車に乗って苗木さんと私で総理大臣に会いに行く。総理大臣だから国会議事堂かなと思いきや連れてこられた場所は都会から離れた、二階建てでレンガ造りの昔ながらの洋館のようだ。
洋館付近は汚されておらず多くの警備員が監視している。私達の乗る車が黒い門を抜けて10分位だろうか。かなり長い道を走り続けて洋館に辿り着いた。車の運転手が玄関前に車を停めると苗木さんが先に降りて玄関の前へ向かう。
私も置いていかれないように足早に向かった。
苗木さんはドア横にある洋館に似つかわしくない認証リーダーに手をかざすと驚くことにドアからロックが外れる音がした。


「この認証リーダーは総理大臣と未来機関に所属している者だけ反応するんだ。後でみょうじさんの指紋を登録しておくね」
「は、はーい…」


何とも厳重な警備だ。それだけこの世界は危険ということを思い知らされる。

2階の階段を上がり、苗木さんが扉にノックをし、「ボクだよ」とフランクに声をかけた。すると低い声でありながら爽やかな声が扉の奥から聞こえてくる。苗木さんが扉を開けて一緒に入ると、黒髪に黒いスーツ、黒ブーツを履いた、赤い眼がよく映える男性が立っていた。男性の周りには20代後半と思われる2人のスーツ姿の男性がいる。私と同じく未来機関に雇われたSPだろうか。


「どう?ここは慣れたかな?」
「やっと、って感じだな!ここだと静かに勉強出来るから非常に快適だぞ!」


苗木さんもそうだけど、この人もあどけなさというか学生らしさが残っているよなぁと感じる。というより少し前まで現役の高校生だったのだ。それが今となっては復興の為に政治を動かそうとしているのだ。本当にこの人を守れるのだろうかと心配になってくる。


「石丸クン、この子がみょうじさんだよ。彼女は超高校級の便利屋なんだ」
「どうも…みょうじなまえと申します!」
「ふむ…元気な挨拶だな!僕は石丸清多夏だ!よろしく頼む!」


石丸さ……石丸総理とお互いに挨拶を済ませた所で苗木さんが扉まで行く。


「じゃあ、みょうじさん。指紋登録とこの洋館の中について説明するね」
「は、はい!」


扉から出る際、失礼しましたと軽いお辞儀をする。石丸総理は笑顔だったけど、周りのSPにかなり睨まれた。女が守る立場にいることを認めないといったような雰囲気を醸し出していた。

それから苗木さんと洋館の中に入り、指紋認証を済ませる。苗木さんはまだ未来機関で仕事が残ってるから後は石丸クンから聞いてと言い未来機関の方へ向かってしまった。玄関ホールで置いてけぼりにするとは…と思いつつもさっきの部屋まで向かう。コンコンと小さいノックをすると「入りたまえ」と声が聞こえる。私はゆっくりと優しくドアを開ける。

「失礼します」

中に入ると総理が使う書類が積まれた書斎机とは違う丸いテーブルにて総理が急須でお茶を淹れていた。ここは洋館なのに急須と湯のみはミスマッチなのではと思ったが、彼の立ち姿勢の良さ、お茶を淹れる仕草、彼の表情…どれをとっても見惚れてしまう程だった。

「やあみょうじくん!初めてのことだから緊張するだろう?お茶を淹れたから飲んでくれ、僕はお茶を淹れるのは上手いんだ」

石丸総理は私に気がつくと笑顔で迎えてくれた。彼に勧められてテーブル近くのイスに腰掛ける。
…初めてで緊張はするものの、彼とお茶を飲むことの方がよっぽど緊張するんだけどなぁ…それに彼の後ろと私の後ろに1人ずつSPが私に対して睨みきかせているのも怖いし…彼は何とも思ってなさそうだけど。私なんかが適任なのかなぁ。
そう思いながら彼が淹れたお茶を静かに啜る。美味しい…ほんの少しの渋みがあるものの旨味と芳醇な香りが口の中だけでなく鼻の奥を抜けて広がっていく。

「…すごく美味しいです」

ポツリと呟いた声が彼の耳に届いたようで彼は目を細めて笑う。


「ハハ、そうだろう?飲みたくなったらいつでも声をかけてくれ!」
「そ、そんな!総理にお茶を淹れてもらうなんて、その、立場が…」

そうしどろもどろに言うと、後ろから鼻で笑う声が聞こえた。あ、これ後ろの人笑ってるわ…。


「ハハハ!何を言うんだみょうじくん!僕達はここで共に働く仲間なのだ!立場は気にしないでくれ!」
「は、はぁ…」

石丸総理は私と年は変わらないはずだ。見た目はあどけなさを残しているが、言動は懐が広いのだろう、大人っぽく見える。いや、1つ1つの動作がきっちりしすぎているのだ彼は。

湯飲みのお茶を飲み終えると石丸総理の後ろにいたSPは彼と私の湯飲みを片し、私は後ろから声をかけられる。

「…早速仕事をする。スーツがあるからそれに着替えろ」

どうやらここに来た瞬間からかなりしごかれそうだ…。笑顔で見送る石丸総理を後にして私はSPについていくことになった。


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