ハリポタ その他 | ナノ
執着と拒絶
「リドルおはよう!今日も愛しているよ!」
毎朝、朝食の席で言われる台詞。
もはや聞き慣れすぎて、なんとも思わないよ。
その証拠に周りは騒ぎもしない。
そして僕も僕で、愛を伝えに来た女に目を向けることもなくトーストにバターを塗る作業に専念しながら朝の挨拶を返す。
「おはよう、ミス.リキ。僕は君を愛していないよ」
あっさりと返した言葉。
それに傷付きもしないリキは僕の正面の席に腰を下ろす。
「それは残念。明日に期待するよ」
リキは自分の皿に朝食を盛っていく。
「明日も変わらないよ」
僕はティーカップを傾ける。
熱めの紅茶が喉を潤した。
今の時期に合わせた紅茶は桃の香りがして、美味しい。
「明日には変わるかもしれないよ?」
皿に朝食を盛ったリキは着席して、ナイフとフォークを手に厚切りベーコンを切る。
「変わらないね」
「明日のことは誰にも分からないはずだから、断定するのは不可能だよ」
毎日繰り返す会話が終わったからだろう、口にベーコンを入れて咀嚼するリキ。
僕も紅茶を飲み干して席を立つ。
リキはまたねと言うけれど、僕は無視をした。
これもいつもの事だから、リキも何も言わないし周囲も何も反応を示さない。
「リドル様、煩わしくはないのですか」
そう言ってきたのは、将来の為にと手下に取り入れた男。
忠誠心は人一倍強く、その分手綱はしっかり持っていなければ僕に害があると思わしき人間を簡単に消そうとする。
こいつにかかれば、リキは再起不能になるまで心身共に傷付けられるだろう。
「煩わしいが、有害ではない。放っておけばいい」
毎日言うのも、今の内だ。
あいつだっていつかは飽きるに決まっている。
その時には、やはり愛だ何んだと毎日言う女もすぐに気が変わるのだと笑ってやるつもりだ。
それに、僕は将来ヴォルデモート卿となる。
周りに隠しもせず公に僕へと好きだ愛していると言っているリキは、将来苦しい立場に立たされるに違いない。
それを見てやるのも、愉快だろう。
「あなた様がそう仰るならば」
相手は不満そうに言った。
こいつにとって僕の言葉は絶対だから、例え不満があっても勝手な行動は取らない。
そう分かっているから、僕はそれ以上何も言わなかった。
照りつける太陽の下に踏み出すと、目の前が一瞬ホワイトに染まった。
ぴゅうと風が吹いて、色付き始めた葉を揺らす。
「おはよう、リドル。今日も愛しているよ」
約3ヶ月経った今も毎朝変わらず、同じ言葉を紡ぐリキの口。
もはや朝の挨拶となりきっている。
「おはよう、ミス.リキ。僕は今日も君を愛していないよ」
あっさりと返した言葉。
それにやはり傷付きもしないリキは僕の正面の席に腰を下ろす。
「それは残念。また明日に期待するよ」
リキは自分の皿に朝食を盛っていく。
今朝はサラダを中心に取っていて、ダイエットでも考えているのだろうか?
「明日も変わらないよ」
僕は栗のジャムをクラッカーに塗る。
甘ったるいそれは朝食とは言えないかもしれないけれど、食後のデザート感覚で食べるにはうってつけだ。
「明日の事は明日にならないと分からないよ。ところでそれは何?」
皿に朝食を盛ったリキは、フォークでサラダを突き刺す。
「栗のペースト」
「へぇ。美味しそう」
毎日繰り返す会話が終わったからだろう、サラダを咀嚼するリキ。
僕はクラッカーを食べ終わって、口内に残る甘ったるさを流し込むように紅茶を一気飲みする。
さて、今日も退屈な授業に顔を出すか。
立ち上がった僕にリキはまたねと言うけれど、僕はいつも通りに無視をした。
「ヴォルデモート卿」
そう声をかけてきたのは、忠誠心はあるけれど頭が足りていない男。
第一線で活躍してもらう捨て駒に最適な存在だ。
「ここでその名前を口にするな」
「申し訳御座いません。ところで、約3ヶ月経ちましたが、あの女、如何致しましょうか?」
「手は打ったさ」
女から人気がある男にリキを口説くようにと言った。
いきなり口説くのもおかしいだろうから、今は水面下で活動をしているはず。
いつまでも振り向かない男を相手するより、自分を好きだという男に流れるのが人の心というものだ。
一回告白されただけで他の男に転ぶのか、それとも何回か告白されてから転ぶのか、こちらの陣営では賭けをしている。
さて、何回であいつは滑落するだろうか?
