ざああああと窓を打ち付ける風の音が嫌でも耳に入る。
今日の朝見たニュースだと、丁度今頃、夕方6時に台風が関東にぶつかるとのことだった。
いつもは北上するにつれ勢力が弱まり次第に消えていくのが常だったが、今回は見事に関東に直撃だ。
帰りの電車がやはり気になる。
幸いにも講義は今受けているので終わりだが、もう既に電車が止まっているなんてことが起きていないだろうか。
私は空模様と同じもやもやとしたものを抱えながら、授業に意識を向けた。




今日は午後が休みになったというのに、生憎にも台風が来ていて外に出て休日を過ごすなんてこと出来やしない。
仕方なしに、来期から始まるドラマの台本を読んでみる。
初めてのドラマ出演、嬉しいに決まっているが、もう少し先の話で、この大雨の中あまり読む気にもなれなかった。
ページをめくっても、台詞が頭に入ってこない。

ふとケータイの着信音メロディーが鳴っているのに気付く。
ディスプレイには彼女である、苗字名前の文字が。
なんだろう、とさっきまでの憂鬱さはどこかに行って、逸る気持ちを抑えてケータイを開いた。

「もしもし、どうしたの?…うん?家にいるよ」








「お邪魔します…」
「うわ、ちょっと待ってて!タオル取ってくる!」

廊下を駆け足で去って行く音也の後ろ姿を見て、なんだか嬉しいような申し訳ないような。
一言で言うなら、どうしてこうなった。

私の予想は残念なことに見事に的中してしまい、帰るための電車が運転を見合わせていた。
自分が使っていないその他の線も同様にだ。

取り敢えずケータイを出して母親に電話を掛ける。
事情を話して、父親に車で迎えに来てもらうようにお願いしたら、今日から出張でしょとばっさり切られた。
すっかり忘れていた自分をどうかと思う。
タクシーに乗るにしても、2,3時間並ばなくてはいけないそうだ。
それに料金が高くつくのは貧乏大学生としてはやはり見過ごせない。

友人たちもどうしようかとうんうん唸っていたり、車で迎えに来てもらう人がいたりもした。
私はというと、必死に考えた末、ひとつの答えを見つけた。
なるべくならこの手段を使いたくはないが、緊急事態なら仕方ないとも思う。
しかし、それ以前に相手の都合がわからない。
私は一か八かで彼氏である音也に電話を掛けた。
出ないかもしれない、出たとしても仕事現場にいるかもしれない。
不安な気持ちで待機音を聴く。
プッと電話が繋がる音がした。

『もしもし、どうしたの?』
「もしもし?あのさ、今どこにいる?」
『うん?家にいるよ』
「今日ずっと家にいる?」
『うん、その予定』
「あー、実はさ、今大学にいるんだけど、電車止まってて帰れないんだ。でさ、その、もしよかったら音也んち泊めてくれないかなあと…」
『えっ、オレはいいよ!てか大丈夫?』
「大丈夫。ほんとに泊めてくれる?」
『うん!迎えにいこうか?』
「いやいや!いいいい!一人で行ける!」

わざわざこんな雨の中歩かせるなんて申し訳なさ過ぎる。
こうして私は行く宛を見つけ、自分家の車の相乗りを誘ってくれた友人に断りをいれ(家の方向も全然違うしね)、私は二つ駅が離れている音也の事務所寮へ向かったのだった。

「はい、タオル!ずぶ濡れだね、寒くない?」
「平気平気」

取り敢えず夏なので寒くはなくてよかった。
真っ白いふかふかのタオルで洋服の水気を切っていたら、音也が髪の毛も拭いてくれた。

「拭いても濡れてることに変わりはないしね…。そうだ!風呂は入る?」
「あ、いい?」
「いいよいいよ!風呂沸かそうか?」
「シャワーだけでいいよ」

水が滴らない程度に拭いておいて、直行で浴室に向かった。
前に来た時も思ったけれど、1LDK のこの寮は独り暮らしには広過ぎる。
流石シャイニング事務所寮、お金がかかっているということだろう。

