「助けて……ッ!」 「人間が私達を喰らうんだ!どうして…っ!?」 「お願い。姫様だけでもお逃げください…!」 海上で逃げ惑う人魚達、それを大量の船が根こそぎ捕らえていく。 ただ抵抗することも出来ず逃げることしか出来なかった。 「いた!アレが人魚だ!食用としても観賞用としても申し分ないぞ!」 「一斉に捕らえろ!ただし生け捕りだ!これからは人間が人魚を繁殖して増やしていくんだ!」 仲間の悲鳴が頭の中を駆け巡っていく。どんなに願っても人間の耳には何一つ届かない。 やめろ…やめてくれ…ッッ!! 「姫様!姫様!?」 「ううぅ…………っ、」 聞き慣れた側近の声に目を覚ました。 ここ数ヶ月で悪夢を見る。まるで予知夢のように段々と鮮明になっていくのだ。冷や汗が止まらず、眠っていたはずなのに息切れを起こしている。 「大丈夫ですか?うなされていたようですが」 「……悪い夢を見たんだ」 心配する側近の手を取って両手で強く握りしめる。すると側近は私に笑みをこぼす。 「何を笑っている?」 「いえ…姫様がこうして甘えてくるのって滅多にありませんから」 「そうだっけ?」 「ええ、いつも強がってるんですから。私めも困り果てていたのですよ」 「…そうか。あのさ…隣に座ってていいから今はこうさせて」 「……あらあら」 まあなんて可愛らしいと側近は私の手を取ってそばにいてくれた。こんなしょうもないワガママも笑顔で聞いてくれるのは人魚達だけだろう。サメなんかは知らんと放っておくのだろうが。 だからこそ体がボロボロになっても逃げて、と叫び続ける側近の姿が痛々しく映る。悪夢の中で見た光景だ。 「なまえ、入るぞ」 扉を開けるとそこは国王と女王…もとい私の両親がいた。 「はい、どうしましたか?」 「来週にはなまえの即位式が行われる。なまえの公務は出来がいいと言われておる。良い娘を持って幸せだよ」 「ありがとうございます」 「なまえの大好きな物もシェフに作らせたわ。さあ朝食にしましょう」 側近や両親と共に食堂へ向かう。そこには大好物の食べ物ばかりだ。 「体調は大丈夫なのか?最近悪い夢を見ると聞くが…」 「うん、今もこうして好きな物食べられるから元気が出ますよ」 「心配しているのよ、なまえの公務に支障が出るんじゃないかって」 「大丈夫だよ、安心してね」 心配してくれる両親を安心させる為に朝食を平らげ、公務へ戻った。 仕事ばかりでダルそうなんて昔は思ってたけど、やってみれば意外と時間はあっという間に過ぎていくものですっかり板についていた。 貝殻のかけらで出来た資料を手に取ると海の世界は不穏な状況になっていると確信する。 ここ最近のことだが海の生き物全般、特に人魚が失踪するという事件が多発している。犯人はもう知っている。人間共だ。最近の乱獲はまるで脅迫だ。街では人魚を食するという文化が出来ているのではという噂まで拡がっている。人間を恐れる者もいれば人間を憎む者だっていた。 「一体いつになったら決断なされるのですか!?」 「わ、分かってる。でも今は落ち着くべきだ」 「なまえ姫様、人間界の武器より海の武器の方が明らかに上です!私達を守るには最大の攻撃が…!」 「言わせてもらうとそれは君の意見だ。周りの意見も聞いてから考える」 中には家族を人間に奪われた者もいる。憎む気持ちは痛いほど分かるが、立場上感情で動いてはいけなかった。 人魚がしぶしぶ公務室から出たと思えば別の生き物が中に入ってくる。 「ほーぉ、少し前まではある人間のことになるとムキになってたのにな」 「よしてくれ、サメ。もうアイツは忘れることにしたんだ」 公務室に入れないように横幅を狭くしたのに器用に入ってきたサメはニヤリと口角を上げる。 「良いことだ。