研究機関 希望ヶ峰学園

それは秀でた才能を持つ高校生を集め、様々な物を研究する場所。
しかし、そんな研究機関の中に才能を偽っている者もいる。それは学園側からの命令で才能を偽っている者もいれば、自分の才能を認めたくないが為に自分で隠す者もいた。

私、みょうじは後者の方だ。スカウトされて入ったとはいえ、どうも自分の才能が好きになれない。超高校級の執行人。きっとこの機関にしか使われない才能だと今になって気付いてしまったのだ。

私はこの希望ヶ峰学園に入学して後悔していた。
79期生として入った私はすぐに学園側から呼び出しを受けた。別に何かやったというわけでなくこれから"やる"のである。

地下の長い階段を降りて様々な扉の中から指定された扉を探し、無機質な冷たい扉を開け中に入る。そこには数人の先生方と大きい檻の中に異形のものが蠢いていた。スライムのような液状の形が低い唸り声を上げ、ここから出せと言っているかのようにブツブツと何かを呟いている。
今までに見たことのない異質な存在を目の当たりにして恐怖から細かく体が震え出した。


「みょうじさん、是非君の力で拷問を執行してほしい」
「…は」
「どこから来たのか、仲間はいるのかって聞いても答えない。君のことをこの子に教えたよ。怖い人だってね」
「わ、私が…?」


勝手に話を進められて訳が分からない。
要は執行人である私がこの異形の生物の命を握っているということだろうか。
今までに見たことのない生き物と自由に会話だなんて無理な話だ。ましてや拷問だなんて。
先生方は私の近くに拷問器具を運び出した。明らかに殺傷能力を持った物や痛めつける物…想像しただけでも恐ろしい器具ばかりだ。


「…どこから来たのか、教えてくれるかな?」
「……」


優しく話しかける。だが異形のものは蠢くだけで話す様子も無かった。先生方は私の頭上から訴えるように見下ろしてくる。
さあ、やれと。やってくれと。

視線が痛い。恐怖を覚える程の視線を背中に浴びせられる。大きな期待を背負いながら運ばれた器具の一つに手を出した。

鋭く尖った針…針の先端をチクリと異形のものに刺すと異形のものの体が跳ねた。


「ア……アアアア……ッッ!」
「おお、流石だ…っ、針が苦手だともう見抜いた!」


先生の声が興奮したことによって高くなる。
まるで選手が点を入れたような騒ぎようだが私の心は罪悪感が生まれた。
傷つけてごめんなさい。たとえ人ではなくても痛がってる姿を目の当たりにすると心が痛む。


「もう一回聞くよ、どこから来たの?」


お願い。言ってほしい。
言ってくれたらこれ以上傷を作ることはないから。
私もあなたもお互い苦しい思いをしなくて済む。


「……」


ギョロッと私の顔を憎らしそうに見つめ続ける。よくもこんなことをしてくれたな、とでも言うかのようなおぞましい視線から目を逸らしてしまう。
きっと相手にも事情はあるに違いない。仲間や家族の存在がきっとあるんだ。だからこうして痛めつけられても言わないのだろう。


「……ウ、ア」
「……お願い………」


お願いだから…!
このときの私は焦っていた。早くしないと怒られるって、どうにかしないといけないって、目の前の与えられた仕事を確実にやり遂げないとって。
目まぐるしく頭の中で言葉が回り続け、冷静に考える暇はなかった。
そんな状態で思いきり針を異形のものに刺してしまったのだ。力一杯に。


「あっっ……!」


異変に気づいた先生が叫ぶも時既に遅かった。私の刺した所は相手の急所に当たったようで悲鳴を上げ、そしてこの声は弱まり…


「……アリガトウ。カゾク、マモレタ」


異形のものから僅かにその声が聞こえた瞬間、体がガクリと崩れ液体のようにドロドロと溶けていく。


「なんてことを……!?」


どよめく部屋の中。何人かの先生が私に掴みかかって何か問い詰めているようだったが何も頭の中に入らなかった。
私は生き物を殺してしまった。その証拠に両手に持っている針から青色の血液がダラダラと垂れていった。

2週間経ち、やっと79期生の人達と馴染むことが出来た。しかし学園では既に私は有名だった。
"重要未確認生物を殺した"という事実を先生方が他学年の生徒に伝えたらしい。私のことを取り上げては、これは禁忌だと教訓として教え込んだ。

それからは私に対する先生方の当たりが強かった。いくつかの課題を出したって、"殺したから"という理由で最低評価を貰う羽目になる。
最初こそは悔しかった、ぐうの音も出ないほどの成績を残してやろうと張り切ったって成績は良くならない。数ヶ月経った頃、私のやる気はもうどこかへ消えてしまった。過去の出来事が私を沼の底へ引き摺り落としていった。クラスメイトも同情の声は消え、最低評価の私を陰で笑う声が増えていった。
そんなある日、ホームルームであることを担任から聞かされる。


「みんなにはフィールドワークをしてもらう。リーダーは上級生の者にやってもらい、後は君達と予備学科で構成されている。テーマは自由だ!成果を得られなかったとしても行動過程で評価するからな」


行動過程…ねぇ。担任の希望を持った瞳に鼻で笑った。何をしたってこっちには最低評価しか与えない癖に。チラチラと笑いながら私の反応を確認する人がいたけど無視を決め込んだ。
ホームルームを終え、自分の部屋に戻る。
片付けやシャワーを浴び終えると外はすっかり夜で静寂が訪れる。木々のせせらぎを聞きながら考え事をするのは好きだ。ベッドの上に仰向けで寝転ぶ。

フィールドワークは1ヶ月近く行動するという大掛かりなイベントだ。もし私が出たら私と同じメンバーに多大な迷惑を掛けてしまう。
私がいるだけでメンバーの評価が勝手に下がるし、白い目で見られる未来が見えた。
だからって1ヶ月もサボると言うのはとても辛い。評価が下がり、最悪進級出来ない可能性もある。
……やらない後悔よりやる後悔。やらずに留年するならやって留年するか。私と同じメンバーの人に申し訳ないと思いながら眠りにつく。


晴れやかな朝。ああ。瞼が重たい。起き上がりたくない。心の中で思いながら体を無理矢理起こす。
…今日はフィールドワークのメンバー自己紹介。私の顔を見てメンバーはどんな顔をしてくるのだろうか。
……想像しただけで泣きそうになる程胸が苦しくなった。私が招いた結果だけど、これから1ヶ月居心地が悪くなる所へ行くのは気が進まない。

メンバー紹介……どうしようか。

A. 最初こそ肝心だ。出席しよう。
B. フィールドワークから顔を出せばいいか…。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -