「音也ってさ、私のこと考えてシたりするの?」
「え、……え?」

真夏の陽射しと暑さに頭だけでなく耳までやられてしまったのだろうか。
勇気を出してそれなりに大きな声で尋ねたのにまさか聞き返されてしまうとは。
まあ、聞き返したくなる気持ちも分からなくもない。
自分の彼女が暑さで頭がおかしくなってこんなアホみたいな下世話な質問をしてきたと思っても仕方がないのだから。

「うん、だからね、音也は私のこと考えてシたりするの?」
「……それ、は、オナニーとか、そういうこと…?」
「うん」

私の部屋で、買ってきたギターの練習本をエアーギターで鼻歌混じりに練習していた音也には唐突な質問だったように思う。
だらだら、首筋を伝う汗はこの冷房がバッチリ効いた部屋では暑いからかいたなどとは言い訳できない。

「……しないよ」

音也は頬を赤くして私の手元を見てそうポツリと答えた。

「ふーん、そっか。じゃあ音也は私以外の綺麗で胸の大きいお姉さんの雑誌とかビデオを見てシてるんだ。ふーん」
「え、ちょちょちょちょっと待って!」

私は拗ねたような口振りで読んでいたファッション雑誌に視線を落とせば、単純な音也は慌てたように私の側までやって来た。
ちらり、とその赤い双眼を覗き込めば動揺を隠せず瞳が揺らぐ。

「なに」
「えーっと、だからぁ、そうじゃなくてぇ…」

音也には珍しく歯切れの悪い返答。
そわそわしているのは意味もなく髪を掻き毟るその仕草からも明らかだ。

「……うそ。…いつも名前のこと考えてシてる」

赤くなった頬とへの字になった唇。
私はその答えに満足して音也に見えないところでにんまり笑った。

「どんなこと考えてるの?」
「えっ!」
「私の、どんな?」
「……今日の名前意地悪だ」

上目遣いで睨むようにこちらを見返す音也に、私は口角が上がるのを抑え込んで優しげな声音で言う。

「意地悪だなんて失礼な。むしろ優しいと思うよ?」
「どこがだよぉ」
「いつも音也が想像してること、ほんとにシてあげる」

途端ガバッと顔を持ち上げた音也は少ししたら頬をより赤く染めた。
一体何を想像したのだろうか。
言い出しっぺの私だが若干怯んでしまう。

「…ほんとに?ほんとに俺の言う通りしてくれんの?」
「うん。あんまり過激すぎるのはしてあげられないよ、危ないから」
「あ、うん!どこまでセーフかな…」

ブツブツ呟かれるマニアックなプレイの数々に身体がぶるりと震えた。
いつも私に優しくて、私のことを一番に考えてくれる音也のためにたまには音也の我が儘を聞いてあげたいと思い提案してみたが、これは少し雲行きが怪しくなってきてはいないだろうか。
私の顔があまりにも引き攣っていたのだろうか、音也は私の顔を見て我に返り「あっ、最初だし易しいところからね!」と慌てて言った。
優しい、ではなく易しい、なのが余計恐怖した。

「じゃあ早速シャワー浴びて、」
「あ、待って!お風呂入らないでシよ?」
「え?汗かいてるし、そんな急がなくても…」
「名前の汗の匂い、好きだからいいんだ…」

えへへ、と照れたように可愛く笑う音也に一瞬キュンとしのは束の間。
初っ端から要求がヘビー級すぎる。

「そっか…はは、分かった。えと、じゃあどうしようか?音也指示出して」

持ち上げかけていた腰を降ろして音也に向かい合ってペタンとお尻をつけて座った。
音也はゴクリと唾を飲み込み、ええと、まずは…と緊張した面持ちで私にとっての死刑宣告を告げようとした。