最近物騒なんに会いに行かれたら困るしな」 「……どう思う?」 「戦争起こしたっていいぜ。俺達サメは本気を出せば人間の1人や2人やれるさ」 「サメ自身が武器か、何だかんだ死なれたら困るんだけど」 「お、デレ期か?」 「前言撤回」 サメにちょっかい出されつつも資料に目を移す。 「で?何で来たのさ」 「オレがある日浅瀬に身を潜めていたときだ。人魚を喰った人間を目の当たりにしてな。砂浜で人魚の肉を焼いてやがった。いわゆるバーベキューってやつか?全く食うために使ったゴミは捨ててねーしよ」 「う…」 サメの言うことは信じられなかったが、サメは今まで嘘なんて吐いていない。それに冗談だけでこんな嘘は言わない。 それならサメの見た光景は本当のことだろう。想像しただけで吐き気がする。 「…大丈夫か」 「大丈夫、続けて」 「……まぁそいつら食べただけでそのときは何も無かったんだけどよ。次の日も泳ぎにきたんだよ、そいつら。そしたらやけに若返ってる気がするんだ。活き活きとしてる感じがした」 「……そうか、不老不死か」 「俺はそこしか見てないが、周りの魚達によると人魚を喰った人間でも老いたり死んでるやつがいるらしいな」 「ということは私達は老いたり、死ぬのを遅らせている…そういう効果を持つのか」 私達にそんな効果が本当にあったなんて。噂とばかり思っていたのに。サメの方に目を向けるとサメは険しい表情を変えずに低い声をあげる。 「1番悪い話だ。希望ヶ峰学園を主体とした人間ら組織がお前を狙ってる」 「は、私が?」 驚いた声を上げてしまう。希望ヶ峰学園が?……まさかと思いながらサメの言葉に耳を傾ける。 「人間が捕らえた人魚の中に知っている奴がいたらしい。昔、人魚の街で俺がお前を噛みちぎってもお前が再生したこと。お前が人魚姫だとな」 「……はは、情報漏洩ってやつか。それなら」 「ああ、アイツが持っていったネックレスはお前の物だってバレたと思っていい」 全く人魚姫というのも嫌になるな。と乾いた笑みを浮かべた。人魚姫は他の人魚と違って再生能力がある。その能力を使って良からぬことを考える人間が現れたっておかしくない。 ただこの世に生まれ落ちただけでこんなにも私を苦しませるのか。 「…分かった。考えておくよ。しかし厄介者のお前が出世するなんて思わなかったよ。まさか私の護衛役になるなんてな」 「フッ、お前のことなんて小さい頃から知ってる。お前の親もこの緊迫した状況に俺みたいな強い奴を選んだんだろう」 魚も人魚も海に住むものはみんな共通の敵が出来たことで結託している。だからこそ権力の強いサメを護衛に選んだのだろう。サメは私に尾ビレを見せて扉から出ようとしたときにふと立ち止まった。 「…アイツ、婚約したらしいな」 「……うん、知ってる」 「忘れたと言っておきながらきっちり調べてるじゃねぇか」 「人間の動向を伺うと自然と情報は入っちゃうものだよ。人間の王族の婚約となるとね、沢山情報は入るのさ」 人間の婚約の情報が書かれた1枚の紙をビリっと大きく破った。出来るだけ綺麗に、アイツとあの子を引き裂くように。 はは、何て意地が悪いんだ。自分の性格の悪さに呆れ果てた。 そんな姿をいとも簡単にサメに見られてしまって溜息を大きくつかれて出て行った。 「…私だって辛いんだよ」 本当は左右田の情報が入らないような遠い所へ行きたくても駄目なんだ。守りたいものもあるし、自分は守られるべき存在だって分かってる。 『そういやなまえって人魚姫って話知ってんのか?』 『に、人魚姫?……残念だけど知らないな』 『マジかよ!なら軽く教えてやるぜ!』 人間の王子に恋した人魚姫は魔女に頼んで人間にしてもらったけど、王子はお姫様と結ばれることになった。 