シャワーをひたすら浴び続ける。何もかも洗い流せたら、そう思い続けても現実は心を押し潰しにかかる。

お湯を止めて、浴場から出る。そこにあったのはタオルと見覚えのないワンピースだった。風呂入ってる今でさえ鎖が足首についているから着替えやすいように、という魂胆であろうか。
タオルで一通り拭き、ワンピースに手をかける。中々良い生地使った黒のドレスワンピースである。
左右田君が片想いしていた女性…ソニアさんを思い出すと納得がいく。上品な人が好きなのかもしれない。

着替え終わった後、左右田君はツナギ姿ではなくTシャツと部屋着用の半ズボンを履いてベッドの上に横たわっていた。この世界が平和な世界で彼が絶望なんかに侵されていなければ、この状況はまだ幸せ、と言えただろう。

「お、似合ってんじゃん」
「…どうも」

左右田君はベッドから起き上がり、おいでと言わんばかりの手招きをした。さっきまでここで情事を行なっていたと考えると恥ずかしく、またされるのではないかという恐怖を感じ、たった数メートルといえども自分にとっては距離を置けるのがわずか数メートルしかない故に足を止める。
彼はテレビから聞こえる音に反応することがあるがすぐこちらを見る。

「なまえ、オレもそんな連続でする気はねーよ。ただその服着てる可愛いオメーが隣にいてほしいだけだ。今は何もしねェ」

今は。
頭の中で強調しておき、一歩ずつ歩を進めて彼の前まで来た途端に彼の腕に包まれる。そして、彼の力でベッドの上に私を座らせる。
隣にいてほしいだけのはずなのにちゃっかり私の腰を引き寄せ左右田君の肩に頭を寄せてられているのが気にかかった。
彼の手が私の僅かに濡れた髪を撫でる。それによってどうしようもない感情に襲われた。
私は何をしているんだろう。清多夏君の帰りを待つだけ、その為に生き続けてきたようなものだ。
だが今は清多夏君の帰りを待つ存在に自分が値するのか疑問に思った。仮に再会出来たとして、私は清多夏君の隣にいてもいいのだろうか?現に左右田君の思い通りに弄ばれて汚された私を清多夏君はどんな目で見つめるのだろうか?私はもう既に彼に似合わない女になった。事実を隠したとしても時が経つにつれ罪悪感に負けて話すだろうし、いずれバレることがある。隠し事を許さない彼は怒るだろうな。だからって話してしまってはどうか?いや、折角コロシアイから抜け出して心身共に疲労困憊の彼に話すのも酷である。

どうしたって私は清多夏君にとって絶望を与える存在…今私の髪を撫でる男と同じ存在になってしまったのだ。


「……なまえ?」
「…何でもない」
「まだ何も言ってねーだろ。…どうした?オレに犯されたことがそんなに絶望だったか?」
「……最悪よ」
「それは光栄だな」

彼は喉を鳴らしながら笑う。
テレビに目を向けると学級裁判は既に終わっていて、私がシャワーを浴びているときにオシオキというものが終わり、部屋に戻った生徒達は呆然としていた。
テレビに映った清多夏君も考え込んでいるようだ。彼のことだからどう生徒をまとめていくか考えているだろう。
彼を見るとドキドキと心臓が高鳴ることからやはり私は彼が大好きなんだと思わせる。絶望を与える存在となった私は清多夏君には会えない。いや会いたくないといった方がいいだろう。それでも清多夏君には幸せになってほしい。貴方の隣にいれなくても、遠くから応援することだけは許してほしいなぁ。

「なまえ、眠いか?」
「…さっき寝たばっかだけど、横にはなりたい」
「りょーかい」

ベッドの上に横たわる。それでも私の頭を撫でる手は止まらなかった。

「どうして左右田君はこんなに優しい訳?」
「あァ?何回も言わせようとすんな…それとも何回もオレの愛の言葉を聞きたいのか?」
「…私はまだあの子のことが好きなんだよ?」
「もうアイツには会えねーよ、なまえ。もう忘れて隣に愛してくれる男のことを思ってた方が人生楽になるぜ?」
「…誰が毎日殺人してる人なんかと」
「オレだって毎日殺してねーって!ちゃんとメカニックらしく機械いじってるぜ?なまえがオレに殺人して欲しくないならずっと機械作ってるぞ?」
「殺人機械を?」
「……うっせー。オメーはそんなこと知らなくていいんだよ!」

図星だったようで。
そう思ってるとガバリと自分の身体全てが左右田君に覆われる。大きな身体を支えるのって結構キツイのよ?
少し苦しいと言いながら背中をポンポン叩くと彼は大人しく私の横に横たわる。


「………好きだ、なまえ、好き、大好きなんだよ」


左右田君の弱音が聞こえて、思わずそちらへ振り向く。彼はいつのまにか寝ていたようだ。寝るの早すぎないか?と思いつつ彼の寝顔を眺める。
規則的な寝息が不思議と私を落ち着かせる。
寝顔を見つめると、1年以上前だろうか…少し弱気な、けど今時の男子高校生らしい左右田君を思い出す。どうして彼は絶望に堕ちてしまったのだろう。ソニアさんに恋してそれが叶えられなかったのか。だからすぐ私に乗り換えたのかな。それだったら嫌だけど。
少しムカついたから左右田君が起きたら何か退屈にならないもの作らせようかな。
殺人機械は勘弁だから何か無害なロボットやラジコンみたいなものでも。






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