「この絵『ヴィーナスの誕生』を書いた人は?」
「ボッティチェリ」
「EC。正式名称は?」
「ヨーロッパ共同体」
「ノルウェーとスウェーデンがあるのを何半島と言う?」
「スカンディナヴィア半島」
「ドーヴァー海峡はどの国とどの国の間?」
「イギリスとフランス」
「『ひまわり』『自画像』を描いた人は?」
「ゴッホ」
「一分経ちました。終了です!」
「凄いなビショップ」
ケイに頭を撫でられた。
「本当に凄いですね、君。こんなに小さいのに歴史とか習ってるの?」
ケイ以外に話しかけられて、焦る。ケイの服を掴むと、ケイが変わりに話をしてくれた。
「歴史の本が家にあるので、読むんですよ」
「凄いですね。私なんて本があっても読みませんよ」
ケイは適当に笑っている。
歴史は寝る前にケイが良く話をしてくれるのだ。
地理は地球儀や世界地図を歴史の話と一緒に使うからよく見ているから、地図も歴史も知っている。
ゴッホはオランダ人で南フランスのアルル地方で活躍するけれど、自殺してしまうらしい。
シェイクスピアの本はケイが教えてくれて、当時の世相が見えると聞いて読んだから知っている。
「頑張ったね僕」
解いた問題の数が書かれた紙を渡された。
「「ありがとう御座いましたー」」
他にも最初に飲んだ紅茶がどれかを充てる遊び等をして、また景品を貰って廊下に出ると、ケイがふふっと笑った。見れば、嬉しそうにくすくすと笑っている。
「ビショップは凄いな。私は一度しか話をしていないのに、全部覚えてるのか」
電気を消して寝るまでの間に私はケイが教えてくれた事を反復しているのだ。
何故本の内容ではなくケイの話を反復するのかと言われれば、ケイの話の方が本に載っていない様な細かい事や、内容が濃い話で楽しいから。
だから忘れないだけ。
「嬉しいよ。自分が話した事を覚えていてもらえるなんて」
ケイが目を細めていて本当に嬉しそうに言うから、覚えられていた自分が誇らしくなる。
「さて、この後はどうしようか。ビショップは行きたい処あるか?」
パンフレットを渡される。
目についたのは吹奏楽の演奏会。
「……あの、これ」
「吹奏楽?」
ケイは最近身に着ける様になった腕時計を見た。
「時間は一時間後だな。何か適当に食べてから行くとしよう」
甘い物を食べたいと思ってパンフレットを見ていると、ケイがこの店に行こうと言って、パンフレットの一点を指さした。そこは甘い物の絵が描かれてて、楽しみが増す。
手を繋いでその店に行き、クッキーやお茶、パンを買った。
演奏会は屋上を使って行われるので、二人で階段を登る。屋上に用意されていた来客用の席はまばらに人で埋まっているが、それでもまだガラガラと言える状態だ。
座ってる人も食事を買ってきて食べるための席にしている様子で、私達も買ってきたパンやクッキーを食べる。ケイは総菜パン、私はクリームパンで、いつも食べているもののほうがパンはしっとりしていてクリームもこんなベッタリしていなくて格段に美味しいけれど、それでも天井のない空の下で食べていると美味しい。
演奏会開始前には立ち見の客がいるほどの大盛況となった吹奏楽の演奏会は凄かった、の一言に尽きた。大きな音で最初は心臓が痛くなったけれど、音の振動を全身に浴びて、血液が音に合わせて流れるような感覚に陥ったほどだ。
沢山の楽器が次々と音を奏でて、空気を震わせていくのは、本当に凄かった。
風が涼しくて陽射しも柔らかかったから暑くもなかったし、素敵な空間に居られたのだと思う。
「綺麗な音色だったな」
ケイの言葉に頷くことで返事をすると、ケイも満足そうに笑った。
文化祭は吹奏楽の演奏が最後の演目だったようで、一般参加者は帰宅の時間だった。私達は手を繋いで駅に向かう。
赤い夕日が眩しくて、私は俯きながら同意した。
「やっぱりビショップも学校に行きたいか?」
「……」
正式に通った事が無いから何とも言えないけれど、私は人と話すのが苦手だし、きっと集団行動は向いていない。
皆楽しそうに話をしてはしゃいでいた。私とはまるで違う。
ケイは後ろを振り向いて、笑った。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ」
そう言いながらも楽しそうなケイ。
私も振り返った。
だが見える物は何もなかった。
地面についた影。
私の影はケイよりも短くて、それでも影の方が私よりも成長している。
ただそれだけ。
ケイは笑みを浮かべて私を見る。
赤い夕日を浴びて影は濃くなっているのに、ケイは握ったら壊れてしまうんじゃないかと思わせる儚なさを感じさせた。
「私達の家に帰ろう、ビショップ」
夕日の中でケイは笑っていた。
〜戯言〜
問題は私が勝手に考えた物なので「はぁ?」ってなっても大目に見て下さい。
高校の文化祭で、犯人捜しであんな物は出ません。
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