気がつくと目の前は白い天井だ。
体を動かそうにも動かせなかった。ギプスのようなもので固定されているのだろう。

あのとき私は総理を庇って撃たれた。今もこうして生きているのが奇跡な位だ。ぼんやりとした頭をなんとか働かせる。何だか髪が伸びたような気がする。

幸い、手は動かせるみたいで周りを探してみる。すると何か触れた。機械のようだ。その機械はボタンがあるみたいでそれをそっと押してみた。

しばらくすると病室の外からバタバタと音がする。人がこちらに近づいているのが分かった。ああ、あれはナースコールだったのか。そう頭の中で納得していると洋室の扉がゆっくり開くのが分かった。
私の方へ歩いてくるのは看護師と医師だった。私の体調を聞いてくる医師に今まで何が起こったのか話してもらうことにした。

私は愕然としてしまった。あれから3ヶ月も意識不明になっていたこと。体の損傷が激しくしばらく入院生活になること。その他色々と聞かされたが何も頭に入らなかった。

話を聞いて1人になった後、個室の病室の窓を覗くと青空が広がっていた。耳をすますと風が吹く音が微かに聞こえる。今日は平和でのどかな日だ。
不意にノックの音がする。扉の奥からでも聞こえるようにどうぞと呟くと扉が開いた。


「霧切さん!」


久しぶりに会った感覚だった。頭をゆっくりと下げると彼女から動かなくてもいいという声が聞こえた。顔を上げて彼女をみると浮かない顔をしている。でも彼女の言いたいことは何となく分かった。


「みょうじさん、あなたは暫く仕事を休んでもらうわ」


ドンピシャ、だ。確かに入院するとなると仕事なんて出来やしないから。


「分かってます、それよりもあの後一体…」
「銃声がしてすぐに駆けつけたわ。拳銃を構えたSP2人とその後ろに絶望の残党……そしてその先には血を流して倒れるみょうじさんとあなたへ声を掛ける石丸君がいた。
取り押さえられる直前まで私達のことに気がつかなかったから助かったわ。難なく取り押さえたわよ」


淡々と伝える霧切さんの顔を見つめた後に安堵する。


「残党達は十神君達に任せて、私と大神さんであなたの応急手当を行ったわ。石丸君は少し騒がしかったわね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、泣き叫んでいたわ。…女性の応急手当てだから離れてって言っても離れなかったわね。苗木君に頼んで引き剥がしたけれども」


霧切さんは私と目を合わせた後にふふっと含み笑いした。


「心配いらないわよ、石丸君は銃弾による擦り傷だけだから」
「…良かったです」
「あなたって分かりやすいのね、顔に出てるわよ」
「そ、そうですか?」
「ええ、石丸君のことになると露骨に」
「…!」


私の心の中を全て見透かしたように彼女は笑う。


「それで……総理は元気ですか?」


話を逸らそうとしたものの彼の話題になってしまった。霧切さんは暫くしてから口を開いた。


「ええ、そうね…」



__________それから1年が経った。
歩くことも出来るようになり、今も未来機関としてここで働いている。だがやはり1年という期間は長かったせいか私の仕事は事務職しか無かった。
SPに襲撃された事件から総理に会えるのは一部の上層部の未来機関だけとなり私から会うことはなくなってしまった。確かにもう会えなくなるのは辛かったけど、総理が生きているというだけでも嬉しいのは事実だ。

今日の分の書類を片付け、深い溜息をつく。もう絶望の残党達が襲撃することはない。というのも江ノ島盾子が処刑されたからだ。江ノ島盾子が処刑されたことにより残りの絶望の残党達も進んで自殺をしたり処刑を望んだらしい。何はともあれ、もう絶望に侵されることはなくなり平和な世界を取り戻したのだ。

休憩室のテレビを点けると、ニュース番組に総理が映り胸が熱くなる。1年経っただけなのに顔が凛々しくなり大人になっていた。

総理が国会で議論を進める姿に他の議員は誰も文句を言っていなかった。ニュースキャスターも国会の様子に酷く驚くも総理を褒め、支持率が上がっていることを視聴者に向けて伝えていた。

総理が褒められていると、笑顔になっていると思わずこちらも笑顔になる。
総理の左手の薬指にはめているものを見ながら胸が痛くなるものの、テレビ越しに伝えた。もう会えなくなってしまったけれども、もう守れない場所にいるけれども、遠くから見守っています。

テレビを消し、多くの人が送るだろう平凡な日常に戻ることにした。
もう会えない人のことを忘れようとするには時間がかなりかかりそうだ。上司に仕事をもっと寄越せと言おうかな。そうすれば総理のことを忘れて自分の為の人生を送れそうだから。ハンカチで軽く目を抑え、休憩室を後にした。


END


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