「着替えなんか用意するね。……下着、どうする?」
「あー、仕方ないから今の穿くよ」
「そっか!」

私の下着姿でも想像したのだろうか、音也は顔を赤くしながらうんうんと頷いた。
年下の彼は意外としっかりしているが、たまに可愛いところを見掛けるとやはり年下だなあと思う。
ひらりと手を振って、私は脱衣所の扉を閉めた。






「ふあー気持ちよかったー」
「よかった」

ソファに座ってテレビを見ていた音也は、立ち上がってその場で私を見つめた。

「………大きい?」
「ああ服?そうだね」
「一番小さいのを用意したんだけど…」
「平気だよ。ズボンも紐引っ張って調節できるからずり落ちてこないし」

軽くズボンを引っ張って見せるがやはり落ちない。
音也はうーんとまだ申し訳なさそうにしながらキッチンに行った。

「名前、夜ご飯食べた?」
「まだ」
「オレも!作ったから、食べない?」

私がお風呂に入っていた時に作ったのだろうか、まだまだ温かい香ばしい香りのするチャーハンがフライパンにあった。

「食べる!音也料理上手だね」
「全然!普通だよ」

ちょっと照れ笑いを浮かべ、皿を2枚出してチャーハンをよそい始めた。
何か手伝おうとおろおろしていたら音也は気付いたみたいで、冷蔵庫からお茶のペットボトルを持っていってと指示された。

「いただきます」

音也が作ったチャーハンは水気がしっかり切れていてパラパラとし、黄金に輝く卵をコーティングしたご飯が中華料理店のそれみたいだった。

「美味しい」
「本当?」
「うん。お世辞抜きでお店のと同じ味がする」
「やった!」

嬉しそうに笑う音也は、やはり可愛い。
こんなにも尽くしてもらって、なんだか私ばかり愛が大きくなっていく気がする。

食べた終えた食器を流し台に持っていくと、音也はそのまま食器洗いをし始めそうになったので慌てて腕を掴む。

「ストップ!私がやる」
「いいよいいよ、オレやるよ。名前はお客さんじゃん」
「いやただの押し掛けだから…。いいから、音也はテレビでも見てること!」

スポンジを奪い取って洗剤を垂らしたら、渋々音也がキッチンから出ていった。
そのままソファに直行するかと思ったのに、カウンターを挟んで向かい側に立ってこちらをじいっと眺めていた。

「何 ?」
「あのさ、なんか奥さんみたいだなって思って」
「え」

驚いたせいでツルッと食器が手から滑り落ち、食器同士がぶつかり合いガチャンと大きな音が鳴った。
すぐに拾い上げ、念入りに食器を見回すがヒビなんかは入っていない。
ほっと一安心。

「だ、大丈夫?」
「大丈夫、割れてなかった」
「そうじゃなくて名前が」
「私?なんで?大丈夫だよ?」
「食器で手切ったら大変でしょ」

カウンターに体をもたせながらこちらに身を乗り出して、顔を見つめられた。
ちょっとドキドキして、誤魔化すように首を振り否定する。

「大丈夫だって、そんなミスしないよ」
「名前なら有り得るから言ってるんだよ。自覚ないみたい
だけど、自分がドジだって分かってよ?」

無意識に口をへの字に歪める。
人より鈍かったりとろかったりするのはなんとなく自覚はしている。
音也が近くにいる時は大抵フォローをしてくれるのだ。

「…すみません」
「分かればいいんですよ」

クスクスと笑って目を細める音也を改めてかっこよく感じて私は食器をせっせと洗うことに専念した。
いつの間にか私の前からいなくなった音也は、テレビ台のところに行ってDVDを漁っているようだった。
食器を洗い終えた私は備え付けのタオルで軽く手を拭き、音也の隣に並ぶ。