「リドルおはよう。今日も愛しているよ」
席の隣にマフラーや手袋を置く毎日になって久しい。
「おはよう、ミス.リキ。僕は今日も君を愛していないよ」
あっさりと返した言葉。
それにやはり傷付きもしないリキは、僕の正面の席に腰を下ろす。
その隣に僕が指示を出した男が腰を下ろした。
お前、何を手間取っているんだ。
早くこの厄介な女を口説き落とせよ。
賭け事もこんなに長引くと思っていた者は誰もいなくて興醒めになっているのだ。
睨み付けると、男は少し顔を青褪める。
「リキ、俺は今日も君を愛しているよ」
「そう。私はあなたの事を愛してもいないし好きでもないよ」
リキはここ毎日さらっと厳しい事を言う。
こいつ、情け容赦ないな。
僕でさえリキにはオブラートに包んだ発言しかしないのに、リキは何に包むでもなく本心をあっさりと言ってのける。
「リドル、また明日に期待するよ」
ナチがそう言うと、隣の男も、俺も明日に期待しているよ、と情けない発言。
お前は鸚鵡返ししか出来ないのか。
リキの皿を盗った男はどれが食べたい?とリキに問う。
リキは毎朝好みが変わるみたいで食べる物も規則性が無いから、勝手に皿に盛ってエスコートするのは不可能なのだ。
男も良いところを見せられなくてさぞかし落ち込んでいるのだろう。
リキは面倒そうに顔をしかめて、近くにある未使用の皿を取って、そこに自分が食べたい物を盛り付け始めた。
靡かないリキに、男の無理矢理上げた口角がヒクつく。
今朝はスープにサラダにキッシュ。こってりした物が好みのようだ。
「明日も変わらないよ」
僕はストレートティーを飲んで、立ち上がる。
女一人落とせない男を見ると、情けない表情。
女にモテる百戦錬磨の男のはずなのに、リキには全く効果がない。
情けないったらないね。
「未来なんて誰にも分からないもの。だからリドルも、もしかしたら私の事を好きになるかもよ」
リキがニヤリと笑って言う。
その笑いが癪に触った。
「聞き飽きた」
それだけ言って、その場を離れる。
またね、と言われてやっぱり無視をした。
早く僕に好きだとか、愛しているだとか言うのをやめてくれ。
君の言葉はとても軽いのに、それを誠だと思ってしまう。
愛だなんてくだらない。
僕の本心も知らず、よくそんなことを言えるものだ。
雪が溶けて、大地は淡い緑に染まる。
天井にかけられた魔法も晴天の清々しい状態を表していて、冬が去ったのだと実感する。
「おはようリドル。今日も愛しているよ」
セーターを脱いだリキの隣に男はもう来ない。
3ヶ月間頑張らせたが、功を奏する事が無かったのでこれ以上は無駄だと思ってやめさせた。
男はリキを落とせなかった事に躍起になろうとしたけれど、在学中に犯罪者になられると厄介だから身を引くように厳しく言っておいたのだ。
もしあの時に制さなければ、今頃リキはどうなっていたのだろう。
「おはよう、ミス.リキ。僕は今日も君を愛していないよ」
「それは残念。明日に期待するよ」
僕の前に着席して、今日はサンドウィッチを皿に盛っている。
それと春野菜のスープも。
君は本当によく食べるね。
「……」
明日も変わらないよ、と言えばいつもの会話になる。
そう、毎日の繰り返しになるのだ。
けれど僕はうんざりしている。
君と約9ヶ月、同じことを毎日毎日飽きもせずにループするのはこりごりだ。
「ねぇリキ、君は本当に僕が好きなの?」
たまらなくなって、いつもの言葉以外を口にする。
リキは瞬きをして、僕をじっと見てきた。
僕が毎日の均衡を崩すと思ってなかったのかね。
おあいにくさま。
「私の愛は全く伝わっていないの?」
「朝の挨拶になっているからね。そこに恋愛感情を見出せない」
「うーん。リドルの為ならなんだってやりたいってレベルの愛情だよ」
「じゃあ死ねる?」
「それは無理。死んだらリドルを愛せなくなるから」
「なんだってやりたいって言ったくせに。嘘吐きだな」
「私は生きてリドルを愛したいからね。人の命が関わるのと、リドルに近寄れなくなる以外のお願いなら聞けるよ」
「なんだって、ではないね」
「勘違いさせちゃったねごめんごめん」
軽い謝罪。
やっぱりリキの言葉はどれも軽くてうんざりする。
まるで僕の中身を見ているみたいだ。
「君は僕を愛してはいない。周りが囃し立てるから、君は僕を愛していると勘違いしているだけだ」
「誰も私にそんな話題をふってきたりはしないよ。リドルは人気だからね、私は女子から煩わしがられてる」
「そこだよ。君は人気があるトム・マールヴォロ・リドルに疑似恋愛しているだけだ。舞台俳優に熱を持つのと同じだね」
リキはううん、と首を横に振る。
何が違うというのだろうか。
リキのこの約9ヶ月は俳優を追っかける女たちと変わらない。
「じゃあリドル、こうしよう」
リキは提案をしてくる。
迷惑ばかりかけられている僕がリキの提案に了承すると思っているのか。
「私はリドルが好きだからずっと好きだと言い続ける。それで一年…後3ヶ月だね。後3ヶ月経ったら、私の本気を見せてあげる」
「君の本気?」
「うん。私の本気」
「どうぞご勝手に」
「勝手にしますとも」
リキはニヤリと笑ってスープを飲む。
9ヶ月耐えたのだから、あと3ヶ月くらい耐えられる。
こいつの本気が何を示すのか、見届けてやろう。
リキの告白攻撃から一年が経った。
リキはいつもの調子で、いつも通りの言葉を吐いた。
「おはようリドル。今日も愛しているよ」
リキは僕の前に立ったまま、座ることはない。
僕をじっと見下ろして、笑顔を保っている。
その笑顔の奥では何を考えている?