「ちょ、痛っ」
「動くとダメだよ?余計締まっちゃうんだって」

後に悔いると書いて後悔。
今私は正にそれを体験している。

服を全て脱ぐように指示され、両手は背中の後ろで特殊な結び方で拘束されており、おまけに目隠しとして薄手のタオルを後頭部で結ばれた。

紛れもなくソフトSMだ。

「音也、痛いことやだよ?」
「うん、だいじょーぶ!気持ちいいことしかしないよ」

きっとニコニコ笑っているんだろうけど、その顔さえ今の私には拝むことすらできない。
視界が閉ざされたことにより、音也の息づかいや動く気配、扇風機の送風にさえ身体がビクリと震えそうで怖かった。

「っひ!」

急に右の乳首をぐにっと摘まれて思わず悲鳴を上げる。
同じように左側もクリクリと捏ねられて予測のできない快感に私は声を殺すことができなかった。

「ははっ、名前の乳首赤くなってかわいー」
「おと、や」
「んー?」

生返事をして束の間、ちゅうっと固くなった乳首を甘く吸われる感覚にじっとり湿度の高い部屋に晒された腰や背中がビクッと跳ねる。

「ひゃあ」
「いつもより感じてる?やっぱ視覚がなくなると他の五感が敏感になるんだね」

例えばココとか。

「ひィっ」

耳元にふっと息を吹き掛けられて、ビクビクと背筋が震えた。
あ、うそ、今のダメだ。
自分の身体に起きた事態に察した私はだらしなく力が抜け切っていた脚をぎゅっと閉じた。
どうか気付かないで、という願いも虚しく、音也は声を弾ませて「あはっ」と笑った。

「名前、足モジモジさせてどうしたの?見せてごらん」
「や、」

恥ずかしくて頭を横に振ってもそんなの聞いてもらえるはずもなく、音也は私の両膝を掴んで横に開いてしまった。

「ご開帳ー」
「バカっ」

これ以上ないくらいに足を開かされて私は羞恥のあまり瞳をギュッと閉じて歯を食いしばった。
正直目隠しをされていることで現実をこの目で見ることがなくて少しありがたかった。

「音也…?」

しかし異変に気付く。
足を開かされたはいいものの(よくはない)その開いた張本人である音也が何も言わないし何もしてこないのだ。
気配から動いた様子もなく、目の前にいることに間違いはない。

「音也、ねえ、」

呼び掛けても返事がない。

「音也ってば…」

足を開いたままのいやらしい格好でこのまま放置だなんて恥ずかしいにも程がある。
しかも、この状況を音也は黙って見ているのかと思うと…。

トロ…。

「っはぅ」

ダメ、ダメダメダメ。
考えちゃいけない、これは視姦だ。
目隠しをされて五感が敏感な状況で音也に私のいやらしいところを見られていると考えることで私が感じてしまうところを音也は楽しんでいるのだ。

「音也っ、もうやめて、」

もう、いいの?

「ッア」

鼓膜に低音が響いて、否応なしにピクピクと身体が跳ねてしまう。
もう嫌だと素直に開いていた足を閉ざせば、頭上から「あーあ」というわざとらしい残念がった声が降ってきた。

「いい子にしてられないんだ」
「いい子って、」
「そんな名前にはお仕置きが必要だね」

なに漫画みたいな台詞言ってるんだと思ったら、急に肩をぐっと掴まれてうつ伏せになるよう床に肩を押さえつけられた。
手は後ろで縛られているままのため体勢を立て直すこともできず、お尻だけは突き上げるかのように高く持ち上げた恥ずかしい体勢。

「ちょ、や、」
「名前、バックしたことなかったよね?俺、一回後ろからシてみたかったんだー」

ぐちゅり、と唐突に指を差し込まれ声にならない悲鳴を上げる。

「まだキツいか…ちょーっと待ってね」

突き立てた指をゆっくり抜き、今度は何をされるのだろうかと身を固くしていればソコに感じたのは柔らかな食感。
見えなくてもすぐに理解した、音也は私のソコ(しかもシャワーを浴びていない)を舐めているのだ。

