「おはよう、みょうじ……と言っても昼だけどよ」
「ん、…おはよう」


聞き覚えのある声がして目を開ける。そこには左右田君が何かを運んでいるようだ。器と良い匂い…これは昨日作った残り物だ。味噌汁と野菜とお肉の炒め物…しかも器の数からして2人分だ。わざわざ温めておいてくれたようだ。


「ご、ごめんね。わざわざ用意までしてくれて」
「いーんだよ、これくらい」


オメーは昨日の夜働いたんだから、と私に向けて微笑んでくれた。左右田君はすごい優しいなって朝から温かい気持ちになる。


「いただきます」
「いただきます」


2人でブランチをしつつ、何かBGM代わりにとテレビをつける。
そこには昨日演奏したあの男性が特集を組まれていた。それを見た左右田君はほぉーっと小さい声を出した。


「……マジかよ、あいつって結構人気あったんだな」
「うん、やっぱりルックスと実力があるからね」
「ふーん、そんな人気者に好かれてるのにみょうじはそんな好きじゃねーんだな」
「んー、タイプじゃないんだよね。演奏で一緒になると毎回誘われるんだけど、毎回となるとしつこくて嫌になるかな」


そう正直に言うと左右田君は箸をピタリと止め、「そういうことか」と聞き取るのが難しいくらい小さな声で呟く。私は内心どうしたのだろうと疑問に思う。


「…何か言った?」
「いやいや、こっちの話」


ズズ…と味噌汁をすする左右田君に軽くあしらわれたようでこれ以上は聞かないようにしようと思った。あまり深く聞かれたくないのかも。


「せめて誘われるなら左右田君がいいな」
「……んぐっっ!?」


急に左右田君は噴き出しそうになったが口に手を当ててなんとか抑えられたようだ。
その姿を見て自分が何を言ってしまったのか理解した。どうしてこんなことを言ってしまったのだろうか。頭の中で考えずに口に出してしまったことが恥ずかしい。


「オイオイ、どうした?」
「ごめんね、本当のことをさらりと口に出しちゃった…」
「ほ、本当のことだとしても考えてくれよ!不意打ち過ぎんだろ!」


ごめんね、と何回も言うと左右田君はやっと落ち着く。頬を赤く染めていた姿は初めて見たから新鮮だったし可愛いとも思ってしまった。


「今日はどこ?」
「都内の……って所だよ」
「名前だけ聞いても分からねぇな。バーってそんな沢山あんの?」
「うん、あるある。確かに名前だけ聞いても分からないよね」


ああ、と相槌を打った後にごちそうさまと左右田君は呟いた。太陽に照らされたその姿はとてもキラキラとしていてすごく眩しかった。


「洗い物は私がやろうか?」
「いーって。オレがやるから、その代わり洗濯したやつ干してくれねェか?」


その、と口ごもる左右田君を見て何となく察して分かった、と返事をした。あー、きっと私の下着のことかな。一緒に住むとなったとはいえ恋人ではない女性の下着は干したくないだろう。
私は食べ終えた食器を台所へ置いて洗濯機のある方へ向かった。


ある程度の家事を終えるともう準備をしなければならない時間。あれこれと荷物を持って外へ出た。左右田君は悪ィ、少し寝るわとソファで昼寝をしていた。毎回私の仕事に付き合ってもらう訳にもいかないし、今日はバーの仕事はないみたいだし、家事も手伝ってくれたしゆっくり休んでもらうことにした。


今夜は何事も無く演奏を終えることができた。一緒にピアノ演奏してくれた私より年下の女の子がこちらに駆け寄ってくる。私は感謝の意を込めて頭を下げた。


「今日はありがとうございます」
「流石みょうじさん。綺麗なサックスだね!私惚れ惚れしちゃいました〜」
「ふふ、また何かご縁があれば是非ご一緒に演奏しましょう」
「あっ、みょうじさん!3か月後に都内の大きいホールでノヴォセリック王国の来日パーティあるの知ってます?」


ノヴォセリック…名前は聞いたことあるがパーティ開催自体は知らなかった。


「…いえ、知らなかったです」
「そう!?どうやら来日パーティで演奏会を行う予定らしいんだけど、有名な楽団が演奏で呼ばれているらしいんだ。どう?音楽関係者としてパーティに行ってみます?」


パーティなんて生まれてこのかた行ったことないし、来日パーティでの演奏会という所で日本の実力者達が集まってくるということだ。実力者達の演奏が聴けるのはチャンスかもしれない。


「…そうですね。私で良ければ…ただ」
「ただ?」
「同伴ってアリ、ですかね?1人友人を連れて行きたいんですよ」
「んー、そうですねぇ。私も楽団の人に誘われた形なんですけど、何とかお願いしてみますね!」
「ごめんなさい、わがまま言って」
「いいんですよ!みょうじさんに是非行ってもらいたいって楽団の人も言ってるんです!」
「そ、そこまで…?なんだか照れますね」
「もうー、自信持ってくださいよ!」


その女性を含め、多くの人にお辞儀をして帰路につく。
もし、パーティに確実に呼んでもらえることになったら左右田君に話してみよう。というのも1人よりかは左右田君と行ってみたいからだ。……迷惑にならないかな?

今日は比較的早く終わることが出来て良かった。ご飯は何を作ろうか。左右田君は何が好きなんだろう。そう思いながら彼にスマホで連絡を取った。





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