「なんのDVD見たい?」
「ん?なんでもいいよ」

わざわざこちらの顔を覗き込んで尋ねてくるんだからドキッとする。

「音也はDVDが見たいの?」
「オレはなんでも。名前がしたいことをすればいいよ」
「…君は私に甘いと思います」
「そう?」
「そう。ねえ、音也のしたいことしよう。折角の休みなんだし」
「えー」
「えーって、なによ」
「……でもさ、家の中でできることなんて限られてるじゃん。そんで名前がいてしたいことなんて…」

赤い顔でそう言われたら、その先の言葉なんて言わずもがなだ。
私も彼の赤を貰って、不覚にも頬を赤らめて言う。

「……しよっか」

長い睫毛を瞬かせて、こちらを見つめる音也は何故か真顔。

「…ほんと?」
「ほんと」
「オレ、冗談とか通じないタイプだからね?」
「ほんとだってば」

尚も疑いの眼でこちらを見つめる音也に、もう一度しようと誘いの言葉を投げ掛ける。
すると、顔をふにゃりと綻ばせて満面の笑顔で抱き付いてきた。

「名前好き!」
「はいはい、私も好きだよ」
「オレの方が好きだと思う!」
「どうかなー」

肩口に顔を埋めて額をぐりぐり擦り付けてくる音也の赤い髪を柔らかく撫でる。
そうすると猫のように目を細めて気持ちよさげにする彼を見るのが私は好きだ。

「ねえねえ、オレ、けっこう、愛されてる?」

ふと顔を上げて半ば真剣に尋ねてくる音也に、なんだ意外と伝わってないもんなんだなと思った。
ぶらりと垂れた腕を掴んで、掌を握る。

「けっこう、愛してるよ?」

私は彼の赤い唇にキスをお見舞いした。





ちゅっちゅと音の鳴る可愛いキスもそこそこに、音也の舌が口内をまさぐる。
それと同時進行に左手がブラジャーの中で、右手がパンツの中で好きなように動き回る。
何度も舌で転がされぷくりと赤く脹れた乳首も、今では私の気持ちいいところになってしまった。

「もう、よくない?」

ぐちゅぐちゅと卑猥な水音を鳴らす秘部には音也の人指し指と中指が抜き差しされている。

「だーめ」

情事特有の厭らしい顔を浮かべ、音也はにんまりと笑った。

「オレさ、名前が気持ちよさそうにしてる顔見るの好きなんだ」
「も、いいって。十分十分」

恥ずかしながら下半身が疼いて仕方ない。
音也だってズボンを脹らませているというのに。

「えー?十分じゃないでしょ?」

イヤな笑顔で上半身を起こした音也に嫌な予感がして、待ってと言おうとしたら太股をガバッと広げられて言葉が悲鳴に変わる。

「ちょ、ばか、」
「すごい濡れてる。オレの愛撫気持ちよかったってことだよね?」

太股の間から顔を覗かせる音也は相も変わらずイヤな笑顔。
絶対確信犯だ。
私に言わせたいんだ。
従うのも癪なので、なるべく真顔になってさあ?とすっとぼけてみた。
そんな反応は予想外だったのか音也は目をパチクリさせる。
けれど、段々と口角を吊り上げて笑った。

「そっかあ、残念だなあ。じゃあもっと頑張らなきゃね」

全然残念そうじゃない顔で言うやいなや、視界から音也が消えて、なんだと思ったら秘部にぬるりと柔らかい感覚。
思わず腰が戦慄いた。

「ん、おと、や、」

襞を唇で優しく揉まれて、そこに隠された箇所を下から上へべろりと舐め上げられる。
穴からとろとろ溢れる愛液はシーツに溢れる前に音也に吸いとられた。
じゅるる、じゅる。
あまりにも卑猥な音に耳を塞ぎたくなる。
ここからはソコがどうなっているか音也がどんな顔をしているか見えはしないけど、聴覚だけで大分頭が沸きそうだ。
吸われる度に感じてしまい溢れさせるのだから終わりがない。

