ご飯時から外れた時間帯であり、私達の学年だけ授業は無いからか食堂にいるのは数人だけだった。

やっとゆっくり出来そうである。石丸君に会ってからまともな食事が取れていないし。


「みょうじくん!こんな所にいたのかね?」


メニュー表から目が離せない。いや、声がした方に振り向けないのだ。何故ここにいる。まさか尾行されてしまったのだろうか。


「みょうじくん、無視はいけないぞ!」


ぐいと後ろから肩を掴まれる。もう離しはしないという意思の表れか掴む力は男子相応に強かった。


「お腹減ったの、学食くらい食べさせてくれませんー?」
「む、君はこんな時間になってまだご飯を食べていないのか!?」
「食べさせてくれなかったのそっちでしょ?部屋に連れ込もうとするし…」
「そ、そうか失礼した。それなら座りたまえ!僕が作ろうではないか!」
「へっ?石丸君が作るの!?」
「君はメニュー表見ていたと思うが…残念ながら今日は休みだ。その代わりキッチンは自由に使っていい日だぞ?」
「…あー、そんな日だっけ」


しまった、うっかりしていた。
あまりにもお腹が空きすぎて周りのことに意識を向けられなかった。
とはいえ、自分で作る余力は無い。目の前の人物のせいで疲労感がどっと溜まっている。


「…いいの?私の分作ってもらって」
「もちろんだ!何なら君の旦那候補に立候補しよう、いや、させてほしい!」
「あー、はい。どうぞご自由に…」


適当にあしらうと石丸君は私を半ば強引に椅子に座らせてキッチンへスタスタと歩いて行ってしまった。


陽射しが外から差され思わずウトウトとしてしまう。他の学生もチラホラいるが所謂リア充ばかりだ。

全員が男女グループで同性同士のグループが一切無い。あまりにも珍しい光景に思わずじっと見つめてしまう。
抱擁したり、2人でケーキを半分こしたり……何だか見てるこっちが恥ずかしくなってしまう。
寧ろ見つめてるこっちが悪いのではとも思えてくるし、何だかこの光景が普通すぎて私が遅れているのではとも思えてしまう。

キッチンから音が聞こえると思うと石丸君が料理を乗せたプレートを持ちながらこちらへ来た。


「みょうじくん、お待たせした!」
「…!」


図らずも感嘆の声を上げた。
シンプルながらも実に美味しそうな和定食。石丸君がはい、とお茶が入った湯呑みをテーブルの上に置いてくれた。いただきます、と手を合わせてオカズとご飯を一緒に口に運ぶ。


「すごい美味しい…!」
「本当か!それは良かった!」


お腹が空いていたこともあってがっつきたかったものの私の目の前に石丸君がジーッと見つめてくるものだから少しゆっくりめにご飯を食べる。


「あ、あの。そんなに見られると恥ずかしいよ」
「ハハ、君が僕の作ったご飯を食べる姿が実に可憐でな!」
「…っ、あ、ありがとう」
「恥じらう姿もまた僕にとって宝物だ。良いものは目に焼き付けないと」


…やっぱり様子がおかしい。さっきまでは普通に戻ったかと淡い期待を抱いていたものの願望はすぐに崩れ去った。


「ご馳走様です」


残さず食べ、お茶を啜る。石丸君が入れたお茶は手慣れているようで美味しかった。
食器を片付けないとと立ち上がると目の前から声が聞こえる。


「みょうじくん、僕が片付けてくる」
「えぇ、そこまでしてもらっちゃうと」
「気にするな!ただ運んでくるだけではないか!」


そう半ば強引に私の手から食器を取り上げた石丸君はすぐにキッチンの中へ入っていった。
何だか少しお節介というか、ここまでしてもらって申し訳ない気分になる。

一瞬にして石丸くんは帰ってきた。まぁ片付けるだけだから早いよね。…逃げようとは思ってたけど流石に追いつかれるし、タイミング見計らおうっと。


「さてみょうじくんはどこへ行くんだ?さっきは左右田くんと謎の煙幕に邪魔されたが今度こそは逃がさないぞ!」


座っている私を見下ろすように満面の笑みでそう告げられ、ブワッと鳥肌が立つ。超高校級の風紀委員が何てことを言っている。


「みょうじくんの用事もあるのなら、それを済ませてからでも遅くない。だが他の男がみょうじくんに近づいて欲しくないのも事実だ。みょうじくんがどこへ行こうが僕もついてこう!」


