「じゃじゃーん!コロシアイしないオマエラの為にちょっとした刺激を与えちゃうよー!」 モノクマは嬉しそうに話し始める。誰かが怒りの声を伝える前にモノクマの声が響いた。 「ここにいないみょうじさんは…今もコテージの中で眠り続けています!仕方ないのでボクが体中揺すったのだけれど、何をしても起きません! ボクが調べたことによると、特殊な病にかかっちゃってどんなことしても起きないんだ!」 モノクマの言葉に一同は驚いた。 が、すぐに誰かの声が聞こえた。 「どうせそう言っておきながらモノクマがそうさせたんじゃないの〜?」 「な!ボボボボボクは!」 「図星じゃねーか!さっさと元に戻してやれやコラァ!」 「その治療法をどこかに置いてきちゃったんだよねー。やっぱりみょうじさんもさ、ボクなんかよりオマエラに起こしてもらいたいでしょ?」 投げやりに言葉を使いながらモノクマは俺達に黒い体だけ見せつける。赤い目がまるで悪巧みを考えているように光っていた。 「みょうじさんを起こす方法は、島のどこかにある治療法を探す!これだけいるんだから探せば見つかるよ!」 高笑いを響かせながらモノクマは消えていった。その後に手分けをしてその治療法とやらを探すことにした。まずは眠り病にかかってしまったみょうじの様子を見に行くことにした。 モノクマにより施錠されていたコテージの鍵は開いて、中に入る。 そこには罪木がみょうじを見つめながらおどおどとしている。 「罪木。みょうじはどうだ?」 「ひ、日向さん。ええと…やはりどんなことしても起きません…揺すったり声を掛けてみたりしても…や、やっぱりみょうじさんは私のことが嫌いなのでしょうか…」 「そ、そんな訳ないだろう…みょうじは誰にでも優しかったじゃないか」 それでも泣きそうな顔をしている罪木に俺もやってみるとみょうじを起こそうとした。 …だが何をしても起きなかった。それを見て、嫌われてるわけではないと彼女は少し安心したようだった。 「ですが…心配もあります…みょうじさんはこうして眠ってるように呼吸をするのですが…眠ってる故に食事が出来ません…」 「…治療法が見つからないと死ぬかもしれないってことか?」 「う、うゆぅ…そういうことになっちゃいますぅ。栄養剤が入った点滴も出来ますけどそれで全て補える訳でも…」 「分かった。俺もみんなと治療法を探しに行くから罪木はみょうじのこと見ててくれないか?」 「は、はい!精一杯看病しますぅ!」 コテージから出て図書館へ向かう最中に罪木の言葉を思い返す。 あまりにも病気が長引くと死ぬかもしれないってことはモノクマなら知っているはずだ。 もしモノクマの狙いがコロシアイだとしたら嫌な予感がする。 「おーい日向!」 「左右田か、どうした?」 図書館からとは別の方向から左右田がやってくる。表情はいつになく緊迫としていた。 「狛枝のやつがよ、何か見つけたみたいなんだ」 「ほ、本当か!」 「ああ、一旦全員ホテルに集合だってよ。オレらも行こうぜ」 俺達は早足で向かうことになった。 ホテルには俺達以外が揃っていて、俺達を見た後に狛枝が口を開いた。 「集まったみたいだから…これを見てくれないかな?」 狛枝が紙切れのようなものを全員に見えるように差し出す。俺の嫌な予感は見事に的中した。 そこには恐ろしいことが書かれていた。 「コロシアイ…もしくは?」 コロシアイと大きく書かれた文字の後に「名前を呼べ」と文字が書かれている。 名前…?一体…。 「おっ!見つけちゃいましたね!悪魔の治療法を!」 「モノクマ…!コロシアイなんて俺達は絶対にしないぞ!」 「そんな悠長なこと言っていいの?オマエラの良い子ちゃんぶりのせいでみょうじさんは死ぬかもしれないのに!」 「うるせぇ!テメーが戻せばいいだけの話だろ?」 「九頭龍クン…実はねぇボクも試してはいるんだよ?大事な生徒なんだから!」 モノクマは大きな溜息をついた後にやれやれのポーズをする。 「オマエラよく見た?名前を呼べって文字…コロシアイしたくなかったらみょうじさんの前でみょうじさんの下の名前を言うだけだよ!