「じゅ、じゅるる、ん、」
「ぅ、んん、も、やぁ」

膝を閉じようと踏ん張るものの、音也にがっちり固定されていてびくともしない。
しかも私が抵抗する度に身体の中で一番敏感なつんと尖った秘豆をぐりぐりと舌で押し潰してくるのだから為す術がない。

「ふ、ぁあ、んんん、」

恥ずかしいし気持ちいいし、感情がぐちゃぐちゃになって目の端から生理的な涙が流れていく。
もう、本当、勘弁して欲しい。

「じゅる、………泣いてるの?」

口の周りを私の愛液でベタベタにした音也がそれを舌で舐めとりながら私を不安げに見つめた。
ふるふる横に首を振るが、どう見ても涙が流れている。

「かなしいの?」

ふるふる。

「いたい?」

ふるふる。

「こわい?」

ふるふる。

「オレがすき?」

くるりと丸い彼の瞳が真っ直ぐに私を射抜いた。

「…すき。すきだから、泣けてくるんだよ」

私ははっきりとそう答えた。

「…ありがと」

音也は私の上を這って、キスを求めるように瞳を閉じたため、首を伸ばして唇を重ねる。
先程まで私のアソコを舐めていたかと思うと私としては複雑な気持ちだがまあ仕方ない。

「も、いいかなあ?」
「うん、おいで。我慢してたでしょ?」
「もお超我慢したー!」

そう言いながら太股に固くなったソレを擦り付けてくる。

「絶対パンツに染みできてるよー」
「それはそれは…」
「見たい?」
「結構です」
「えーひどいなあ」

挿入前に甘い雰囲気だと緊張して上手くいかないから、多分音也なりに気を遣っているのだと思う。
分かりにくい優しさだけれど、私はちゃんと気付いてるよ。

「……いくよー」
「ん、ぅあ」

入ってくる時のこの圧迫感にはどうしても慣れない。
けれど、その間ずっと手を握って好きだと言って愛をくれる音也が私も好きだから、結局この苦しみも愛に変わる。

「はあ、きっつ、」
「ぜんぶ、はいった?」
「うん!頑張ったね!」

汗で額にへばりつく前髪を横に流して、そこにキスをくれた。
音也が嬉しそうにするから、私も嬉しくなった。







「喉痛い」

シーツに包まりながらヒリヒリと痛む喉を気にしつつ愚痴を溢す。

「え、ごめんね!オレ水取ってくる!」

裸のままベッドから抜け出した音也はバタバタ走りながらキッチンに向かった。

いつだって音也は優しいけれど、情事後は特にだ。
シャワーを浴びるのさえ億劫でベッドから動きもしたくない時は、音也が濡れタオルで身体を拭いてくれる。
ご飯も全部やってくれる。
ベッドメイキングも、洗濯も、ベランダの花の水やりも何もかも。
我が儘を言っている自覚はあるけれど、音也が甘やかしてくれるからやめられない。
そうして彼をもっと好きになる。

「名前ー!」

音也が行き同様にバタバタしながら帰ってきた。
手には水の入ったグラスが握られている。

「見て見て!ほら、外!」

グラスを乱雑にベッドの横の小さな机に置いて、カーテンをシャッと開いた。
掛け布団から覗くオレンジ色の光が眩しくて、私は反射的に目を閉じた。
そしてズルズルと布団に隠れる。

「ねえ!見てってば!」
「やだよ、眩しい」
「ほら、眩しいでしょ!?」

楽しそうに声を上げる音也が若干煩くて、渋々布団から顔を出した。
眩しいのは相変わらずだが、そうしているうちに段々と目が慣れてくる。

窓の外に見えるのは、オレンジの光と青い空。

「…晴れてる」

昨日までの台風が嘘だったように、空はからっと晴れていた。

「ね?よかったね」

太陽が似合う音也は、この明るい光に負けないくらい綺麗に輝いていた。
幸せで(眩しくて)目を細める。

これはまるで。

「雨のち快晴、」




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