「狼?」 「そう、狼。まだ山の中に潜む狼に食べられちゃうと大変よ?」 「大丈夫だって、もう子供じゃないんだから!」 「全く…」 かなり前に友人に忠告されたことを真剣に受けとめていれば良かったと後悔している。 「みょうじくん?その男をそそるような格好はなんだね?」 別の意味で狼(石丸君)に襲われたのだ。 「え、えーと、お出かけです、はい」 「ほう、お出かけというのは?」 「あのそれ以上はプライバシーに関する情報でして…」 「すぐに発言せよ」 「……デートです」 「すぐ発言したのはいいことだが、内容が良くないな。いつ、どこで、誰に誘われたのかね?」 「うぅ…先週、部屋の掃除をしてたら廊下でモブ山君に…」 「分かった、よーく分かったぞ。さて、その集合場所はどこだね?」 「ま、まさか…」 「君の代わりに僕が行こうではないか。そうなればみょうじくんにあんなことこんなことする予定だったモブ山くんから、みょうじくんを僕が没収出来るのだからな」 「え、私を没収って酷い……」 何故だか分からないが先週あたりから私は石丸君に異常な愛を捧げられている。 「さて、君は僕の部屋で待っててくれないか」 「い、イヤです!私にだって自由にする権利があるはずですー!」 「自由ならあるではないか!僕に何してもいいという自由が!」 「そんな自由じゃなくて…!」 男の力に敵うはずもなくズルズルと石丸君の寄宿舎へ連れて行かれる。 ああ…収監されちゃう、と思ったそのときだ。 「あっ、コラ何やってんだ!石丸オメー!」 聞き覚えのある声がして顔を上げるとメカニックと言われている左右田君が驚いた表情を浮かべていた。 「…何ってみょうじくんが僕の部屋に行きたいというから連れて行ってるだけだが?」 「イヤイヤ!みょうじの首根っこ掴んで言うセリフじゃねーだろ!?」 「助けてください…」 「助けてって言ってるじゃねーか!流石のオレも聞き捨てならねーぞ!?」 「……みょうじくん?」 「嘘です、本当は石丸君の部屋に行きたいです」 「完璧な脅しじゃねーか!離してやれよ!」 石丸君と左右田君が言い争っていると突然爆発音がして私は浮遊感に襲われ、空中を移動している感覚を覚えた。 爆発による煙に咳き込んでいると特徴的な声が聞こえた。 「みょうじさーん、大丈夫?」 「えっ…!?」 「ボクが有名人だからって驚いてるでしょ?うぷぷ。困っちゃうなぁ」 そこには学園長代理であるモノクマがいた。確か本物の学園長は出張で学園から離れていると聞いた。 よく見れば周りの豪華な内装から学園長室だというのが目に見えて分かった。 「みょうじさんが男どもに襲われているからこの学園長が助けたの!か、感謝しなさいよ!」 「あ、あの、ありがとうございます」 「ふん、みょうじさんに褒められたってち、ちっとも嬉しくなんかないんだから!」 「え、えーと……」 「んもう、左右田クンだったらツッコミいれてたよ!」 「あ、はい…爆発があったんですけど2人は大丈夫ですか?」 「大丈夫、音と煙だけだから害はないよ!」 「あー良かったぁ。何だかみんなの様子がおかしいんですよね…」 「そりゃそうだよ!ボクがウイルスを撒いたんだから!」 「え?」 モノクマの言葉に耳を疑った。ウイルスっていう物騒な言葉を聞いたのだけど… 「そうみょうじさんに説明するね!1週間前に学園内のほぼ全員がウイルスにかかりました!というよりみょうじさん以外ね!そのウイルスは…所謂媚薬みたいなものさ」 「えぇっ、それって治す方法ないの?」 「んー、明日には治すよ?だって明後日は本物の学園長が戻ってきちゃうじゃん!」 「だからやけにみんなデートとか行っているんですね…」 「そうそう!好きな人に本能的になっちゃうの!他の生徒達だってハーレム作ってる男子はいるし、好きな男子の取り合いで修羅場になってる女子達もいるし! みょうじさんだってモブ山クンやらその他予備学科生に狙われているんだから気をつけてね!」 「そ、そんなに狙われているの!?」 「そうそう、部屋に閉じ込めておきたい石丸クンなんてまだマシな方だよ…それよりもすごーいこと、男子高校生なら考えちゃうからね!まぁ頑張って明日までには生き延びてよ!」 「ま、待ってください!ここにずっといるのって駄目ですか?」 あの真面目な石丸君でさえ恐ろしかったのだ。他の人だったらモノクマの言う通り更にとんでもないことになりそうだと身の危険を感じる。 「えっ、それってボクの傍にいたいという告白!?」 「えっ」 「そう受け取っちゃうよ?ボクのテクニックなんて女の子1人が天国にいっちゃうほどの…」 「ごめんなさい、学園内に行きます。許してください」 「全く…自分だけセーブポイントにいるなんて都合良すぎるの!さっ、イッてらっしゃいー!」 …何だかテンションがおかしいモノクマから離れることにした。まさかこんな大騒動になっているなんて思いもしなかった。 廊下をトボトボ歩く。 「とりあえず、部屋に篭って明日を待つしかない」 まず第一に考えたのは部屋に閉じ篭る。これが賢明な判断だろう。見つからないように寄宿舎まで歩き出す。 無駄であった。既に私の部屋の扉が開いていた。おかしい。絶対に鍵をしたはずなのに。よくよく見ると扉の鍵部分が壊されていた。 ということは既に誰かいるのだ。壊してまで入った人間が。学園内へ戻ろうと来た道を戻る。…所々の部屋から甘い声が聞こえてくるのを完全に無視した。 「あれー?戻らないの?部屋に」 何処から出てきたのかモノクマが面白そうに呟く。 「学園長、無理です。みんなの理性飛んでます」 「そりゃそうだよ、やっぱり部屋でゆっくりしたいものはしたいじゃん。それと部屋なら鍵つきだしね!」 「…防音なのに声聞こえたんですけど」 「誰かが扉の一部を壊したんじゃない?それで筒抜けとか!」 「……もう何処かへ行きます」 「うぷぷ、絶望顔たまらないねぇー!」 他人事のように笑うモノクマを放っておいて学園内へ再び入った。何が学園長代理だ、訴えてやる。 というよりよく私は平気で1週間も生きられたものだ。ここまで生きられたなら大丈夫なのではと思いつつ安全な場所へ向かった。 |