ただみょうじさんが点滴を打ってたとしても、もって1週間…それまでに生きられるかな…?」 ブヒャヒャと嫌な笑いを響かせながらモノクマは消えてしまった。 一同は一瞬呆然としたが、段々と安堵の声が聞こえてくる。 「でも…何とかみょうじさんは生きられるってことよね?」 「ふん、治療法が何とも非現実的だがコロシアイよりはマシだな」 確かにコロシアイなんかよりはみょうじを看病しつつ1週間生かせてその間に下の名前を言うだけだ。 言うだけ、なのだが…。 「…あ、あのさ。みょうじちゃんの下の名前誰か分かる?」 女子に対しては下の名前で呼ぶ小泉がみょうじに対しては名字だった。 …これが意味するのは。 「え?私知らないよー?みんななら知ってるんじゃなーい?」 西園寺がみんなをぐるりと見渡すが誰も口に出さなかった。俺もみょうじとは仲良くしていたはずなのに、下の名前がどうも分からない。 「え……狛枝おにぃは!?超高校級マニアなんでしょ!?」 「いや…残念だけどみょうじさんの才能は分かってたけどフルネームで出てなくて…」 狛枝でさえも分からない。俺達は目を合わせず黙り込んでしまった。 「いや、コテージだ。流石に名前くらいは」 「こんな全員で押しかけるのも…」 「分かった、じゃあ手分けしよう」 それでも結果はダメだった。名字はあれど名前だけが露骨なくらいに黒いペンで消されていた。電子生徒手帳も探したがみょうじ自身が持っているわけでもないし、コテージ内にも無いのだ。 食堂では待機していたメンバーが心待ちにしていたが結果を聞くと顔に曇りが表れた。 「黒いペンで消されていたって…それみょうじさん自身がやることじゃないよ!?」 「唯吹達を面白がせようとモノクマちゃんがやったんすかねー」 「電子生徒手帳も名前がすぐ分かるから没収したってことでしょうか…」 「誰も真の名を残していないのがな…ま、まさかみょうじは俺様と同類なのか!?」 「この厨二の田中おにぃがなんか言ってますよークスクス」 「ふゆぅ…みょうじさんをどうしましょう…?まさか誰も分かっていなかったなんて思いませんでしたぁ」 「みょうじを見殺しにするのもコロシアイするのも馬鹿馬鹿しい。何かみょうじが書き残したものが残ってるはずだから探してみよう」 「希望の為にみんなで手分けしよう!……そういえばさっきから左右田クンいないね?」 「俺が小泉とみょうじのコテージに行こうとしたらモノクマに呼ばれてたぞ」 「何やってんだアイツはよ……」 その日は何も成果は得られずとりあえずみょうじを看病する人を決めた。罪木1人にやらせればいいと主張する西園寺だったが、流石に負担をかけるのが大きいと七海が2人1組での看病を提案しそれを採用した。 みょうじが眠ってから7日後、俺の担当の為朝早くからコテージに向かうことにした。 扉にノックすると扉へ駆け寄ってくる足音が聞こえる。そしてガチャリと開くと田中のハムスターが出迎えてくれた。このハムスター達はドアの鍵も開けられるのか…と感心しているとドアの向こうから田中が俺に気づいて扉の方まで来た。 「今日の守り人は貴様のようだな」 「お疲れ。みょうじに異常はなかったか?」 「あの眠り姫は未だに睡眠の呪いから解放されぬ…ただ眠り続けていたようだな」 「そうか、…そういや、もう1人は?」 「………弐大ならさっきまでいたが、鍛錬やらで日の昇る頃にはいなかった」 「あー、終里が弐大を探してたな。分かった、ゆっくり休んでてくれよな」 「うむ、俺様は闇の聖母の所へでも行くか」 「あれ、ソニアと何処か行くのか?」 「珍しくも雑種に頼まれてな。今日だけはソニアさんの傍にいてくれ、と」 「…左右田が?雪でも降るんじゃないか?」 「ふっ…ありえるな…。雑種だろうが頼まれれば行ってやらんこともない」 「…人に頼まれたからって嬉しそうだなお前」 「…さらばだ」 首元にあるマフラーで顔を隠しながら田中はスタスタと歩いて行った。 田中と引き継ぎをしてコテージに入る。毎朝決まった時間に罪木が栄養剤の入った点滴を行う。 