『……みょうじ…』 『…ねぇ、左右田。このままだとみょうじさん、犯罪者になっちゃうよ?僕が告発すれば簡単にね。それにあのソニアを権威から引きずり下ろすことだって簡単に!王族直系の女が犯罪を捏造したって! …ね、どうする?左右田ァ?』 「……っ!」 目を開けてベッドから飛び上がる。外の景気はカーテンで覆われていて分からないもののカーテンが光に照らされていることから、もう朝を迎えていることが分かる。 先程まで見ていた夢という名の記憶に荒い息遣いと共に顔に冷や汗が垂れた。 ばっと横をみるとスヤスヤと眠るみょうじの姿があった。毛布からチラリと見える肌色に自分自身の体を見ると身につけているのはお互いに下着だけということに思わずドキリとする。 そうだ、来日パーティでモノクマに記憶のことを言われてそのとき信じられなくて気が動転してて不機嫌な所をこいつに見られたんだっけか。 部屋に入ってみょうじを抱きしめてその後は…その事実にオレ1人だけ身体の熱が上がる。 まだ朝だから肌寒く、ぶるりと身を震わせた後に再び横になってみょうじの寝顔を見つめる。規則的な寝息を立て安らかな顔をしている。こいつ幸せそうな顔しやがって…その顔が愛おしくと胸にチクリと刺さった。 昨日言われたモノクマの取引内容を確認する。 『そんなの見せられたってオメーの嘘に決まってる!』 『ふーんなら勝手にすればいいよ。困るのは君だけじゃないから』 『……ッッ』 『簡単な話だよ。みょうじさんを僕にくれてもいいよ?そうしたら永遠に黙ってあげるからさ!』 ……反吐がでる。それでみょうじは幸せだろうか、いや、んなわけない。 ぐるぐるとあの手この手を考えたものの選択肢は出たが決め打つものがなかった。 「…くっそ」 ギリっと歯を食いしばっても何も進展がない。 とりあえず落ち着こうと眠るみょうじの髪を起こさない程度にゆっくりと手で梳いた。柔らかい髪質で羨ましいなと思いつつ頭も撫でた。…駄目だな、髪だけと思っていたのに頭を撫でたくなっちまう。 「………ん…」 しまった、起こしたか?とヒヤヒヤするもみょうじはすぐに静かな寝息を立てる。 ああ、もう、相変わらず可愛いやつ。モノクマの野郎がオレ達のことを調べなければ何も知らずに幸せになれたのによォ。 「………」 目を閉じて考え込む。いっそのこと、こんなこと忘れて二度寝してみょうじに起こしてもらおうとも思ったがあまりにも無責任だ。 「……」 …決めた。モノクマに触れられずにみょうじが何も知らなくて済めばそれでいい。その方法があったのだ。 そう決意したのにも関わらず両目から涙が溢れでた。分かってんだよ。オレだってこんなことは考えたくねーって。嫌なんだって。 幸いバーで働いたお陰でノヴォセリック王国へ行く金はある。そうなったら行くか。早く。気づかれないうちに。 みょうじを起こさないように着替え、身支度を整える。最後に別れの手紙を書いてテーブルの上に置く。沢山のことをを書きたかったが短い時間では書ききれなかった。 全て1つにまとめた荷物を玄関に置いた後に最後に彼女の顔を見たくてベッドの近くまで寄る。 また頭を撫でようとしたが、途中でその手を止めた。オレは貪欲だから一旦撫でてしまったら暫く欲が抑えきれないだろうな。 みょうじの顔は眠っているときも愛おしくてつい自分の口角が上がってしまう。 「…オレがこれからどうなろうがオメーだけは幸せになれよ」 「……じゃあな。なまえ」 オレは相変わらず泣き虫なようで背を向けた瞬間にまた涙が溢れた。荷物を持って静かに外に出た。 黒い帽子を深く被って誰にも泣き顔を見られないようにしながらマンションの外から街へそして空港へ向かう。 ……ああ、アイツに答えを言わなきゃな。電話すらもかけたくないがスマホを取り出す。 「ああ、左右田?…どう、答えは出た?」 電話が来るのを楽しみにしていそうなモノクマの声。もし目の前にいたら殴りかかっていただろう。 取引内容変えようなんて無駄だよ、というモノクマの声にそれは違うと言い放った。 「怪我をしたのはオレを襲った男2人で加害者はみょうじだと?」 「うん、ちゃあんと聞いてるから間違いないね」 「それはどうかな?オレもノヴォセリック王国に知り合いいるから本当のこと知ってんだけどよ」 声が震えないよう、電話の向こうの相手にも悟られないように淡々と言い放った。 「本当は2人を襲ったのは"オレ"で、みょうじはたまたま居合わせてしまった"目撃者"らしーんだわ、だからみょうじは無実なんだよ」 「……………」 偽証。オレだって知らない出来事だし何の根拠もない。論破されてしまいそうな偽証だがこうするしかなかった。 「………へえ、まあ"そういうこと"にしておくよ。左右田がみょうじさんから離れてくれるならさ」 「オレはこれから海外へ行く。…だからオメーはこの事件のことをみょうじに一切話すな。こんな取引だって悪くねーだろ?」 「もちろん!悪い虫が"僕の祖国"に行ってくれるならね。それにこんなの話したらみょうじさんがパニックになっちゃうしね」 「あ?祖国?」 「………ふふ、何でもないよ?」 「……ケッ、みょうじにしつこく迫ったら許さねーからな。一生を使って呪ってやる」 「なんだい、それ!君がいなくてフリー状態のみょうじさんを狙わない訳ないじゃないか!」 調子に乗り始めた声を聞いた瞬間、ブチっと電話を一方的に切る。 …今度はまだ日本に滞在する予定のソニアさんに連絡してその後はマスターやみょうじと仲良くしてた澪田に一方的に別れの言葉と「みょうじを頼む」の一声で終わらせた。 オレのせいでみょうじが罪を犯してしまった。それならみょうじの代わりにオレが全ての罪を背負う。 飛行機搭乗のアナウンスを聞き、みょうじのいる国から離れる飛行機に乗り込んだ。 |