「貴方を信じます。外に出て説得していただけないでしょうか?」


そう告げると総理は深く頷き、私をゆっくりと床に座らせた。


「ありがとう、みょうじくん」
「でも無理は禁物ですよ」
「はは、分かっている」


私の肩を掴む彼の手は震えていた。その手の上から包むように触れると総理は私を軽く抱きしめる。


「…少し怖かったが、勇気が出た。本当に感謝する」
「…いえ、お気をつけて」


言葉を彼の耳元で小さく呟くと抱きしめていた腕は解かれ、総理は扉を開けて外へ行ってしまった。
その途端、外は騒がしくなった。


「ああっ、石丸総理!」
「総理だ!」
「よくご無事で!」

「待ちたまえ!これはどういうことかね!?」


総理の焦る声に嫌な予感が脳内をよぎった。声を聞く限り総理や私でも予測できないことが起きたのだろう。痛みなんてどうでもいい、壁に手をつけてすぐに立ち上がる。


「見てください!たった今石丸総理大臣が山小屋の中から出てきました!」
「総理、早くこちらに!」

「まだ中に人がいるのだ!その者は僕の命を救ってもらった…っ!早く救護を……な、何をする!?」


外を見た瞬間愕然とした。

近くには武装した警察官に捕らえられている総理。
距離を置いた先にはサングラスをした見覚えのある2人のSP。
そのSPの後ろには撮影機材を持った者達……これはメディアの人達か?


私が外に出た途端、目の前が光に包まれると同時に撮影音が複数聞こえてくる。片手でその光を遮ると急に目の前が真っ暗になった。それは布のようなもので覆われたと感触ですぐに分かったが、何者かに両手を背中の後ろに回され身動きが取れなくなった。
私の隣でSPの声で残念だったな、と小さい声で囁いた後に大声で叫んだ。


「確保!確保ーーっ!」
「テレビの前の皆さん!たった今、未来機関ビルを爆破し、総理大臣を誘拐したテロリストが確保されました!」
「な、何を言うんだっ!?みょうじくんはテロリストなんかでは…っ!?」


アナウンサーだろうか。だとすると生中継されていたってことか…そうか、嵌められたのか。
私の近くでカシャカシャと撮影音が耳障りだ。


「総理!早くこちらへ!念の為病院へ行きましょう!」
「僕は平気だ!僕よりみょうじくんを病院にっ…!」


遠くから叫ぶ総理の声が聞こえる。ただただ私の名前を呼び続けている。今すぐ振りほどいて総理の元へ行きたいが私を拘束する人の手は多過ぎた。
私はなす術もなく車に座らせられる。


「待ってくれ…っ!みょうじくん!みょうじ…」


総理の悲痛な叫びは無情にも車のドアが閉まる音と共にかき消されてしまった。
同乗者の声とか聞こえたのかもしれないが、私の耳にはそれらの音や声は何も聞かなかった。


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