何か気を紛らわせて時間が経つのを忘れればいい。そう思って最新のゲーム機がある娯楽室へ足を運んだ。石丸君もそこには絶対行かないだろうし。 とはいえ、ここは男子達がよく遊ぶ場所だから勇気がかなりいる。こっそり中を覗くと誰もいないようでホッと一安心する。 やった、貸切だと内心喜びつつドアを開ける。確かに貸切状態でどこから遊ぼうかと物色していると声が聞こえた。 「お、誰かいるのか?」 肩を震わせながら振り向くと、少し驚いている様子の左右田君がいた。左右田君と会ったのは2回目、実は石丸君から助けてくれたときが初めて会話したときだ。 相手が派手な容姿をしているせいか変に萎縮してしまう。 「いや、そこまで怯えられるとオレも驚くぜ…」 「そ、左右田君…」 何か話さなきゃかなと会話に困っているとふと私の前を通り過ぎ、ダーツマシンの前に止まった。左右田君の手には工具箱があった。そういえばメカニックという才能があったんだよね。 「何か修理するの?」 「ん、おう。このダーツマシンが調子悪いんだと。遊べねーから早く直せってうるせーんだよな」 「そっか、だから今日は娯楽室に人はいないんだね」 「ったく、オレだって遊びたい年頃の高校生なのに。やんなっちゃうよな」 な?とこっちを見て笑う左右田君に確かに、と小さく笑い返した。 なんというかここ最近で最近まともに話した相手だ。 帽子を被りなおしてドライバーを使って作業する様はまさに超高校級だ。言葉が出ない。もちろん邪魔したくないというのもあるけど見事な手さばきに感銘を受けているせいでもある。 「よしッ、こんなもんだろ!」 「は、速い…!」 「これでもゆっくりな方だぜ?まー軽い不具合だったからけどな。…んで何でオメーいんの?もしかしてダーツか?」 「あ、いや…何か遊べたらいいなってだけでダーツがしたいってわけでも」 決めてねーのかよ!というツッコミがくる返しだなコレって思っていると左右田君は目を逸らしブツブツと呟いている。 …あれ、私変なことしちゃったかな?思わず冷や汗が垂れていく。 「……そういや、みょうじっていったか?」 「う、うん!みょうじです!」 「よーし、みょうじ!少し遊んでいかねーか?」 「……えっ!?」 急な誘いに心臓が飛び跳ねる。左右田君に遊びに誘われるのは意外だったからだ。 「あ、……えっといいの?」 「い、いいに決まってんだろーが!」 「…んー、少しならいいよ」 どうせ1人で遊ぶよりかはマシだろう。それに何故だか分からないけど、左右田君なら大丈夫だろうという謎の安心感がある。今まで恐ろしいものを見てきたせいか目の前の人物が普通に思えてくる。 「おー、ナイスワン!みょうじも上手くなってきたな!」 「うう、ダーツって思ってたより難しいなぁ」 「初めてなんだろ?じゅーぶん上手いぜ?」 「そうかな?ありがと」 左右田君はニコニコと笑っていて本当に楽しんでそう。私といて楽しいのなら良かった、と安心しているとふと奥の箱型の機体に目が釘付けになる。 「プリクラ?」 「ん?」 「いや、あんなのあったかなぁって」 そう唸らせていると、あーという声が聞こえてくる。 「ありゃモノクマのモンだな。プリクラで遊んでいいんだと。そしたら女子達やカップルが使ってるんだよ。あー、いいなー。オレもそんな青春欲しいぜ!」 大きめの声を出しながら左右田君は羨む。普段男友達で撮りそうなものだけど、そう思ってると私の方へ振り向いた。 「うし、試しに撮ってみるか!」 「え、プリクラを?」 「それしかねーだろ!まァなんだ?2人で遊んだ記念っつーことで」 「んー、分かった」 「っしゃっ!サンキューな!そうとなったら行こーぜ」 テンションが上がってる左右田君の後を追いかけてプリクラ機の中へ入った。聞いてみると彼はどうやらプリクラは初めてらしく誰かと撮ってみたかったとか。 私の中で抱いた疑問をぶつけてみた。 「それ、最初が私でいいの?」 「おう!オレはみょうじと撮ってみてーし!」 「ありがとう、何だか照れるね」 お金やモノクマメダルとかいうやつを入れる所は無い。どうやら画面にタッチすると始まるみたい。 そっと左右田君の人差し指が画面に触れるとウサギのマスコットらしい声が響く。 「はぁーい!ミナサン揃ったら画面をもう一度タッチして次に進んでくだちゃい!」 もう一度触れるとフレームを選ぶ画面になる。 何だかこうして見るとデートみたいで恥ずかしくなってくる。それに今までの学園の様子に比べれば平和な世界がこの箱の空間の中で広がっていた。 「みょうじ、好きなの選んでいいぜ」 「本当?ありがとう」 多彩なフレームばかりだったが自分の好きなものを選んでいく。好き嫌いのなさそうなシンプルなデザインになった。 「はぁい、それじゃあ撮りまちゅよ!らーぶらーぶ、してくだちゃいね!」 らーぶらーぶ…何だか2人きりでこう言われると恥ずかしいな。 ウサギのキャラクターがそう言った瞬間、後ろからガシッと抱きしめられた。 「ひゃっ!!」 「らーぶらーぶ、だってよみょうじ」 「え、な、何?」 「……悪いな、オレはもう我慢出来ねェ」 「な、何の我慢!?そ、左右田君?」 気づくべきだったのだ。 『1週間前に学園内のほぼ全員がウイルスにかかりました!というよりみょうじさん以外ね!』 私以外…。 それはつまり彼、左右田君は既に。 誰しも本能を曝け出さない、正に能ある鷹は爪を隠すのだ。 「もう逃がさねーからな」 獲物を逃さぬ猟師のように、彼は口角をニヤリとあげた。 … 「ほー、よく撮れてんなコレ」 「あ、あの、見ないでください…」 「ん、見てみろって。可愛いじゃねーか」 「恥ずかしいってば!」 特に恋人関係でもないのに抱きしめてるプリに目を向けることも出来なかった。 「あーもう…尚更疑問が浮かぶ。どうして私なんだろうって」 「そりゃ、オメー可愛いじゃん?寧ろなんで襲われなかったんだよ」 「どうせ左右田君が見てたんでしょ…」 「…どうしてそう思うんだ?」 前の石丸君のときもだけど、ほぼ毎回教室の外で何かあると半分の確率で左右田君が割り込んでいたから。 そう告げると左右田君は誇らしげに笑う。 「そっか、分かってたんだな。待たせて悪りーな」 「それでも好きな人いたんでしょ。最低です」 「いやいや!オレ結構みょうじのこと気になってたんだって!」 「…嘘つき」 「わーーッッ!!待てって!みょうじ!」 そう叫びながら私の背後から両手をぐっと掴まれる。 かなり強くて振りほどけなさそうだ。 「ち、ちょっと!」 「待てって!何なら"続き"してやろうか?」 「つ、続き?」 「好きでもねー奴とあのプリクラの続き出来るかって!な?みょうじのこと好きだぜ?」 「えっ、えっ?」 戸惑っている私を悠々と抱える左右田君は娯楽室から出て廊下に出る。 廊下にいた人々が一斉にこちらを見る。は、恥ずかしい!降ろしてくれたっていいのに! 「そ、左右田君…!?」 「ん?告白ならオレの部屋でな?」 「ち、ちょっと!どういう…きゃっ!は、走らないで!怖いよー!」 ガッチリとした腕から解けるなんて無理だ。ゾクリと背筋が冷える。 これから彼に何をされるのだろう。 それでも満更でもない自分がとても恐ろしかった。 まさか私は心の奥底では左右田君のこと…… そう考え込む間も無く私は彼の部屋まで連れて行かれるのだった。 |