人魚の姉達から貰ったナイフで王子を殺せば人魚に戻れる…。そんなチャンスを貰っても人魚姫は王子を殺さずに泡となって消えた。 ふと思い出した左右田との会話に想いを馳せる。途中まで同じストーリー。けどここからは違う。これでいいんだ。左右田が好きな女の子と一緒になれた。それでお終いでいいじゃないか。ぎゅっと強く白のドレスの裾を握りしめた。 「…さて」 書類をしまい、自分の部屋に戻ることにした。 「…少しくらい見に行くだけでもいいかな」 ……… 煌びやかな空間にオレがいるのはあまりにも場違いで昔の自分に言っても信じてくれな…いや、信じるだろうな。 希望ヶ峰学園では散々な目に遭ったものの、功績をあげたことにより卒業を迎えることも出来た。 更にはソニアさんと婚約するまでに至った!惚れた頃のオレならスゲー喜んだことだろうな。 …昔のオレなら。 「左右田さん、一緒に踊りましょうか」 美しいドレスを纏ったソニアさんは更に美しく、オレをダンスに誘う。いや、主役になってるオレら2人なら踊らないとおかしいだろうな。 「はいッ!ソニアさんの為に踊らせていただきます!」 当然だがダンスの心得なんて短いレッスンの中で完璧に身につけられる訳なくて、ステップをミスったりしたもののソニアさんがフォローしてくれた。 招待客の拍手を聞き続けながら立ち尽くす。恥ずかしいけど達成感が湧いてくる。 「さて、ご馳走といきましょうか」 ソニアさんの凛とした声の合図でパーティ会場にご馳走が運ばれる。特にある料理では歓声が上がった。 「……ッ!?」 それは刺身だ。ただの刺身じゃない。キラキラと脂がのった刺身に尾ビレ、何よりも目立つのは頭、人間の頭だ。 それを認識した途端に胃の底から込み上げる吐き気が襲いかかる。 「おお…これが」 「人魚だ!」 「ええ、人魚を食べても不老不死にはなりませんが美容や健康に大変良いと聞いています。実際に病の為に伏せっていた者に与えた所、元気になられたみたいですよ」 「すごい!」 「こんな人魚の肉を食べられるなんて!」 喜ぶ招待客達にソニアさんはニコニコと愛想を振りまき、説明をする。 その説明は分かりやすく響くもので、周りの招待客も感嘆の声を上げた。 「ええ…ですが私達が所属していた希望ヶ峰学園では大物を狙ってるそうですわ」 「そ、ソニア、さん…」 隣にいたソニアさんに声をかけようとしても声が震えて思うように声が出ない。 ソニアさんは首元につけていた美しい光を放つ真珠のネックレスを周りに見せた。 「このネックレスの持ち主である…人魚界の王女様、なまえ姫ですわ」 なまえ、姫…。 なまえという言葉に聞き覚えはあったものの、いざ姫という言葉をつけると新鮮で違和感だった。 会場はしんと静まり返る。しかし招待客の眼は獣を狙うような瞳だった。 「なまえ姫…」 「驚異の再生力を持つんだとか…それが本当なら永遠に俺達は人魚の肉を食べられる!」 口を開けたままで閉じることも出来なかった。上半身は人間と変わらない人魚に抵抗が無いのか。 「ええ、待ちきれない人もいるでしょうし皆様でいただきましょうか」 「ああ乾杯!」 「乾杯!」 「…左右田さん、どうしてボーッとしてらっしゃるのです?」 「…あ、すいません。ソニアさん。…乾杯」 言葉が途切れつつもソニアさんが持つグラスに軽く乾杯をする。それでも飲む気なんて全く起きない。きっと今のオレはぎこちない笑顔だろう。 完全に食欲が失せてしまったみてーだ。人魚を喜んで食べる招待客を見て気分が更に悪くなる。 『…ふーん、人魚姫ってそんな話なんだ』 『まァバッドエンドだけどな。けどオメーにはこんな話関係ねーか!』 『…さぁどーだろうね?』 『は、ま、まさか本当に人魚姫……なーんてな!