あの日から1ヶ月が経過する。最初は大変だったが、総理の公務の仕事というものも慣れてきた。主に前にやった事務作業なのだが、それを任せてもらうことが多くなった。とはいえ総理にしか出来ない書類は総理に任せてるが。 だが総理曰く、私の作った書類は出来がいいらしい。ニコニコしながらそう言われてまず安心感を覚えた。 「総理の力になれて嬉しいです」 「ありがとう、みょうじくん!お陰で午後の予定が午前中に終わってしまったな!みょうじくんはゆっくり休んでてくれ」 「はい、では総理のお茶を淹れてから休みますね」 総理にそう告げて給湯室へ向かう。総理の部屋は2階で給湯室は1階の為、階段を降りていく。 本当にここは館だからかとても広い。やっと中の構造は理解出来たが、総理やあのSP2人、そして私の4人だけでこの広さは尋常じゃなくて油断してると迷いそうな勢いである。 給湯室でお湯を沸かしていると未来機関から渡された携帯が鳴り響く。 宛名を開くと霧切響子という文字。霧切さんからだとすぐに電話に出る。 「はい、みょうじです」 「みょうじさん?霧切よ、どうかしら?」 霧切さんはとても落ち着いた声で話す。 「はい、やっとですがだいぶ慣れまして…」 「そう、良かったわ」 霧切さんは電話の向こうで少しだけ微笑んだような気がした。 「ところでなんだけど…あなたに聞いて欲しいことがあるの」 霧切さんは先程の笑みが混じるような声色から突如緊迫した声色へ変化する。 「夏に急遽、世界各国の代表が日本にやってくるわ。勿論石丸君にも参加してもらうつもりよ。各国の代表がみんなしてどこかに集まるのはあの事件の後初めてになるわ。沢山の報道陣も駆けつけるでしょう…それ故に石丸君も報道陣の目に映るわね。石丸君は初めて多くの人達に知られるでしょうね」 少し先の話とは言え、急に言われた大きな仕事に相槌を打つしかなかった。 「ええ、分かりました。それは良いイベントだと思いますがリスクも多い…そういうことですよね?」 「…そうね。まだ絶望の残党は世界中に残っているわ。なんといったってまだ超高校級の絶望が生きているんですもの、勿論各国からボディガードも来るし未来機関からもサポートはするわ」 「分かりました。総理のことはお守りしますのでお任せください」 「ええ、あなたなら信用しているわ」 そう言って電話が切れた。コンロの上に乗せられたヤカンはこのタイミングで甲高い音を立てていた。 コンロの火を消し、お茶の準備をしながら考え込む。 超高校級の絶望、江ノ島盾子。 あの事件は彼女とその姉戦刃むくろ、そしてカムクライズルによって引き起こされた。 資料の情報しか頭にないが、今戦刃さんという人は先導して絶望の残党を保護していってるのだとか。カムクライズルという人は今未来機関にて重要保護を受けている。 そして江ノ島盾子は未だに存在が明らかになっていない。どこかに潜み、絶望の残党を絶望へと煽り続けているのか。だからこそ未来機関では最も恐れている存在だと。 そんな中、各国の代表が日本に来る…。これは1番気をつけなければならないことだ。自分が下手すれば総理や危険な中来てくれた代表の誰かが命を落としてしまう。 私は急須と湯飲みを用意して部屋へ向かう。コンコンとノックすると入りたまえ、という総理の声がする。 「失礼します、お茶を飲んでゆっくりしてください」 「ああ、みょうじくんか、ありがとう」 総理の机には新しい資料が置いてある。きっと霧切さんから聞いた内容と同じものであろう。 「みょうじくんは聞いたかね?夏に開催される"希望サミット"というものを」 「"希望サミット"…ですか?ええ、霧切さんからそれらしいことは聞きました」 希望サミット…名前と開催の季節を聞けばさっき聞いたものと同じであろうと確信する。 「ああ、僕は今まで声明文しか出していなかったが遂に表に出られるのだ。一体どんな議論をしていくのか楽しみだな」 総理は丸テーブルの方の椅子へ腰掛けて湯飲みを両手で取る。彼の顔はぱあぁと笑顔になる。高校生らしい幼さが僅かに残る笑顔だ。(私も一応79期生だったらしいが) 「うむ、茶柱が立っている。良いことが起きそうだ!…お、美味だな!」 彼はニコニコしながらお茶を飲み、美味しいと言ってくれた。その笑顔は私の心を温かさで埋めるのに十分すぎるほどであった。 「良かったです、総理はお茶が淹れるのが上手でしたので自分下手だったらどうしようかと…」 「何言っているのかね、君は上手じゃないか!」 「あ、ありがとうございます」 そう伝えて深くお辞儀をする。 「今度は僕がお茶を淹れる番だな」 「そ、そんな!私が淹れ続けますよ!総理は総理の仕事を…」 「何を言うかね!君も頑張っているではないか!…む、湯飲み僕の分だけか。では待っててくれみょうじくん!取りに行くからな!」 「ま、待ってください!…行っちゃった」 んー、総理は何とも人間が出来すぎてるというかなんというか…むしろ申し訳なさが半端なかった。そんな所が総理らしいなと誰もいない総理の部屋で微笑む。 その後、総理はご機嫌にお茶を淹れて飲むことになる。午後はティータイムを挟んでサミットについて勉強しなきゃなぁ…と思いながら総理と2人でお茶を飲んで過ごした。 |