※トキヤがアイドルをやめてAV男優をしているとんでも設定。 正直、家で何度も練習した。 お鍋3つ分はその試作品で埋まってあり、私は当分肉じゃがのみをおかずに生活をしなくてはならない。 「一ノ瀬さん、できましたよ」 金色に輝くじゃがいも、鮮やかなにんじん、トロトロの玉ねぎと豚肉、それらに絡まる糸こんにゃく、そして彩りを考えていんげん豆。 「美味しそうですね」 「まあ…」 練習しましたから、とは言わない。 一応女である私に見栄を張らせて下さい。 一ノ瀬さんは嬉しそうに微笑んで、いただきますときちんと両手を合わせた。 ゆっくり口に運ばれるじゃがいもを私はじっと凝視する。 咀嚼する間もまばたきもせずに彼からの感想を待つ。 ごくん、と喉仏が動いたのを確認して私は掌をギュッと握って力んだ。 「……美味しいです」 「ほんとですか!」 「ええ、貴方が愛情を込めて作った味がします。醤油の加減も丁度良いですよ」 にっこり笑うものだから、私もほっと一安心して自分でもその肉じゃがを口に入れた。 うん、美味しい。 一ノ瀬さんはあまり食が太くはないようだけれど、一口食べる度に美味しい美味しい言って珍しく白いご飯と一緒におかわりまでしてくれた。 その食べっぷりが嬉しくて、何度も何度もおかわりいりますか?と尋ねてしまった自分が今思うと少し恥ずかしい。 「昼食を作ってもらってありがとうございました。こんなに美味しい手料理を食べられて私は幸せです」 「大袈裟ですよ…でも、あの、また作ります」 ぽそりとそう言うと、一ノ瀬さんは目を細めて微笑んで楽しみにしてますと嬉々とした声音で喜んでくれた。 「さて、そろそろ時間ですね…」 ちらりと左腕についている時計を見て呟いた。 私も掛時計を見上げる。 14時を示していた。 「もう、行きますか」 「ええ、すみません中々ゆっくりできず…」 「いえ、…また来て下さい」 見送るために一ノ瀬さんの後をついて歩き、玄関で靴を履く彼の鞄を受け取ってそれを握り締めた。 「…言われなくてもまた来ますよ」 「すぐ、来てくれます?」 「……あんまり可愛いことを言われると離れたくなくなりますね」 じゃあ、離れないで下さい。 なんて我が儘を言えるほど私は素直でもないし、彼から我が儘な女だと幻滅されたら怖いと思う臆病者だ。 「そんな顔しないで…」 ふわりと髪を撫でられて反射的に顔を上げれば唇に柔らかくキスをされた。少し長めに重なった唇。 いきなりのことで目を閉じることを忘れていて、そのおかげで一ノ瀬さんの綺麗な顔を目の前で堪能することになった。 「…そんな、顔って、なんですか」 「寂しいって顔ですよ」 このむくれてへの字になった唇のことも言うのだろうか。 一ノ瀬さんは優しい手つきで頭を撫でてくれて、仕事が終わったらメールしますと約束してくれた。 「それでは行ってきます」 「行ってらっしゃい」 目の前でバタンと重たい扉がゆっくりと閉まった。 急に重たくなった身体を無理矢理動かして扉の鍵を閉め、一歩一歩ゆっくりとしたペースでリビングルームに戻りソファに身体を預けた。 (行っちゃった…) 一ノ瀬さんは仕事に行った。 つまり、それは女性とセックスをしてくるということなのだ。 何度見たか分からないDVDをデッキにセットしてリモコンを握る。 試しにと無料動画で見たことはあったが、一ノ瀬さんと付き合って以降どうしても気になってしまい彼が出ているAV作品をネットで買っていた。 こんなこともちろん一ノ瀬さん本人には秘密だ。 『脱いで…それとも脱がせて欲しい?』 一ノ瀬さんが優しげな声で相手の女の人に尋ねる。 女の人はゆっくりとした動きでブラウスのボタンを外し、ブラジャーを露にすれば一ノ瀬さんはそのブラジャー越しに大きめの胸をやんわりと揉んだ。 『直接触って欲しい?どうして欲しいか言って?』 甘い悪魔のような囁きに女の人も段々と絆されていく。 スカートを脱いで下着姿になれば、一ノ瀬さんはその女の人の白い肌に口付けながら自分のワイシャツのボタンを外し始めた。 「っ」 引き締まった身体には程よく筋肉がついていて、その身体は美しい。 女の人が悪戯をするかのように一ノ瀬さんの乳首を弄ればくすぐったそうに笑う。 