ポンと石丸君が私の肩を叩いた瞬間、


「…っ!?」


ピリッと肩から全身へ電流が流れたような刺激が襲いかかる。
今のは何だろう。静電気はこんな刺激ではない。何か欲を掻き立てられるような…そんな感じがする。


「…どうしたのかね?固まっているが」
「…ううん、何でもない」


何とか元気であることを取り繕った。石丸君に体が変と言えば保健室のベッド行きだ。そこまで進んでしまえばほぼ逃げ場がない。狼に喰われてしまう。性的な意味で。


「何やら体調が悪そうだが?」
「いやいや、元気だよ?」
「本当に?」
「ん、…!?」


石丸君が私の隣に座ったかと思うと、不意に石丸君の手が私の額に触れ、ビクンと体が跳ねた。熱があるかどうかを確かめているようだが正直それどころではない。
何故だか石丸君に触れられている所の体温が上がっていく感覚がする。肩といい額といい。


「いや、熱いではないか!」
「あ、熱くないもん!元気です!」


いや、実際体の熱が上がっているのは事実だがとりあえず元気と言わないとこの先どうなるかなんて分かりきっていた。


「…ほう、」


石丸君は誰にも見せていないような不敵な笑みを浮かべたとき、嫌な予感が脳裏をよぎる。
何も動けずにいると私の手を取られ、指と指を絡め合わせる。指の間から伝わる石丸君の熱にドキドキと鼓動が高鳴る。


「…っ」


それだけじゃない。体が異様に熱い。
これは病のような頭痛がして…とかではなく、これは欲求不満の感覚に近かった。
実際に手を繋がれる行為が心地いいと感じてしまうし、もっと触ってほしいとも思ってしまう。


「…みょうじくん、この後用事はあるかね?」


石丸君の問いかける姿が艶めかしいとも思えてしまう。頭がぼーっとしてくる。何でこんな様子がおかしくなったのだろう。記憶を巡らせると、ある予想が思い浮かぶ。


「ううん…無いよ」


首を横に振ると、石丸君はニコリと笑みを浮かべた。
まさか石丸君は作ってくれたご飯やお茶に何か盛ったのではないかと。
モノクマが恋愛させたくなる薬を持っててもおかしくない。何せこの学園をこう恋愛だらけにさせたのはモノクマなんだから。

…でもそんなこと考えてももう遅いし、何よりもこの熱い体を鎮めてほしい。
場所が食堂で公共の場だとしても関係ない。目の前にいる人物に抱きつく。
私に何かした犯人の癖にビックリしているみたいだけどすぐに私の背中に手を回し、頭を優しく撫でられる。
それがとても気持ちよくてこれで熱い体が治る…なんて筈が無かった。
もっと欲しいと思ってしまう。


「みょうじくん」


石丸君の声に過剰に反応し始める。もっとその声を聞きたい。


「どうして君はそんなに僕を求めるのかね?前までそんなことなかっただろう?」


ズルいなぁ、もう分かってる癖に。
とはいえ石丸君は他の人より鈍感な部分もあるから一概に分かってるとはいえないのだけれども。


「…石丸君に色んなことされたい」
「色んなことと言うのは?」
「…い、言わせないでよ!」
「僕には何のことやら」


上を見上げると石丸君は私を見つめながら期待している表情を浮かべている。ワクワクしながら私の言葉を待っているようだった。
ストレートに言うのも恥ずかしくて言い出す勇気も無くて黙ってしまうものの、体が限界に近づいてくる。


「あのね、石丸君に食べられたいの。手を繋いだり抱きしめたり…それでも物足りなくて、それ以上のことをして欲しい」
「…ハハ、よく正直に言ってくれたみょうじくん」


私は石丸君にお姫様抱っこされながら食堂を出た。
このままだと石丸君の部屋で明日までずっといることになるだろうけど、もうそれでいいとまで思える。
まるで逃げることを諦めた獲物のように私は狼に連れ去られてしまう。

石丸君の部屋に入ると、机は参考書の本棚があって、きっちりとしていた。
ベッドの上に私を寝かせた後その上に石丸君も乗っかってくる。体全体に石丸君の熱が伝わってくる。


「この後しっかりついてくるんだぞ?」
「…うん、分かったぁ」
「君のその甘い声は…僕だけに聞かせるんだぞ?」
「うん、だからこの体にした責任取ってよね?」
「…もちろん、一晩かけて治してみせよう」


お互いの唇が重なった所から狼による食事兼治療が始まり、夜が更ける頃までそれは続いたのだった。


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