モノノ怪 飽和する世界 | ナノ
仕事
年末になると来客が増える。
それは売買をする為ではなく、品の引き取り手を探してなのだが。
しかし同じ村の者は毎年行われる掃除のおかげで、要らない骨董品を売りに来たり、引き取って欲しいと来る者はまず居ない。
では誰が来るのかと問われれば、此処では見ない人間、と答えるのが適切だろう。
わざわざ遠路遥々骨董を持って来る者。
近場で売るなり引き取ってもらうなりすればよいのにと思うが、やはり遠出してくるだけあって運ばれてくる品はいわく付きの物ばかり。
何故この冬の季節に南側の町へ行くでもなく、冬は積雪で隔離された空間となるこの地へ訪れるのかと以前問うた事がある。
その時は、余り嬉しくない解答をもらった。
何でも「他の骨董屋では受け取ってもらえやしませんが、久倉さんなら変な品を喜んで引き受けて下さると聞いて」だそうで。
一体誰がそんな嘘を流したのか。
変な品……いわく付きの品を喜んで受け取った事は唯の一度も無い。
捨て場も無い品物を背負って長い旅路を歩んできた客人を思えば、引き取らずにいられないだけだ。
現在店にいる客は品の多さに、繁盛していますね。と口を開いた。
「品が増える一方で売れはしませんから、困っているところです」
「しかし店主は医者もやっていると、小耳に挟みましたが」
「骨董を扱うだけでは生計が成り立ちませんからね、本から得た知識で薬草を煎じたりする程度ですよ」
骨董屋だけあって此処は様々な書物や巻物に溢れている。
店に客が居る方が稀な日々なので、暇を持て余して品を漁る事はよくある事だ。
そんな生活を送っていると、自然と医学書にも触れる。
そうやって暇潰しに読み漁って得た知識を少し披露したのが始まり。
周りの者はそれを見て、喜んで私を医者の様に扱い始めた。
この村には医者が居ないから、正規の医者ではないが、それなりに重宝されている。
しかしそれで金を稼いでいるわけではない。
気紛れでやっている行為なのだから、村人を診るのに見返りを求めてはいない。
あくまで気持ちとして、食物や調味料等の生きるのに必要な物を分け与えてもらうくらい。
おかげで金銭に触れる事が余り無いから、感覚が狂う。
「憑き物は棄てたら祟られそうで、棄て場に困っていたんですよ」
「そうでしょうね」
「それを引き取ってもらえるのは、本当に助かります」
「来店されるお客様は皆そう仰いますよ」
「やはりそうですか」
「えぇ」
品定めをして、値を考える。
品としては一級。
しかし九十九神になっている。
「……引き取って、もらえませんか?」
客がおずおずと問うてくる。
「引き取りますよ。今、値を考えていたところです」
「値をつけられるのですか!?」
客が身を乗り出して驚愕の色を隠さずに問うてくるから、私は頷いて返事を返した。
憑き物だからと云っても品は品だ、値をつけずに引き取るのは失礼だろう。
「引き取ってもらえるだけで恩の字なのですから、お金は良いですよ」
「そう言っていただけると、此方としては有難いのですがね」
「お互い得をしているんです。金はいりません。引き取ってくれて、ありがとう御座います」
「どういたしまして」
客は立ち上がり、軽くなった荷を背負って暖簾を潜り、意気揚々と明るい陽の元へと出ていった。
また品が増えてしまった。
店の棚にも倉にも品が陳列しているのだが、これは何処に置こうか。
倉掃除も始めなくてはならない時期だから、当分は店先か。
「終わり、ましたか」
「あぁ、終わったよ」
奥から隈取りの成された顔を覗かせる男は、置いていかれた品に視線を移した。
新顔の品を置く場所を作る為に、棚に並べている物をつめる。
困ったな、此処に並べては窮屈だ。
そろそろ店の棚に置くのも限界か。
「それは」
「九十九神化した品だよ」
「前も、そうでしたね」
「それだけ物が大切に使われているという証拠さ」
「大切に使った末、此処に来る、と」
「そしてお蔵入りだ」
「それで何個目、ですか」
「数えるのは途中で止めたから分からんな」
倉には品が沢山ある。
年末には更に増える。
その中に九十九神は何体居るのか、最早考えない方が良いと云う結論に至っている。
「早め早めと言うしな、今からでも倉掃除を始めるべきか」
「頑張って、下さい」
「他人事では済まさんぞ、薬売り」
「客、ですよ」
「タダ飯食いのな」
「……」
「食った分は働け」
「嫌だと言えば、通用しますか」
「しない」
「力仕事は、苦手、ですよ」
「重い箱を背負って旅する男が何を言う」
「品に傷つけるかも、しれません、よ」
「丁寧にやって失敗したなら、とやかく言わん」
「手を抜いた結果、ならば」
「それ相応の何かが生じる」
「……」
「諦めろ」
倉の掃除は一人では厳しいので、いつもは近隣の人達が手伝ってくれるのだが、今回は男が居る。
二人で早めに始めれば、周りの手を借りることなく年内に終わらせられる筈だ。
近隣の者だって自分の家の掃除やら何やらがあるだろうに私の家を手伝ってくれるのが、いつも心苦しくてならなかった。
今年は男も居ることだし、周囲に甘えずに済ませられると思うと気が軽くなるが、この男はまったく乗り気ではない。
このままでは無理矢理手伝わせたところで足手まといになるだけ。
仕方無い、何か相手にも利益をやるとしよう。
「物によっては、交渉無しで持っていって構わんよ」
「物によっては、ですか」
「当たり前だ。倉には売りたくなくて奥にしまっている物も有る」
「西明が執着する物が有る、と」
「執着はしていない。只、世に出すのが憚られる品等だ」
「それはそれは」
物で釣ってやろうと考えて出した話題だったが、どうやら男の興味を刺激したらしい。
別に構いはしないが、そんなにその品が気になるのか。
困った男だ。
「倉の中は、書物の部分しか見ていなかったので、気になりますね」
「ほぅ」
「何か?」
「薬売りのことだから、倉の鍵を渡した時点で好きに中を詮索しているかと思っていた」
「心外、です」
「冗談だ」
男は此方が許した範囲でしか活動をしないし、勝手に人の領域に踏み込んだりはしない。
現に倉の書物を寝室に持ってきても、読み終えれば元あった場所に戻す。
私には癖があって本の並びにはある法則を持たせているのだが、男は律儀にそれを守って戻してくれるのだ。
その気遣いが、嬉しい。
だから私が嫌がるだろう私物を漁る行為をしたりしないと、此方は確信めいた信頼を持っているのだ。
そうでなければ、家に招き入れることも、倉の鍵を渡して自由にさせることも無い。
「思う存分に掃除しながら漁ってくれ」
「漁りながら、掃除をさせていただきます、よ」
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