目を開けると、一瞬ここはどこなんて思ってしまったがあの小屋の中だと理解した。そして昨日のことも。
隣を見ると誰もおらず、私の方に毛布が2枚かけられていたことに気づく。

まだ寒さが残るものの朝日が窓から通ってきて暖かい。
総理はどこに、まさか何かあったのではと立ち上がろうとするとズキリと刺さるような痛みが全身を駆け抜ける。ああ、そうだ。昨日傷が広がっていたんだと気付かされる。参ったことに私の体は昨日よりも動けなさそうだ。

そのとき扉がゆっくりと開き、その姿に安堵する。両手には多くの木の実を抱えていた。


「おはよう、みょうじくん!体の具合はどうかね?」
「おはようございます、傷が思っていたよりも酷かったみたいです。少し痛くて」
「そうか…応急手当てくらいしか出来ないからこれ以上のことは医者に診せないと」
「そうですね」
「…だからこそ少しでも食べた方がいい!……みょうじくん!」


そう言い私の唇に押しつけたのは昨日も食べたベリー系の木の実だ。昨日は普通に食べていたのに、食べさせられている感じがして顔の温度が急激に上がる。


「そ、そそそ、総理!……っぐ」
「どうしたのかね?」


口を開いた瞬間にベリーを口内に放られる。甘酸っぱくて美味しい。総理はニコニコしながらこちらを見つめている。


「私は手は動かせますから!自分で食べます!」
「何だそんなことか!気にするな!君は怪我人だから僕が食べさせてやろう!」
「い、いやいやいや!お話を聞いてくださいって!」
「ホラ、あーんしたまえ!あーん、だ!」


…総理の悪い所だ。ちょっぴり人の話を聞かない所。突っ走っちゃう所。
そこも魅力的って言えば魅力的だけど…そう思いながら口をゆっくり開ける。甘酸っぱい香りが鼻の奥を通り抜ける。


「…なんだか恥ずかしいです」
「恥ずかしいなんて思ってはいけないぞ!これは君を介抱してるに過ぎないのだからな!」
「……その割には嬉々としてやってますね」
「なっ、そ、そんなことはないぞ!」


目を見開いて動揺している姿を見て、もうどうにでもなれと開き直る。実際恥ずかしいものの、私のためにやっているものだからすごく嬉しい。今は彼に委ねられたままでいいと感じる。

粗方食べ終えた所で私の携帯が鳴り、お互い背筋がピンと伸びる。
名前は霧切響子と書かれており、すぐに電話に出る。


「はい、みょうじです」
「みょうじさん?無事だったのね…そこに石丸君はいる?」
「はい、近くにいらっしゃいますよ」
「…1つ聞くわ。あなたは絶望の残党ではないのよね?」


突然彼女の声が鋭い刃のように耳に刺さる。が、正直に答えた。


「はい、私は絶望の残党ではありません」
「そう、分かったわ。聞いてほしい話があるの。いいかしら?」
「はい、大丈夫です」


「あなたは今総理を誘拐したテロリストとして報道されているわ」
「………」
「き、霧切くん?君は何を…」


昨日江ノ島が言っていたことは嘘では無かった。気づけば総理が近づいて私の携帯に耳を傾けている。彼の声はきっと霧切さんに聞こえているだろう。


「…昨日までいたSP2人が苗木君に言ってきたのよ。みょうじさんが絶望側の人間だとね」
「なんだと…あいつらこそ絶望の残党だ!みょうじくんに怪我をさせているのだぞ!?」
「…その声は石丸君ね。その言葉を信じるわ」
「もちろんだ、あいつらのサングラスの下を見てくれないか?」
「ええ、確認するわ。未来機関の人が山の中を探索しているからもうすぐ助けにくるはずよ、もう少し待っててちょうだい」
「分かりました、ありがとうございます。霧切さん」
「こちらこそ連絡が遅れてごめんなさいね……それじゃあ」


通話を切ると隣の彼はしばらく考え事をしている。


「…なんてことだぁああ!!」
「!?」


突然大きい声を出すものだから鼓動が大きく跳ねる。


「みょうじくんがテロリストとして報道されているなんて…僕がしっかりしていないばかりに」
「何を言うんですか。総理は全く悪くありません」
「あのときに戦う術があれば…」
「あれは仕方ないですよ…まさか2人も絶望の残党がいるとは思わなかったです」
「う、うむ。確かにそうだが…」
「過ぎたことは仕方ないです」
「…未来機関が助けに来て、僕が君の無実を証明すればいいのだな?」
「そうですね!それが最善だと思います!」
「ありがとうみょうじくん!この策を採用しよう!」