オメーが姫だなんて信じられねーぜ』 『はは、勝手に思ってればいいよ。私は人魚なんだから、ね』 「…………うっ」 ふと脳裏に浮かんだなまえの笑顔が心にグサリと刺さった。押し寄せる嫌悪感、吐き気が喉の奥まで出かかっていた。 「そ、ソニアさん、悪いですが少し席を外しますね」 「あら、でしたら左右田さんの分まで人魚のお刺身は残しておきますわ」 「い、いえ!オレ結構腹一杯でして…失礼します!」 ソニアさんの心配を差し置いて自分は会場から抜け出した。ソニアさんには悪いことしたと思ってるが今はこの体内の嫌なものを全て吐き出したかった。 「……ッ、はぁっ、うぇっ」 トイレに駆け込んで静かに吐き出す。 腹一杯なのは嘘で何にも食べられなくて最早胃液しか出ないのだが。 切り落とされた頭、刺身、尾ビレからついあいつのことを思い出してしまう。いつもオレのことをからかったり馬鹿にしてくるが、意外と気遣ってくれたりオレのことを助けてくれた。 オレが海に沈められたときはあいつが助けてくれた。オレにネックレスを渡してくれたのもきっと希望ヶ峰学園でのオレの功績をあげるためだったのだろう。 そのおかげでオレはまた消されることも無かったし、何とか希望ヶ峰学園所属でいれたしこうして卒業も出来て生きていける。 月の光に照らされ、星空のような砂浜に佇むあいつの姿に胸がぎゅっと締め付けられた。あのとき、この世とは思えない光景に完全に惹かれていったのかもしれねェ。 あれから数年経っている。今では人間と人魚の関係性は悪化している。人間のエゴで人魚は根こそぎ乱獲され、食されている。 オレはソニアさんと正式な付き合いを始め、今こうして婚約パーティまで開かれた。 …あいつは元気だろうか。好きな女がいるのに別の女のことを思い出してはいけないのだがふと浮かんでしまったものは仕方ない。 「…はぁーあ」 半年前になまえが本当に人魚姫だと知ってしまった衝撃は昨日のことのようだ。それはオレが希望ヶ峰学園に寄贈した真珠のネックレスがキッカケだ。 特殊な技術が施され、人間界ではあり得ない製法だったらしい。それを調べたソニアさんが学園に直訴してそのネックレスはソニアさんの物となった。 その出来事は希望ヶ峰学園内の生徒にも知れ渡り、人魚姫を捕らえろとみんなが躍起になっていた。 会場へ向かう足取りが重い。少しだけ夜風に当たれば楽になれるかもしれねェ。 廊下の途中にあるバルコニーの扉を静かに開ける。 目の前に広がる夜空と海は気持ちを落ち着かせるには充分だった。手すりに肘をつき、さざ波の音を聞いていた。 「……?」 月の光の反射だろうか、海の中で白いものが通った気がした。 いや、まただ、また光っている。さざ波の中から聞こえる水の音はぱしゃんと軽い音を立てている。 まさか、そう思って海の方へ走り出した。 ……… ああ懐かしい。ここで初めて会ったんだっけ。今は人魚乱獲のせいで人の出入りも多くなっているからもう日向ぼっこなんて無理だろう。 あれから何年だろう。2、3年位か? アイツはどうしてるだろう。少し大人になっただろうか。想像しているだけでも楽しいがやはり昔の思い出の余韻に浸るのが楽しかった。 ここら辺も随分栄えたみたいだ。 あの建物は何だか騒がしい声が聞こえる。 人魚の…美味……ああ聞くのはもうやめよう。どうやらあの建物の中は私と同胞の子が食べられているんだ。 会えないのは分かってるけど、けどこうして思い出の場所に来れただけでもいい。それに決心がついた。 私達は食べられる存在ではないと教えなければならないようだ。 …砂浜を走る音が聞こえる。誰かに見つかってはいけないから早く戻ろう。城に戻って準備をしようと海へ潜ろうとしたとき。 