まだ今は早すぎる時間だからか、点滴のパックは残り僅かだ。 俺は今日のことを考えていた。 丁度7日目。最終日だ。最終日が来てしまったということはどれだけ調べてもみょうじの下の名前が分かってないということだ。 最初に見たときよりも姿は変わっていないものの呼吸が浅くてゆっくりしていて弱々しかった。 みょうじの近くの椅子に座り、膝上に肘を置いた。 探しに行きたくても今日は看病で動けないし、粗方探してしまったからみんなは焦りと疑心を抱いていた。 誰かがみょうじの為に殺しに来るかもしれない。でもみょうじと仲良い奴なんて殆ど全員だからお互いがお互いを疑っている。 どうすればいいんだ…俺は弱々しい溜め息をついた。 そもそも、 「…左右田のやつまだ寝てんのか?今日は俺とあいつが看病担当なのに」 左右田の顔を思い浮かべては多分寝てるだろうなと呆れていた。 みょうじが眠ってからも左右田の行動は何だかおかしかった。俺の所にも話しかけようとしてきたがモノクマが驚かせにかかっているのだ。ソニアにも田中にも九頭龍にも。何故だか左右田が誰かに話しかけようするとモノクマがやってきては左右田を驚かせる。西園寺は面白がって仕切りに話しかけにきては驚かせていたけど。 「待てよ…?」 …みょうじが眠ってからモノクマは左右田の近くにいるような気がする。 話しかけられそうになったり、話しかけようとしたりするとモノクマがやってくる。まるで監視でもしているかのように。 左右田を監視してるのだとしたら、みょうじが眠ってしまったことに関しては左右田の存在はモノクマにとって不都合なことがある…? そのときバタンと強い音が響く。扉の方向へ目を向けると俺がさっき考えていたやつがいた。そいつは息を切らし、焦りの表情が見え急いでいるようだった。 「左右田…!」 「…悪い、日向。食堂にみんないるからそこへ今すぐ行ってくれないか?」 「食堂?」 「頼むッ!……ソニアさんがもしかしたら危ないかもしれない。モノクマもそこにいる」 事態が緊迫しているようだ。それにソニアが危ないかも…不確定な要素はあるものの俺はここから離れるべきだと感じた。俺の考えが間違ってなければ、左右田は何かを知っている。 「お前…みょうじの名前を」 立ち上がり扉に向かうと同時にその言葉を呟くとコクンと左右田は頷いた。 そうか、そういうことだったんだな。 「分かった、みょうじを頼む」 「おう、オメーも頼むぜ」 左右田にその場を任せて食堂へ走り出す。きっと大丈夫だ。食堂で2人を待つことにしよう。そして何であいつが知ってるのか後で聞き出そう。 この島に来てからあまり走ってなかったせいか心臓がドクドクと音を激しく鳴らし、呼吸をするのも難しかった。 時間がない。折角作れた時間を無駄にしたくない。 「ねぇ?知ってるんでしょ?みょうじさんの名前」 オレの脳内にモノクマの嫌な声が邪魔をしてくる。 「みんなの前で知ってる!とか夜這いのようにコテージに行ってこっそり名前を言おうとか思わないでよね?折角楽しくなってきたのに」 あいつはコロシアイを起こさせようとするただの愉快犯だ。そいつの楽しみのせいでみょうじは眠り続けてしまったんだ。 「もし言ったら…左右田クンの大好きなソニアさんを…うぷぷ、見るも無惨な姿にしちゃうよ?」 モノクマの嬉々とした声が脳内に流れ込んでくる。大丈夫だ、その為に色んな奴に声をかけてソニアさんの傍にいてもらってるんだ。 「オマエがソニアさんを選ぶかみょうじさんを選ぶか……楽しみだよ!アーハッハッハ!!」 大丈夫だ。ソニアさんもみょうじも死なせるわけにいかねーんだ。 この為に七海にも協力してもらってあのピンクうさぎがモノクマを引き留めてる筈だ。最近七海がやっているゲーム機器の裏にメモを置いたら、俺のコテージ扉下にメモがスッと入ってきた。 正直協力してくれて助かったと思ってる。 脳内のモノクマの声をかき消すように目の前で眠る人の名前を呼んだ。 「………なまえ、起きろ」 誰も自分のことを教えないみょうじなまえとは本当に何気ない会話の中で知った。 …… 「だぁーもう!何でソニアさんは田中のことが好きなんだよ!」 「そ、そんなこと言われても分からないよ」 「なーんか悪いな…オメーでいいやって言って」 「中々失礼だね…私は気にしてないけど他の人にそれ言ったら怒られるよ?」 「ああ…反省する」 「映画館行こっか」 みょうじに小さく返事を返して映画館へ向かう。あまり女子と仲良くなれないオレにとっては誰とでも仲良くなれるみょうじが羨ましかった。オレも女だったらソニアさんと仲良くなれたのかなぁなんて妄想を膨らませてるとみょうじの話を聞いていなかったようで怒られた。謝るとすぐ許してくれるみょうじの心の広さにオレは散々甘えまくったのかもしれない。 「映画館で学生は生徒手帳出せば学割効くもんね」 「いや、ここオレ達しかいねーから」 「あっ、そっか」 電子学生手帳を取り出そうとするみょうじにツッコミを飛ばすとオレの足元の方にみょうじの電子生徒手帳が落ちた。 「あっ!」 「大丈夫か?」 足元に落ちた電子生徒手帳を拾って渡そうとするとオレが持ったタイミングで電源を入れてしまったようで、渡そうとしたときにみょうじのフルネームを知った。その際のみょうじはやけに慌てた様子だった。 「そういや、オメーって自己紹介のとき下の名前言わなかったな?」 「あ、あれ?そうだったかな?」 「間違いねーよ、女子達とか下の名前聞きたがってたのにのらりくらりとやり過ごしてたもんな」 「…あちゃー、よりによって左右田君か」 「何だよそれ、失礼だな」 「ご、ごめんね」 「…気にすんなよ」 デジャヴ?と思うやりとりをした後、すっかり黙ってしまったみょうじに恐る恐るも問いかけてみた。 「んで、どうして下の名前あまり知られたくねーんだ?」 「…友達にも親にもあまり名前で呼ばれないんだよね。あだ名ばっかで。だから自分の名前好きじゃない人多いのかなって。 そう思うと自分も名前が好きじゃなくなってて…他の人には言わないようにしてきたんだ」 「へっ?そんなことで…? ……何言ってんだよ。なまえってスゴく良い名前だと思うけどなー」 「ほ、本当に?」 みょうじは今までに見せたことのない表情を見せた。何て表せば良いか分からないが目をキラキラとさせている感じだ。てか、誰にも教えたくない名前ってどれだけ自分の名前に自信持てなかったんだ…。 「おう、みょうじなまえ…良い名前じゃん!」 「そ、そっか…ありがとう、そう言ってくれて」 あまり褒められたことがないのかオレから目を逸らし、すぐに顔を赤くしてしどろもどろにお礼の言葉を呟くみょうじ。 ごめんね、急に顔が赤くなって。と謝る必要ないのに謝りながら両手で顔を隠す仕草にオレの体全体がビクッと跳ねてしまう。 今のみょうじの見せたことのない仕草や表情が女の子らしくて可愛かったから?いやいやいや、オレにはソニアさんがいるんだ。この鼓動の高鳴りは嘘だ。 嘘の筈なのに、さっきまでいつも通りに話せていたはずなのに言葉が出てこない。 何とかこの状況から抜け出そうと言葉を紡いだ。 「まァ、何だ?……映画観ようか」 「そ、そうだね!行こう!」 …… そのとき観に行った映画は何故かラブストーリーに差し替えられていた。 しかも内容が奇病にかかって眠りについてしまったヒロインの本当の名前を主人公が呼ぶことで目を覚ますという"名前"に関する内容だった為、隣のみょうじは落ち着かない様子だったし何よりオレだって心臓の音が聞こえちゃうんじゃねーかってビクビクしていた。終始恥ずかしくて気まずかったのを覚えている。 …あの映画のラストシーンのような状況にオレとみょうじはここにいる。 「ん…」 オレの言葉に反応したのかみょうじの1週間ぶりの声が聞こえた気がする。 ベッドの上のみょうじは寝返りを打つようにモゾモゾと動き、目をゆっくりと開いた。 思わず床に膝を立て、寝ているみょうじと目の高さを合わせた。 起きている、まさか本当に映画のように起きてくれているだなんて。 「…?え?左右田君?」 