『仕返し』 そう言って一ノ瀬さんが女の人の尖った胸の先を口に含めば、彼女は気持ちよさげに身体をくねらせた。 「っう」 気持ち悪い。 胃がムカムカする。 私と一ノ瀬さんはこういった行為をまだ行っていない。 直接見たことも、触ったこともない一ノ瀬さんの一糸纏わぬ姿を見て興奮する自分もいれば、それ以上に一ノ瀬さんの視線が唇が指が体温が声が、私以外の女の人へ向けられているという事実に吐き気を覚えた。 『ここ、すごい濡れてる…気持ちいいんだね』 そんなとこ、触らないで。 舐めないで。 『もう、挿れていい…?』 ブチッ。 「っはぁ、っはぁ、っふ、ひぃっ」 電源を切ったリモコンをギリギリ握り締める。 ダメだ、これ以上は見ていられない。 涙がボロボロ溢れてフローリングに水溜まりを作る。 涙を堪えるためにギュッと目を瞑れば瞼の裏には一ノ瀬さんの笑顔や照れくさそうな顔、熱っぽい表情が浮かんでは消え浮かんでは消えた。 (一ノ瀬さん……) 撮影が予定より長引いてしまった。 アドレス帳から彼女の名前を引き出し、昼間の約束通り帰宅を知らせるメールを送る。 (お、そ、く、な、っ、て、す、み、ま、せ、ん。い、ま、き、た、く、し、ま、し、た……っと) 昼間の彼女は普段より甘えただった。 いつもどこか冷めたような顔をして私からの愛情表現をするりとかわしてしまうそんな人なのに、ああも素直に寂しいって顔をされると私の理性もグラグラと揺れてしまう。 (…いけません、いけません) 彼女は純粋で、酷く儚く美しい。 手を握るのも唇を重ねるのも肩を震わせて少し怯えた顔をする。 微笑んで見せればようやくはにかんだ笑顔を見せてくれるが、やはりあの時のことがトラウマになっているのだろう。 私の職業柄、彼女にいい影響があるとも思えない。 それに私は彼女と居れるだけで幸せだ。 私の隣で恥ずかしそうに「私も、好きです」と素直な気持ちを伝えてくれるそのいじらしい姿が愛おしいのだから。 (……?) マンションの廊下の先、私の部屋の扉の前に物陰が見える。 恐る恐る近付くとそれが蹲った人影で、しかも苗字さんだということに私はすぐに気付いた。 「苗字さん!」 駆け寄り、扉に背中を預けて丸く蹲っている苗字さんの肩を抱く。 「苗字さん!苗字さん!」 何度も肩を揺すると、ぴったり閉じていた瞼がようやく上を向き細めた瞳に私の姿を映したようだった。 「いち、のせさん…」 「どうしたんですか、こんなところで……目が赤い…泣いていたんですか?」 彼女の白い両頬に私の両手を合わせて顔を覗き込めば白目が赤くなっていた。 半袖を着る時期になったとはいえ夜はさすがに冷える。 彼女の冷たくなった肌に胸を痛めながら一体いつからここに居たのかと不安になった。 「大丈夫、です。一ノ瀬さんに、会えたので…」 「そんな…。まずはシャワーを浴びましょう、身体が冷たいです。それから話を聞きます。ね?」 「………そうしたら、」 頬に添えていた両手を弱い力でギュッと握られて、涙の膜を張った寂しげな瞳で見つめられた。 「…そうしたら、私を抱いてくれますか…?」 もうそろそろ上がる頃だろうとコーヒーを2杯淹れてソファに座って適当な雑誌を読んでいればすぐに彼女は風呂から上がってきた。 「身体は、!………私、パジャマを用意しましたよね?」 「…側に置いてあったので、お借りしました」 私の白いワイシャツ一枚を身に纏っただけの姿の彼女はその際どい丈の裾をギュッと握った。 「……風呂上がりにそんな薄着でいたら湯冷めしてしまいますよ」 何か羽織るものはないだろうかと自室に向かおうとすれば、横を通り過ぎる時に服の裾をつままれ私は静止することになる。 「……一ノ瀬さんが、温めてください」 声が震えている。 彼女に向き直り濡れたままの頭をよしよしと撫でれば彼女は眉間に皺を寄せて不服そうな顔をした。 「どこでこんな小ワザを覚えたか知りませんが、無理はしないで下さい。貴方らしくないですよ」 「無理なんてしてないです」 「ではなんで…」 「そのままの意味です。抱いて下さい。私は、一ノ瀬さんと、そういうことがしたいんです」 「苗字さん…」 「私じゃダメですか?胸が小さいから?