「僕は愛していないよ」
それだけ告げると、相手は僕のフォークを握る手を掴んで僕を立たせようとする。
なんて身勝手な動きだ。
この僕に命令するつもり?
「二人きりで話したいの」
「今日が最後だからね、良いよ」
君のわがままを聞き入れてあげよう。
最後の弁解に耳を貸してあげる。
リキに連れられるのは癪だから、手を振りほどいて僕が先を歩く。
リキは黙ってついてきた。
そこは夏の陽射しから僕を守ってくれる天蓋と、風の通りを一切邪魔しない横壁のない空間。
朝だからだろう、人の居ない中庭だ。
「で、話って?」
「リドルに聞きたいことがあるの」
「応えられる範囲でなら、良いよ」
リキは少し緊張した風に、すうっと息を吸い込んだ。
さて、なんて言葉が出てくるのか。
「何でリドルは私が愛してるって言うたびに、そんなはずないって思うの?」
「は?」
「始めて告白した時、呆れではなくて、疑いの表情だった。何で?」
そんな表情をしただろうか?
僕は、呆れていたはずだ。
公衆の面前で僕に告白してきたリキに呆れただけで、疑いの表情なんてしていないはずだ。
「愛されるはずがないってリドルは思ってる。私がどれだけ好きだと、愛していると言っても全く聞く耳を持たないのは、愛されるはずがないって思い込んでいるからでしょ?」
「ふられ続けた腹いせに、僕のせいにしないでくれないか?僕は君の妄言に付き合うためにわざわざここに来たんじゃない」
聞いていられない。
僕に愛について説法でも解くつもり?
ふざけるな。
愛に何の価値がある。
愛がなくたって生きていける。その証拠が、この僕だ。
僕は愛されなかった。それは認めるさ。
孤児だからね、親からも愛されずに捨てられたのは事実だよ。
「君がもっと面白いことを言うと期待した僕が馬鹿だったよ」
「リドル!」
引きとめようと大きな声で僕の名を呼ぶリキ。
煩い。
お前の話に付き合うつもりはもう無いんだ。
「リドルが何をしても、リドルがリドル自身を嫌っても、私は愛し続けるよ」
「もう君とは言葉を交わすのも煩わしい」
「怒っているのは図星だからでしょ!」
「煩わしいと言っている!」
お互いに声を張り上げる。
最早、威嚇だ。
さぁっと風が吹いてリキの髪を、襟を、スカートの裾を揺らす。
リキは口を一文字に引き結んで、喉を動かした。
きっと言葉を飲み込んだのだろう。
それでいい。
もうそれ以上喋るな。
そう、思っていたのに、背中にかけられる言葉。
「リドルが人を傷付けて殺めても、私は愛し続けるから」
リキの言葉にゾッとする。
こいつは何を知り得ているのか。
けれど、ここで振り返ってはいけない。
リキと交わす言葉などないと、態度で示さなくてはならないのだ。
数年後、闇の帝王となったトム・マールヴォロ・リドル。
彼の前に出てきたリキ・シキが闇の帝王に対して愛しているよ、と言ったのはまた別の話。
***
まちこ様、お祝いメッセージ及び「リドルを愛する女性と、愛を受け入れられないリドル」というリクエストをありがとうございました!
リドルが誰からも愛されていないという本質を見抜き、慈母のようにリドルを愛する女性と、それが全く理解出来なくて拒絶するしか方法がないリドルの物語を書かせていただきました。
原作でも、リドルとハリーの違いは愛されているか愛されていないかだと言われていて、本当はリドルは愛されていたけれど受け入れられずに、結果として「愛されていない」リドルとなってしまったのではないかなと考えています。
もしも愛情に気付いて、愛される事を理解出来ていたら…という、たら、れば、の人生を歩んできたリドルを思うと切なくなりますね。
気が付いたら6周年を迎えた本サイトではありますが、今後ものんびり運営して行きたく思います。
よろしければ、今後ともよろしくお願いいたします。
お祝い及びリクエストをありがとうございました!
2013/12/3
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