横になっているみょうじはオレがここにいることに寝起きながら大変驚いているようだ。無理もないよな。モノクマに知らずに巻き込まれていたんだから。 「………なまえ」 ふと名前を呼びたくなった。 どうして呼びたくなってしまったのかは分からない。驚かせる為?久しぶりだから?からかい甲斐あるから?……いや、どれも違う。 ただ分かるのは名前を呼ぶと胸が締め付けられるも温かい気持ちになり、みょうじなまえが生きててよかったって酷く安心出来るんだ。 急に名前を呼ばれたみょうじは驚いて布団で顔を隠した。オイオイ、まだ言われ慣れてねーのか? 「なっ、何!?急にー!」 「…ったくオメーのおかげでみんな迷惑してたんだぞ!?コロシアイの動機になるところだったんだぞっ!?」 「えっ、えっ?」 「あ、悪りぃ…突然こんなこと言われても分かんねーよな…」 「…ううん、大丈夫だよ」 「ほんっとーにオメー優しいよな」 「左右田君もでしょ?」 布団から顔を出してオレを見て笑うみょうじにオレも不器用ながらに、笑って返した。ほんの一瞬だけオレ達は主人公になったようだ。 「なまえちゃん!一緒に唯吹ちゃんのギターショーに行こう!」 「あっ、待ってよ真昼ちゃん!」 コロシアイも無くなり、誰1人欠けることなく平和な日々が戻ってきた。 みょうじはみょうじなまえと改めて自己紹介し、女子達からは何でそんな良い名前を早く教えてくれなかったのと言い寄られていた。そのときのみょうじの嬉しそうな顔は忘れていない。 これからライブハウスへ行こうとする小泉とみょうじを見届けながら俺は隣の男の溜息をひたすらに聞いていた。 「あぁぁ………ソニアさん…」 今日も誘っては玉砕し、食堂に帰ってきては俺の隣でテーブルに突っ伏している左右田を横目に苦笑いを浮かべるしかなかった。 「もぉ〜オレメンタル死にそうだぜ…」 「毎日断られて、その翌日にまた誘おうって思えるのって相当な鋼メンタルだぞ?」 「うっせうっせ!オレだって日向みてーに女の子とお出かけしてーよ!」 「俺はそんなに女子と出かけてないって」 半泣きになりながら俺に詰め寄ってくる左右田もあの後変わったことがある。 「はぁ…みょうじも今日はいねーし…」 みょうじの話題も入ってきてるということだ。左右田曰くみょうじの名前は偶然知ったということだが、それ以上は何も話してくれなかった。何かあったら一から百まで話してくれるあの左右田が、だ。 みょうじが目を覚ました日に俺達は食堂で待っていた。しばらくすると2人で食堂にやってきたときは2人に違和感を覚えた。何だか妙に近い感じがして。それよりもみょうじが目を覚ましたことにみんな喜んでいたから俺もそのときは気にしなかったが…。 その後の左右田の行動自体はソニアを相変わらず追いかけているのだが、全員で食事を取るときなんかはあいつの目線はみょうじを時折追いかけている。 つまり… 「なぁ、左右田」 「んぉ、何だァ?」 「お前…まさかみょうじも好きなのか?」 「ぶふぉ!?」 左右田は一口飲んだ水を思い切り噴き出した。その後気管に入ったようでむせ込んでいた。この反応は俺の思っていた通りだ。 「ゲホッ、なっ、何でだよ!?オレはソニアさん一筋だ…」 「ソニアのことも好きだろうが、あの事件の後からみょうじのこと目線で追いかけているだろ」 「あ、あれー?そうだったかな?」 「お前って分かりやすいよな…」 食堂の壁掛け時計を見るともう午後になりかけている。確か用事が入っていたはずだと席から立ち上がり隣にいるやつを見る。 「左右田」 「な、なんだよ…」 「…どっちが好きかよく考えた方がいいぞ。場合によってはお前が刺されてコロシアイになるからな」 「はぁああ!?それってどういうことだよ!?……あ、でもこのオレを巡ってソニアさんとみょうじが争ってくれるのも悪くは…」 「左右田」 「だぁー冗談だっての!分かった、よく考えるから!」 俺は食堂に左右田を置いていってその場を離れる。 この後の用事が終わったらまた散々左右田の相談に付き合うんだろうなぁなんて思いながら約束の場所まで歩いていった。 |