もう沢山の女の人とセックスをして私なんて用なしですか?」 なんてことを言うんだろう。 こんなにも、私は彼女をこんなにも特別に、大切に思っているのに。 「…いいですか、」 「?」 「私が興奮するのも、愛し合いたいと思うのも貴方だけです。貴方だけ愛していますから…分かります?」 「………はい」 「…貴方は先ほど抱かれたい、と言いましたね ?」 「!」 「いいでしょう、私だって貴方を抱きたくて仕方ないですから」 ふわりと彼女の身体を持ち上げれば、小さく悲鳴を漏らして咄嗟に私の首に腕を回して固まった。 もう我慢しないですよ、と耳元で低く囁けば頬を赤くした彼女は返事の代わりに頬にちゅっとキスをしてくれた。 「っはずかしい…」 「どうしてですか?こんなに可愛いのに」 既に赤く色付いている胸の頂きにキスをすれば、彼女は瞼をギュッと閉じて快感に耐えるような仕草をする。 「こっちも大分濡れてますね」 秘部に手を伸ばしてパンツの横から指を侵入させれば湿った感覚とくちゅくちゅいう水音が聞こえる。 「っん」 「気持ちいいですか?」 「は、い」 「良かった」 愛を込めて額や頬、瞼や唇に口付ければ彼女はくすぐったそうに身を捩って普段のあどけない顔で笑った。 「指、入れますよ」 つぷ、とまずはスムーズに入った中指。 それに添えるように人差し指も挿入すれば、まだ解れ切れていないナカが2本の指をきゅうきゅう締め付けた。 「ん、んっ」 「少しキツいですね…こっち、見て下さい」 ゆるゆる持ち上がった瞳が私の視線と交わる。 そうして彼女に見せつけるようにピンと固くなった両の胸の先を嬲った。 なるべくいやらしく舌を絡めて、ちゅううっと吸い上げる。 胸は敏感なようで、控えめに喘ぎながら身体を仰け反らせた。 「アっ、っん」 「ちゅ、ちゅうっ」 瞼がとろんと落ちてきて快感に蕩けるような顔を見せ始めた頃には、秘部も大分潤ってきて2本の指はスムーズに動く。 いいところに当てようと関節を曲げて内壁を擦ればそこはGスポットで彼女は足先をキュッと丸めて身体を突っ張らせた。 「っひ、そこ、っぁう」 「気持ちいいでしょう?」 「ぁふん、んんっ」 声を漏らさないように必死に唇を閉ざしているそのいじらしい姿が愛しくて堪らない。 空いている方の手で彼女の唇をこじ開けて、指を口の中に差し込めばまるでそうするのが当然かのようになんの躊躇いもなくぺろぺろちゅうちゅう吸っている。 唇が開いたせいで喘ぎ声も当然唾液と一緒に溢れ落ちていく。 「あっあ、っんく、あぅ、」 「可愛い…」 愛撫するように唇を身体に這わせれば敏感な彼女の身体はピクピク素直に反応した。 「いちの、せさっ、も、いれて、」 「…大丈夫ですか?怖くない?」 「こわ、くなくはない、けど、っいちのせさん、とならだい、じょぶ」 きゅううっと心臓を握り締めたみたいな感覚。 「…名前、」 「!」 「貴方を、愛してます。だから、安心して私に身を任せください」 「…ト、トキヤさん…」 ズクンッ。 「ひぅっ」 「……あんまり煽らないで下さいよ?それでなくとも私は貴方に弱いんですから…」 ベルトを外してジーパンのチャックを下ろせば私の性器はガチガチに固くなって挙げ句ボクサーパンツにシミまで作っていた。 まるで思春期の高校生みたいだと若干自分に呆れると、ふと名前が私の下半身をじっと見ているので「名前?」と声を掛けるとハッとしたように頬を赤らめた。 「ご、ごめんなさいっ!いつもより大きい気がしてつい…」 「いつも…?」 普段と比べているのならば勃起しているのだから当然だ。 「……ごめんなさい。実は、トキヤさんの出てる作品、観てるんです…」 「え!?」 それはつまりアダルトビデオのことだと思っていいのだろうか。 いや、それしかない。 「観て、どうするんです…?」 「どうって…その…」 「自慰したりするんですか?」 「!」 まるで図星をつかれたと言うように目を見開いて、それからもごもごと小さな声で弁解の言葉を述べ始める。 「その、あの、前はそう、だったんですけど、最近は観ると、相手の女の人に嫉妬しちゃって、その、」 ズクンッ。 「…っ」 「う、ごいた…」 「…今度私の前でシて見せて下さいね。