ああ、来るんじゃなかった。
頭が酷く痛むのはお酒のせいか、もしくはこの隣の男のせいか。

「えっへへー」

ビールのジョッキを持ちながら、身体をふらふらと横に揺らしている音也。
その姿はまさに酔っ払いそのもの。

「久々にさ、二人で飲みに行きたいな!」とお誘いを受けたのは昨日の夜。
多忙を極める音也と飲みに行くなんて滅多にできないことで、そんな中でのお誘いだったから素直に嬉しかった。
しっぽり飲んでお互いの近況でも語らってあわよくばそのまま…。
なんてちょっと恥ずかしいことを考えたけど、恋人と酒を汲み交わすんだ、それくらいは許して欲しい。

なんて今日という日を楽しみにしていた自分は馬鹿だった。
大馬鹿野郎だ。

「っうぇ、ちょっとお、のんでるう?」
「はいはい飲んでる飲んでる」

顔を真っ赤にさせてへらへら笑う音也はアイドルの原形なんてどこにもない。
ファンの子が見たら幻滅するだろう。(もしかしたら可愛いって言われるのかな?うーん、分からん)

「グラスがからだぞお、のめのめえ」
「ちょ、こら、」

音也のビールジョッキを無理矢理口に持ってこられ、そのまま傾けられる。

(ビールは無理っ)

抵抗しようと身体を引いたせいで、ふらふら音也のなってない支えのビールジョッキからは炭酸が抜けた不味いビールが私の口から溢れて顎を伝いそのまま畳を濡らした。

「なにすんのっ」

おしぼりを取って口を拭いたあと、ビールのシミを作った畳にもおしぼりをとんとんと押し当てる。
ひやっ、と冷たい感覚が胸元にして、見てみると着ていたブラウスにまでそのシミは存在していた。

「もう、服まで濡れちゃったじゃん!」

全ての元凶である酔っ払い音也を睨みつけると、一方の音也は変わらずだらしなく頬を緩めてへらっと笑った。
むかつく。
可愛いなんて、ワンコキャラなんて認めない。
こいつは今はただの酔っ払いだ。

私は心を鬼にして音也が未だに手放さないビールジョッキを奪った。

「ああっ」
「ああっじゃない!音也はもう飲んじゃダ、」

ダメ、と言いかけた時、胸元に違和感。

「あはは、おっぱいぬれてる!えっちー」

ブラウスの襟元から熱い手を突っ込んできた音也。

「っこの、馬鹿犬!!!」

容赦なく音也の手をひっぱたくと、へらへら笑いながら身体をゆっくり倒し、そのまま畳の上に伸びてすーすーと寝息をたて始めた。

(…寝やがった)

昨日の夜から今日までずっと飲みに行けることを楽しみにしていた音也。

(……はあ、仕方ない)

むかつくことに可愛い寝顔を見せる音也の髪を撫でて、私は中途半端に残った枝豆を片付け始めた。




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