本当、嫌な日に限って早くから目が覚めてしまう。フィールドワークも早くから目が覚めるのだろうか。寝ていたいなぁ。
そう思いながらプリントを見返す。とはいえ、早くから行かないと怒られてしまいそうだ。私の名前の上にある石丸清多夏という字を見てすぐに支度を整えた。

指定の教室に行くと1人の男子が既にいた。扉を開ける音に反応して私の方へ振り向いてくる。


「おはよう!」
「お、おはようございます」


すごくハキハキと挨拶され、こちらも挨拶しながら頭を下げる。黒板には既にグループ分けされたプリントが貼られていた。名前を探し、指定の席へ座る。その男子も私と同じグループの席にいた。ああ、石丸清多夏先輩の顔は分からないけれどきっとこの人なんだろうなと察する。


「ふむ。君が超高校級の執行人、みょうじくんか」


机の上に鞄を置くと、石丸先輩は腕を組みながらジロジロと見つめる。


「先生方から話は聞いている。何でも課題の評価が芳しくないからぜひ見てやってほしいと…僕が直々に後輩を持つ以上、先輩としてしっかりと指導させてもらう!」


ハッキリとした口調でビシッと人差し指を突きつけられる。しまった、そういうことか。


「まず最初に自己紹介だ。僕は石丸清多夏、超高校級の風紀委員だ」


こんな研究機関に風紀委員とは中々場違いだ。マジマジと彼を見つめ返す。
入学前にネットで見たことがある。有名進学校トップの成績を保ち続け、まさに努力の塊だと。そんな彼は先生方の"お気に入り"に違いなかった。
学校で優秀な成績を取るというのは非常に難しい。テストだけではなく、先生方に好かれるのも重要だ。
私の前の高校は贔屓が強かった。しかし、この希望ヶ峰学園は顕著にエコ贔屓が表れている。
目の前の彼は品行方正な彼……悪く言えば希望ヶ峰学園の"操り人形"にされている。


「……どうした?」


石丸清多夏は何も返事を返さない私に小首を傾げる。希望ヶ峰め、私のことを使えない人材だと思っている。だから、"お気に入り"を送ってきたのだろうか?仕事が出来る人間にする為、あわよくば彼含め私までも希望ヶ峰学園の犬にする為に…?考えたらキリがない。


「いえ、何でも。よろしくお願いします、先輩」


ニコリと笑いかける。もう私の中の純粋なんてこの学園のどこかに落としてしまった。ええい、もうどうにでもなれ。せめてこの1ヶ月は乗り切ってやる。フィールドワークの評価で最低評価貰ったら辞めてやるこんな学園。
そんな私の心中とは裏腹に石丸先輩は僅かに口角をあげた。


「ああ、よろしく頼む!」


キリッとした目は私の目を射抜くように見つめた。挨拶を終わらせると多くの生徒が教室に入る。上級生も予備学科の生徒も私を必ず一目見て席に着く。放っておいてほしいという願いは届かなかった。

先生が来てはフィールドワークの説明を行う。グループの編成は見た感じリーダーである77期生、78期生の上級生1人、自動的に副リーダーになった79期生1人、そして予備学科は10人となっている。今日は自己紹介とテーマの決定だ。グループは一通りの自己紹介をするが私の番になると僅かに舌打ちの声が聞こえた。それは予備学科の生徒だった。


「……何でこいつが本科に。しかも副リーダーかよ」


恐ろしい剣幕で私を睨みつけられ、身がたじろぐ。無理もない。予備学科は人数が多い故にフィールドワークに行けるのは成績上位者のみ。しかもフィールドワークで成果を上げれば本科へ入れるという噂も飛び交っている。予備学科からしたらミスをした私のことを忌み嫌うだろう。


「君、今は自己紹介のときだ。余計な言葉は慎むように」


隣の席にいた石丸先輩が真顔で諫言すると男子生徒はまた舌打ちをして黙り込む。石丸先輩に僅かに頭を下げて着席する。
これから頑張れるだろうか。途方もない不安に駆られながらテーマを決める話し合いに参加した。


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