「…………!!」 何を言っている?…早い、早すぎるのだ。というより裁判すら行っていない。裁判も無しに処刑だって? 何を考えている…? 「あの、どうして処刑なのです?」 大勢の人間に囲われながら冷たい廊下を歩く。 「テロリストに話すことはないね」 男に冷たく言い放たれてしまった。それでも疑問を沢山浮かべる。 「自白なんかしていませんが?」 「証拠からお前が確定なんだ、捕らえられたときマスコミを見ていないのか?」 「あれは証拠ではありません。それに石丸総理からも証言は取ったのですか?」 「事前に総理を脅しているのだろう。それに総理は多忙だ。証言は取らなくてもお前がテロリストだと分かる」 「貴方達決めつけ多くないですか?しっかりと被害者である総理大臣から話を聞くべきでしょう?」 「黙れっ!もうそれ以上喋るな!!」 理不尽な罵声を浴び、暫く口を閉じた。テロリストに人権はないってか。全く笑えるな。絶望の残党に人権はあって私にはないのか。乱暴に車に乗せられ処刑される所へ連れていかれたのだ。 「執行は1時間後だ。それまで思い残すことはないか考えておくんだな」 何もない部屋に通され、鍵を閉められる。…がすぐに扉が開き、ある人物に目を見開いた。 「あーあみょうじなまえ、いいなぁ。もうすぐ死ぬ絶望がやってくるなんて」 「…江ノ島盾子」 「うぷぷっ!いいね!その顔!アンタの絶望顔やっぱいいわね?惚れちゃいそうっ!」 「貴女のせいなの?裁判もなく処刑って提案したのは」 「いーや違うよ?どうやら誰かがアンタのことをすぐ消したがってるみたいね」 ギャルのようにはしゃぐ彼女に何も言葉が出なかった。だってこれからもう死ぬのだから。こんなところでSPの仕事を果たしたって何も起きないのだから。ある程度1人ではしゃいだ後に彼女は私の顔見てこう言った。 「正直さー、どんな気持ち?」 「…貴女に言いたくはないけど…そうだね、こんな所で死にたくないかな」 「うんうん」 「それにしてもどこから入ってくるの?」 「あ、そういえばアタシの力知ってる?」 「…ギャルってことと、見通す力が強いこと?」 「大正解!その見通す力でアンタを追っていたのよ」 何故江ノ島は私のことを追いかけている?私が総理の近くにいるから、なのか?…それだけじゃ弱い気がする。 「1時間後だなんて早急すぎるわ、よっぽどアンタを消したがってるみたいね……ねぇ!アタシの味方にならない?そうしたら処刑は免れるかもよ?」 「…味方に?」 「そう!処刑免れる代わりに石丸をグサッと!」 「やめとくよ」 「あっ、そう…これだから恋愛脳は…」 彼女は不服そうにぶつぶつと呟いた後、腕を上にゆっくりと伸ばした。 「まぁアタシの力によるとね、アンタが死んだらとんでもないことが起こりそうなのよね」 「…とんでもないこと?」 「そうねぇ…あり得るのが政府陥落。だって裁判も何もしてないのに処刑されちゃうもんね!国民がアンタの処刑を望んでたとしても手順踏まずに処刑したら政府に対して非難轟々だよ!」 「……ありそうだね」 「他人事のように…でもアタシはそれじゃツマラナイと思ってる」 「…ツマラナイ?」 他にそれ以上のことがあるだろうか?深く考えてもそれより面白いことなんてある訳がなかった。 「まぁさっきの政府陥落の続きだよ、横暴なやり方に怒った人間が石丸を暗殺するとかね」 「……っ!」 「石丸はこう思うだろうね…。『ああ、みょうじくんがいれば…』って」 「…何とかならないの?」 「アタシ決めてないもーん!他の奴らに聞きな?」 「そっか…まぁそうよね」 「どう?守れなくて絶望した?」 「そう、だね。最期まで守れなくて理不尽な死が待ってると思うと絶望しかないよ」 「うぷぷ…鈍臭い女SPが死ぬのは残念だけど、これからアンタが消えたらどうなるか楽しみに待ってるわ」 「うん、…少しは気が紛れたかな。ありがとうね」 「アンタにお礼言われるなんて…うっ吐きそう。さっさと帰るわ」 彼女は口を手で塞いでいかにも吐きそうというポーズをとりながら帰った。 全く神出鬼没だ。だけどここ最近まともに会話出来た相手が彼女だけだった。本当なら総理と沢山話したかったけど、もう遅い。 時間までに手紙を書くのだ。シワシワの紙とペンを持って手が震えながらただ文字を並べていった。 本当は死にたくないこと、まだ傍で守り続けたかったこと、苦しくて仕方ないこと、理不尽な死を遂げることがとても悔しいこと。 支離滅裂になりながらも総理に伝えたいことを伝えた。ふとペンを止める。 果たして1番伝えたい思いをここに書いてしまっていいものだろうか。 悩みに悩んだが結局書くことにした。死人に口なし、というがそれなら文字にすればいいのだ。 今でも総理への気持ちは変わらないこと、お慕いしていることを書いた後に綺麗にその紙を折り畳んだ。 コンコンのノックの音がする。ああ、もうそんな時間か。自分の死が近づいていると思うと胸が苦しく息切れが激しくなる。今泣けと言われたらすぐに泣けそうだ。 「…言い残すことはないか?」 「だ、だったらこれを…」 震える手で監視員に渡す。監視員は中身を軽く見て、仕込みがないことを確認した後分かった、と低い声で言い放った。 「行こうか」 「…………」 小さく頷く。無機質で冷たい廊下を歩くと後ろから目隠しされ、両手を拘束される。1人であろう監視員と部屋の真ん中まで歩き、首に何かを掛けられる。きっと処刑用のロープだろう。 殺すなら一思いに殺してほしいのにどうしてジワジワと殺していくのだろうか。さっさと殺して欲しかった。恐怖でガタガタと歯や体が震え始める。 足音が遠ざかり、バタンと部屋の扉が閉まる。いよいよだ。助けてほしい。私は何もやってない。怖い。死にたくない。 「なまえくん!」 「…石丸、清多夏さん…」 最期に思い浮かべたのはシワのないスーツを着て笑顔で私の名前を呼ぶ石丸さんの姿だった。 愛しい人の名前を呼んだ瞬間私の体は浮遊感に襲われた。 ………… …… … [只今速報が入りました------] [本日未明、みょうじなまえの処刑が執行されました] 「……………」 [みょうじなまえは未来機関のビルを爆破した後、石丸総理大臣を人質に取り山小屋で籠城しましたが約24時間後、警察と未来機関の関係者により身柄が確保されました] 「………狂ってる……」 「……最期まで僕を守ってくれた人がテロリストだって……?」 「いつも努力していた君が…どうしてこんな目に遭う?」 「…こんなに頑張っても報われなかったのに、…僕はあのときどうすれば君は助かったのだろうか?」 「……みょうじ……くん」 「……なまえく、ん…」 「………ハハハ」 「ハハハハハハハッッッ」 静かに扉が開くことに彼は気づかなかった。しかし扉はすぐに閉められた。部屋の外ではメガネをかけた秘書風の女性が怪しげな笑みを浮かべた。 「…サイコー。最高ですね。あの女SPが死んでしまってから石丸総理が狂ってしまうなんて!…さて、どんな追いうちを仕掛けようかしら…」 江ノ島は最早石丸以外誰もいない洋館の中で堂々と玄関までハイヒールを軽快に鳴らしながら歩いていった。 |