「……なまえ?」 私の名を呼ぶ声が聞こえた。 振り向いた瞬間私の体はビクッと跳ねた後に固まって動けなくなる。 ゼーゼーと息切れを起こしつつこちらを見つめる男は数年前とほぼ変わりなかった。変わったのはその高価そうな服装ぐらいかな。 「…そ、左右田?」 小さく呼ぶと左右田は、口をぎゅっと何かを堪えているような表情を浮かべこちらに駆け寄る。 ああ、浅瀬まで来ちゃってさ。高そうな服が台無しだよ。 左右田は何の躊躇も無しにズボンを海水で濡らし、私の目線に合わせてしゃがみこんだ。 「…なまえだ、本当に…」 左右田は私を確認するように私の頬に手を添える。温かくてくすぐったかったけどそれは物凄く優しかった。 「何さ、別人だと思ったのかい?」 「だって、全然会えなかったしよ。それに…誰かに喰われたんじゃねぇかってスゲー心配した」 「はは、私は簡単に死なないよ…って泣いてる?」 「…まさか嬉しくて泣くなんて思わなかった。今スゲー嬉しいんだ、オメーに会えて」 「…っ!」 泣いているところを見られたくないのか私を引き寄せて左右田は私の背中に腕を回す。最後に会ったときも抱きしめてくれたっけ。…駄目だ。込み上げる愛おしさにどうしていいか分からなくなってくる。 「…私も会えて嬉しいよ。元気にしてるかい?」 「ああ」 「なら良かった。左右田も元気そうでなにより。けどこんなに服を濡らしちゃ体調崩すよ」 左右田の体を抱きしめ返すとまた更に力強く抱きしめてくれた。 「キレーだな、そのドレス」 「君もその服様になってるじゃん」 「素直に喜べって」 「君にも同じこと言える」 「…はは、オレも変になっちまった」 「ん?」 「………いや、何も言わねーよ」 「何でさ」 「最後に会ったときに伝えたしよ」 「聞いてない、もう1回」 「言いたいのは山々だが、もう無理だからな」 左右田の顔を見つめると申し訳なさそうに目線を逸らす。何ておかしい奴だ。左右田も2年経つと変わってしまったのだろうか。 「ふーん、そっか。…まあ元気そうで良かったよ。もう少しここにいたいけどきっと左右田を探しにくる奴もいるだろうし帰ることにするよ」 「あ。なまえ」 「どうしたの?」 「…誰かに喰われることなんてやめろよな」 「ふふ、そうなる前に泡となって消えるさ」 「オメーらしくねェな」 そう笑った左右田は立ち上がる。 もう一言、何か言いたくても何を言えばいいのか分からなくて。 「私はな、左右田」 「おう」 「喰われるなら左右田がいいんだよ」 「………ばっっ馬鹿なこと言うんじゃねーよ!!」 「面白いなぁ」 「からかったのか!?」 「それはどうかな?」 「だーっ、オメーはもう…へへっ」 ツッコミ能力は健在。だけど途中で左右田は笑い出した。その笑顔、まるで太陽みたいで見てるこっちまで嬉しくなった。 「…また元気で」 「おう、なまえもな」 「うん」 ずぶ濡れになった左右田を見つつ、どんどん海へと向かう。 「…じゃあね」 そう呟きながら手を振ると、左右田は笑顔で小さく手を振ってくれた。 このまま居続けると別れ際が分からなくなるから一気に海底へ泳いでいった。 後悔なんてなかった。今すごく幸せな気持ちだ。左右田に抱きしめられた体を自分でぎゅっと握った。 「オイ、どこ行ってたんだよ」 「ちょっと散歩にね」 「ほぅ……大変だ。人間が遂に人魚を捕らえるために大量の船が港から出たらしい」 深刻そうに呟くサメの頭を撫で、深呼吸をする。 ………ごめんね、左右田。 「サメ、城にいる人達を集めて」 「…!なまえ」 「決意したよ、このままやられる訳にいかないからね」 「……ふふふ、どこまでもついていくぜ」 不敵な笑みを浮かべてサメは泳ぎだしていった。 |