ハリポタ その他 | ナノ
変わる世界に君
変
化
す
る
世
界
で
変
化
し
な
い
君
を
望
む
彼女の髪は着実に長くなっている。
元は肩口あたりで結ばなくて済んでいたのに、今では髪止めで一つに束ねている。
背も四肢ものびている。
両手で抱えるように持っていた教科書は、片手で持つようになった。
知識も豊富になっている。
表現方法は豊かになり、難しい問題も難無くこなせるようになった。
時が止まらないだろうか。そう思う事は日々増えてきている。
時を止めてしまおうか。そう思う事も日々増えてきている。
「リキー」
彼女の名前を呼ぶ女。
女はもう完全に女で汚れた人間で、リキもいつかあのような女になってしまうのだろうか。
睡眠欲でも食欲でも無い、新たな欲を持ち始めるのだろうか。
汚れてしまうのだろうか。
女になってしまうのだろうか。
そういう知識を得てしまうのだろうか。
男に快楽を感じるのだろうか。
彼女は笑って友達と話す。
その顔を痛みの中の快感に歪めるようになるのだろうか。
そんなの、嫌だ。
彼女は何も知らない、汚れの無い、綺麗な存在でなくてはならないのだ。
「またね」
彼女が友達に手を軽く振って別れた後、僕の方に歩いて来る。
歩くたびに髪が揺れる。
床を見ていた瞳がふいに僕に向けられた。
澄んだ、曇り一つ見受けられない瞳が僕を映す。
それは僕にとって、快感だ。
僕は汚れているから、快感を感じる。
「やぁ、リキ」
彼女は、リキは笑った。
僕が声を掛けるだけで純粋な笑みを浮かべてくれる。
その笑顔が好きだ。
「こんにちは、リドル」
「ねぇリキ」
「何?」
首を少し傾げて、目を細めてふわふわと綺麗に笑う。
悪を知らないから、汚れを知らないから、裏も表も無く綺麗に笑えるのだろう。
僕のような汚れた人間を前にしても、汚れる事なく綺麗に笑えるのだろう。
「リキ、こっちに来て」
「何かあるの?」
「リキにだけ見せたい物があるんだ」
そう、本当に、君だけに見せたい物がね。
リキは不思議そうな顔をして、でも疑いもせずに僕について来た。
城を出て、更に足を進める。
「ねぇリドル、何処に行くの?」
「あの向こう」
へぇ。と声を漏らして僕が示した向こうを見た。
「リドル」
何?と聞く前に、手を握られた。
「何?」
純粋な彼女に僕の汚れた手が触れている。
冷静ではいられないくせに冷静を装う。
リキが汚れてしまうと焦ったが、どうしても僕はリキの手を振り払えなかった。
「リドルは足が長いから歩くのが早いんだよ。だから」
僕も手を、そっと握り返した。
しっかり握り返したかったけれど、力を入れたら形が壊れてしまう気がして弱くしか握れない。
彼女は人の形をした、とても儚いものに思える。
触れると壊れてしまう硝子細工という喩えは、違う。
彼女は暖かいから。
甘い物に喩えるのが良い。
彼女は僕にとって甘美な存在だから。
綿菓子、だろうか。
ふわふわして、口に含むとすぐ溶けて形が消える。
僕たちが手を繋いで向かった先には、花畑がある。
すべてが咲き誇り、甘い香りが鼻腔を刺激する空間。
リキは嬉しそうにした。
「こんな場所があったんだ」
「うん」
「綺麗」
でもリキは、花畑に足を踏み入れる事は無かった。
「どうして入らないの?」
「え?入った方が良かったの?」
「そういうわけではないけど」
彼女は目を閉じて笑って、天を仰いだ。
途端に風が舞い上がり、花弁も風に乗り舞い上がる。
淡い赤、黄色、朱色、白、様々な色が空を舞う。
「なんかね」
リキが口を開く。
「花、綺麗でしょ?その中に足を踏み入れたら、踏んじゃうでしょ?花、散っちゃうから足を踏み出せない」
「そっか」
僕はリキを見た。
リキは曇りのない瞳に僕を映した。
花をいたわる君が好き。
でもそんな君も、大人になれば花を踏む事に躊躇はしなくなるだろう。
変わらないで欲しい。
今のままでいて欲しい。
花をいたわり綺麗に笑う、そんな君が好きだから。
時が止まらないだろうか。そう思う事は日々増えてきている。
時を止めてしまおうか。そう思う事も日々増えてきているのだ。
そしてその思いは、今、花をいたわり僕を綺麗な曇りのない瞳に映し屈託無く笑う裏表の無い君を見て、強くなってしまった。
リキを花畑と僕で挟む。
リキは僕の方を向き、花畑に背を向けた。
彼女の背中で色鮮やかな花弁が宙を舞う。
僕には、この世の物とは思えないほどその姿が美しく思えて。
髪が風に舞う。
乱れる黒髪。
髪を気にしないのは、まだ彼女が幼いからだろう。
「目を閉じて」
「どうしたの?」
リキは笑って、僕に言われた通りに目を閉じてしまう。
「どうしたのリドル」
「良いから」
杖を握る手が震える。
まっすぐに彼女に向けた。
目を閉じたまま、笑っている。
「リキ……」
「なぁに?」
「好きだから。愛してるから」
だから、君をこのままに。
息を吸う。
死の呪文を唱えようとした時、
「うん。私も好きだよ。バイバイリドル」
バイバイ。
その言葉に驚いた。
別の言葉を言いたかったのに、僕の口は勝手に呪文の形に動いてしまう。
待って。
待って。
まだ死なせないで。
いつから気付いてた?って訊かなくてはいけないんだ。
彼女が後ろに倒れる。
花畑に倒れる。
花弁を散らして倒れる。
黒髪が、色とりどりの中にたゆたう。
花の中で眠る彼女は美しい。
でも、僕の問い掛けに答えてはくれないし、笑いかけてもくれないし、澄んだ瞳に僕を映してもくれない。
僕は初めて、変化するしないでは無く、時の中で生きていた彼女こそが大切な人だったのだと気付いた。
見た目が美しいとかでは無く。
でも、気付くには余りにも遅すぎた。
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