でも今はもう、」 「っあ」 パンツを下ろして大きくなった性器に手早くゴムを付けて彼女の濡れた秘部にあてがう。 ズブ、と水音が鳴ってキツいながらも柔らかなナカはゆっくりと私を受け入れていった。 奥まで挿し込むと、はあっと息を吐いて無意識に止めていた呼吸を再開させる。 「っ全部入りましたよ」 「ん、」 返事をする余裕がないのかコクコク首を縦に振るだけでその圧倒的な質量に耐えるように唇を噛み締めていた。 ゆっくりと腰を引くと、その抜けていく感覚が気持ちいいようで恥ずかしそうに小さな喘ぎ声を零した。 「っん、んぅ…」 「声、我慢しなくていいんですよ?気持ちいい時はそう言って」 「ん、はぅ、きもち、いい、トキヤさん…」 「名前…」 「トキヤ、さん、も?」 ソロソロと伸ばされた右手が私の頬に触れて、私は瞳を閉じてその小さな手に頬擦りをした。 「ええ、とても」 「ん、よかった…」 「よすぎて、すぐイきそう、です」 「へっ」 理性をかなぐり捨てて腰を打ち付ければ、ぎゅうっと締まるナカと急な快感に生理的な涙を瞳に浮かべて声を上げる名前。 堪らず腰をギリギリまで引き、そうしてパチュンと打ち付ける。 イイところを擦ろうとその白い両足を持ち上げて角度を変えてみるが、彼女が限界を迎える前に自分が先に参ってしまいそうだ。 「はっぁ、あっ、ん、そ、きもち、」 「ええ、ここ、ですね」 「はっう、うぅん、そこ、だめっ」 「はぁ、もちそうにない、」 自分が先にイくのは男の沽券に関わってくるため、名前には申し訳ないけれどこれで先に気持ちよくなって下さい。 と、少しぷくりと膨れた秘豆にグチュグチュいう秘部から溢れた液を持ってきてグリグリと擦り付けた。 「やっ」 「一度イきましょうね?」 「えっ、あぅ、待っ、」 擦れば擦るほど連動するかのように足をガクガクと痙攣させる名前の涙や汗でふにゃふにゃになった顔にキスをしてラストスパートで奥のイイところを突いた。 「だめ、だ、めっあっ、あっっ」 「っんん」 ブルッと震える身体。 ほぼ同時にイった私たちは、重たい瞼をなんとか開いて互いにキスを強請った。 「私、AV男優辞めようと思うんですよね」 「え!?」 ピロートークの最中突然トキヤさんが唐突にそのようなことを言うものだから、寄り添って寝そべっていたにも関わらず彼を見上げた。 この体制は正直首が痛い。 「私がこのまま仕事を続けたら貴方は悲しむでしょう?」 「え、と…」 それは確かにその通りだ。 仕事に行く度にもやもやしなくてはいけないなんてそんなの耐えられない。 けれど、私の身勝手な都合にトキヤさんを巻き込むことなどできない。 「ああ、貴方に責任を押し付けているわけではないんですよ」 私の首がコキコキ軋むのを気を使って、トキヤさんは腕を差し出してきてここにどうぞ?とキラッキラの笑顔で腕枕を提示してくれた。 お言葉に甘えて頭を乗せながら彼の言う真意を見抜こうとしたけれどやはりそれは難しい。 「…実は、名前と付き合ってから名前以外の女性では興奮できなくなってしまいまして」 「え?」 「今日の撮影が長引いたのもそのせいなんです。なかなか勃たないですし、なかなイけないですし。頭の中は貴方でいっぱいで」 「ななななにこっぱずかしいこと言ってるんですか!」 「事実ですよ」 隙あり、と頬にちゅっと可愛いリップ音を残してキスをされて、隠れたいのに隠れられないこの状況(前も横も後ろもトキヤさん)のせいで私はきっと頬をまた赤くしているはず。 コホン、とわざとらしく咳き込んで切り替えてみる。 「でも辞めたら次はどうするんですか…?」 トキヤさんの今後の人生が懸かっているのだ。 私の駄々を受け入れてもらうわけにはいかない。 「そうですね、主夫にでもなりましょうか」 「シュフって…あの主夫ですか!?」 「ええ、そうです。私を側に置いて愛し合うのもいいと思いません?」 こーんな至近距離でそんな風に熱っぽい視線を送られてしまえば、私はガクガク首を上下に振って肯定を示し、バカみたいに大きな声で言った。 「代わりに私がトキヤさんを養います!!」 目をパチクリさせたトキヤさんはすぐに嬉しそうに笑って「お願いします」と頷いた。 「一生貰って下さいね?」 |