そう演説をするかのように話す総理を見て思わず微笑んでしまう。総理はあ、と声を上げた。


「前々から思ってたのだが…」
「はい」
「やはり見たことあるのだ、君のブローチに」
「ああ、ブローチですか?」


そう言いながらアメジストのブローチを撫でる。輝きは貰ったときから一切失われていなかった。


「…因みにだが、君はある人のおかげで助かったらしいがどういう人だったのだ?」
「まず、男性の方です。背が高くてコートを羽織ってましたね。……んーー」


助けてくれた人の容姿を思い出す。かなり前だからあまり覚えていないのも無理はないだろう。


「…………」
「ど、どうしたのかね?僕の顔を物凄く見つめているが、な、何かついているのか?」


私はその人の容姿をぼんやりと覚えている。何故なら、


「…総理によく似ている人でしたね」
「………ほう」
「ええ、髪型も眉もその赤い目も。……拳銃持ってたので警察の人、みたいでした」
「………そうか、そうだったのだな」


総理のその言葉にはてなマークを浮かべそうになった。どうやら総理の中で解決したみたいだが、私には何のことだか分からない。ぽかんとしてる私を見た総理はすまないな、と謝る。


「やっと分かった。どうやら君を助けたのは僕の父さんのようだ」
「えっ!?」
「僕の父は警察官をしているからな」


一気に情報が入り込んでくる。ええと、つまり私を助けた方が警察官で総理のお父様で、お守りを渡してくれた方も総理のお父様…。


「僕が総理になった際に父さんと話したのだが女性の方にお守りを渡したと聞いてな!ハハハ、君だったのか!」
「そうだったのですか…世間って意外と狭いのですかね?」
「ハハ、それはあり得るな!」


この状況から抜け出して、またいつものように仕事が出来るようになったら総理のお父様にお礼を言わなきゃ…。
そう心の中で決意すると、何か外で音がしたことに気づく。
人差し指を口の前に当ててしーっというポーズを取ると総理も黙っててくれた。
外から草を踏むような音が複数聞こえてくる。未来機関だろうか?いや、それとも…。
窓から見ようにも立ち上がることが出来ない。総理の方へ振り向くと、冷や汗をかきつつも頷いてくれた。
そしてゆっくり立ち上がり、窓から見えないよう壁にくっつきながら外を覗く。外を伺った後、急に顔をサーっと青ざめる総理は私の目線までしゃがみこみ、手を顎に当てて考え込む。


「…マズイな、彼らだ」
「総理、あのSP2人ですか?」
「いや……ざっと10人はいたな」
「じゅ、10……」


絶体絶命だ。10人もいたら流石に逃げられないが、私が囮になれば総理だけでも何とかなるか…?
そう考えてると総理が扉の前にいることに気づいた。


「…僕が説得してくる。僕達に危害は与えるなと」


その言葉に声を荒げそうになるもぐっと抑え、ヒソヒソ声で問いかけた。


「いえ、危険すぎます。ここは私が行きます」
「何を言うのかね、君はまだ動けないんだ」
「貴方が危険な状態なのです、この怪我くらい耐えてみせます」


そう言いながら体全体に力を入れる。ズキリズキリと痛みが駆け抜けるも立ち上がることは出来た。といっても壁に手をつけないと立てられないのだが。
これが火事場の馬鹿力というやつか、はたまた"総理を守る"という使命を貰った超高校級の便利屋の才能が発揮されたのか分からない。ただ総理を守りたいだけだ。


「…!や、やめたまえ。動けないではないか」
「で、でも貴方をお守りするまでです!」
「大丈夫だ、僕はこれでも総理大臣だ。あいつらが即殺す筈がないのだよ、一応あのSPも未来機関だからな」


私の体を支えてくれる総理の目は真っ直ぐだ。ああ、もうなんて頑固な人だ。
…このまま行かせるべきなのか?
私が前に出るべきだろうか?

どうするべき、なのだろうか?


「…総理。私は、」


A. 貴方を信じます。外に出て説得していただけないでしょうか?

B.貴方1人だけではやはり危険だと思います。私が先に外に出ます。

C.ここから出ないで待った方が得策かと思います。


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