トキヤの様子がなんだかおかしいなって思ったのは、珍しく夜ご飯のおかずを外で買ってきた日から。

カロリーを考えて自分で料理をするトキヤが惣菜を買ってきた、つまり何かあって料理をしたくなかったんだろうなー。
とか思って触れなかったのに、隔週で買ってくるようになったんだから驚いた。
確かにあのお店の惣菜は美味しい。
俺はお袋の味ってものはよく分からないけど、多分ああいうのを言うんだと思う。
前に買ってきた筑前煮がすごく美味しかった。
だから俺も別にそのお店の料理が嫌ってわけじゃないんだけど、自炊大好きなトキヤがこんなに買うっておかしくない?

『ねえ、最近ここのお店の惣菜買ってるけど、なんかあるの?』

鯖の味噌煮をつついていたトキヤの手が止まった。
ちらりとこちらを見る。

『……いいえ?』

それだけ言ってトキヤはまた箸をすすめたけど、長いこと同居人をやってる俺には分かる。

(絶対なんかある…!)

まさかそれが恋愛関係だなんて思わなかったけどね。






その日は突然やってきた。

ガチャン、という物音が玄関からしてトキヤの帰宅を知らせた。

「おかえりー」

ソファの背もたれから後ろを覗くと、例のお店の袋を持ったトキヤがいた。

「今日は何買ったの?」
「……肉じゃがです」
「へえ、うまそう!どれどれー」

トキヤから袋を受け取っていそいそと中を開く。
ゴロゴロと大きなじゃがいもに糸こんにゃくもたっぷり入っている。

「おーうまそお!……トキヤ?どしたの?」

なんだかぼやぼやしているというか…。

「…いえ、別に…」

(…別にって顔じゃあないけどなー)

それから炊いた白米と昨日(トキヤが)作ったお味噌汁、お気に入りの漬け物を俺が用意してる間にトキヤが肉じゃがを大皿に盛っていた。
準備が終わって俺のいただきまーすを合図に夕食が始まる。
いつも通りゴールデンタイムのバラエティ番組を見ながら和やかな時間を…って思ってたのにトキヤときたらなんだかケータイを見てそわそわ。
まるで誰かからの連絡を待ってるみたいだ。

気になるけどどうせ教えてくれないだろうし、トキヤから言ってくれるまで待とう。
うん、俺成長したっ。

ごちそうさまもきちんとして、俺は食器類を全部キッチンに持っていく。
今日は俺が食器洗い担当、トキヤは風呂洗い担当だ。
ふんふん鼻歌を歌いながらジャブジャブと食器を泡立てていく。
前にトキヤから注意されたから洗剤は少な目に。

プルルルルル、プルルルルル

水音でかき消されそうになった初期設定のままのケータイの着信音。
ダイニングテーブルの上のトキヤのケータイからだった。

(お?待ち人からかな?)

簡単に手を拭いて、風呂場にいるトキヤに声を掛ける。

「トーキヤー、ケータイ鳴ってるよー!」

ドッタンバッタン。
ガッシャーン。

風呂場から物騒な音を鳴らしながらトキヤが大慌てで戻ってきた。

「ケッ、ケータイ!私どこに置きましたっけ!?」
「そこ!テーブルの上!」

こんな大慌てなトキヤ初めて見たってくらい珍しい。
うわ、手も足も拭かないできちゃったの?
床がビショビショじゃん。

仕方ないなぁ、とトキヤの代わりに洗面所から洗うためにと適当に脱いでいた俺のTシャツを足で引摺ってそのまま床を拭いた。

トキヤはというとリビングのど真ん中で両手でケータイを握りながら硬直していた。

「いえ、こちらこそすみません突然 ……えっ、本当ですか?あ、その、はい、嬉しいです…。……あ、では、メールで……そう、ですね。口頭で……わ、分かりました。では、また。おやすみなさい……」

ゆっくりとケータイを耳から離し、はあーと大きく息を吐いた。
強張ったように固くなっていた肩が溜息とともに落ちる。

「トキヤ、だーれ?」
「……」
「トキヤ?」

ケータイを持ったままのトキヤを不思議に思って、真正面に立って彼の俯いた顔を覗いた。
ら、顔を真っ赤にして唇を真一文字に結び、今にも泣き出しそうな顔をしたトキヤがいた。

「えっ、どうしたの!?大丈夫!?」
「わ、私、どうしましょう…」

珍しく震えた声を上げるトキヤに俺はびっくりを通り越して心配になった。

「ど、どうしましょうって言われても何がなんだか…!俺に相談して!一緒に解決しよう!?」

どんな辛い出来事があったんだろう。
俺は真剣に、真剣にトキヤの為を思って彼の肩に手を乗せ、強くそう言った。

そうしたら、恐る恐るというようにトキヤは震える唇を開いて事のあらすじをゆっくり話してくれた。

「…………」

(……………ただの惚気話!!!)




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