…少し位はサボってもいいよね。
私は少し気を持ち過ぎて疲れているのかも知れない。休もう。フィールドワークから顔を出せばいい。
今日はすごく良い天気だし屋上で太陽の光を沢山浴びるのが1番良い。
…けど、リーダーには流石に顔を合わせた方がいいかも。配布されたプリントに書かれた人物名を見る。私の名前がある欄の1番上の名前には左右田和一と書かれていた。
一体どんな人だろう。優しい人だといいけれど。リーダーには申し訳ないけれど、授業には出ないで放課後辺りに挨拶に行こう。
屋上へ向かう足取りはとても軽かった。毎日教室へ行くときなんて重りをつけられたかのように憂鬱だったのに。
階段を上がる度に気持ちが跳ね上がる。階段を上がり終えると屋上へ続く扉があった。

さて、とノブを捻ろうとすると扉はすうっと消えてしまった。あれ、と疑問に思ったと同時に誰かとぶつかってしまう。


「わっっ!?」
「んっ!」


驚いた声からして男子のようだ。どうやら扉は彼が開けたから消えたのだろう。思いきり顔面が男子の胸元にぶつかり、じんと鼻が痛む。


「わ、わりぃっ……ってオメーは79期生のみょうじか?」
「え?ああ、はい」


鼻を押さえていると急に名前を呼ばれて顔を上げる。そこには私の顔を訝しげに覗く派手目の男子がいた。
蛍光でも入っているかのような鮮やかなピンク色の髪にピンク色の瞳…希望ヶ峰の制服を着ないで青いツナギに黒い帽子を被っている。77期生か78期生のどちらだろう。


「へぇー、あの"有名"な…」


ボソリと呟いた言葉は私の心をチクリと傷つける。有名の意味は嫌でも理解した。


「あ、そんな気難しい顔すんなって。あの生き物珍しいヤツだったみてぇだからどうしても吐かせたかったんだろ?オメーに期待してたんだよ。結果は散々だったけど」
「……ああ、はい……」


グサグサと刺さる。相手は悪気があるわけではないけれど、今となってはあの出来事がトラウマに変わりつつある私は思い出すだけでも気分が悪くなってしまう。
その様子を見たのかあー、と言葉を詰まらせながら男子は口を開く。


「過ぎたことだし気にすんなって。そうそう、フィールドワークあるだろ?メンバーの名前は聞いてるか?」
「はい、左右田和一先輩という方がリーダーの…」
「…へへっ、そう言われると照れるぜ。このオレが左右田和一先輩だ、よろしくな」


言葉が出なかった。まさか今日1番に会った人がリーダーだとは。
そんな左右田先輩は照れくさそうに頭をかく。先輩と呼ばれるのが嬉しいのだろうか?


「はい、よろしくお願いします」
「そういや、何で屋上に来たんだ?」
「あ、あの…えっと休もうと思って」


途端に自分の声が小さくなるのが分かった。フィールドワークで同じメンバーに授業サボるって言ったら少なくとも良い気はしないだろう。


「ほー。まぁいいんじゃねぇの?」
「えっ!?」


思いがけない言葉に変な声が出てしまう。左右田先輩は私の声につられて驚いた声を上げた。


「な、何だよ?」
「いえ、サボるって言ったら怒られるかと…」
「オレも自己紹介のときはサボってたぜ。今年もサボろうって思ったけど映えあるリーダーに選ばれたからな。面倒だけど出ねーとな!」


ギザギザの歯を出しながらケラケラと笑う先輩の姿を見て少しは心が休まった気がする。
今日はサボってもいいのかなって一段と思えた。


「そっちも色々あると思うし、自己紹介のときはオレが休みって伝えておくぜ」
「あ、ありがとうございます!」
「貸しってやつだな。今度フィールドワークでオレの顔を立ててくれよな!」


じゃあな、と手を振って階段から降りていく。顔を立てる、か。そんなことを私なんかに任せたら信頼が落ちそうなものだけど。
そう悲観に思いながら初めての屋上に足を踏み入れる。景色は都会の街を一望できるほどに眺めが良い。ポカポカと暖かい陽気が眠りを誘い、フェンスに寄りかかって日向ぼっこをすることにした。


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