「やっ、汚い、から、」
「んー?」

言葉では抵抗の色を見せても気持ちよくて振り払うことなどできない。
舌先を尖らせて入口辺りを擽られれば下半身の力は一気に抜けてお尻を高々と持ち上げたその恥ずかしい体勢のまま成す術なく声を漏らす他なかった。

「っん、もう、」
「…っは、ん、大丈夫そうかな」

先程よりも柔らかくなったソコに指をあてがわれぐちゅりと挿入される。

「もう一本いけるかな…」

と、節張った中指に添えられた人差し指もゆっくりと侵入してきた。

「っつ」
「ごめんね、すぐヨくするから」

ちゅっとお尻にキスをされれば擽ったくて身を捩らせる。
身体中にキスを降らせる音也に身も心も段々と絆されていき、理性が薄れていった私はうわ言のように早く早くと唱えた。

「ん、そろそろいっか」
「あっ、挿れ、て…っ」
「へへ、りょーかい」

固くて熱い音也のモノがクルクルと焦らすかのように入り口を擽る。

「あぅ、おと、やぁ」
「そんなに我慢できないんだ?じゃあ、おねだりしてよ、エッチにね」

顔を見なくても分かる。
今音也はすごく意地悪そうに笑ってるはずだ。
普段の穏やかな笑みや無邪気な笑顔とのそのギャップにヒクリと疼く。

「……音也の、おっきなおちんちん、私の、ココに挿れて、下さい」
「挿れて、どうして欲しい?」
「っ奥まで突いてっ」
「かわいいなぁ、ほんと」

ちゅぷっと音を立てて、その後はズブズブと簡単に飲み込んでいく感覚。
グッと奥まで届けばずるりとギリギリまで引き抜き、そうしてまたズシンと突いた。
私のイイところは熟知しているようで奥の気持ちいいところをグリグリと突かれればどう頑張っても声を抑えることはできない。

「んっ、あっ、あ、」
「ふ、名前っ」

いつもと違う音也の低く掠れた声に胸がキュンとときめいた。
あの朗らかで太陽みたいな彼がこんなエッチな声で名前を呼ぶなんて誰が思うだろうか。
私だけ、という微かな優越感が私の心を満たす。

「は、ぁう、ん、」
「名前、名前っ」
「おと、や…?」

おもむろに背中に覆い被されて肩甲骨の窪みにちゅうとキスをされて肩で支えながらも顔を持ち上げた。
見えないながらもなんとなく音也の様子がおかしいのが伝わって眉を下げる。

「?どうし、」
「あーダメ!やっぱダメ!」

突然わっと叫んだ音也はそのままぎゅーっと背中から私を抱き締めては、ムリ!ごめん!と愚図るように言った。

「え、なに、」
「俺から提案したけどやっぱり名前の顔見えないとやだ…抱き締め返してくれないのも寂しい…!」

そう言って後頭部のタオルの結び目をスルリと解き、背中で括られた紐も手こずりながらも解かれた。
久し振りに自由になった身体に少し痺れを感じながらも、音也の熱い抱擁のせいで身体を解す間もなくバックから正常位に身体をひっくり返された。
挿入されたままのため予想外のところを抉られて一瞬イきそうになったのは内緒だ。
久々に目と目を合わせた音也が目尻を下げて笑う顔にひどく安心感を覚える。

「へへ、やっぱ正面からがいいよね」
「音也…」
「じゃ、続きしよっか」

語尾にハートマークが付きそうなほど猫のような甘えた声で微笑み、その声音とは裏腹にぐちゅんといやらしく腰を打ち付けてきた。

「ひゃっ」
「やっぱいつも通りが、一番だね」

えへへっと笑う音也に、確かにその笑顔が見れないと私も寂しいなと段々と薄れる意識の中頭の隅っこでこっそりと思うのだった。




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