「左右田君…?」 「おっ、覚えてくれたんだな!」 そこには左右田君がいた。 何回かカフェに来てくれて話をするような関係である。 「良かった…知っている人に出会えました…」 「ああ、オレもだ!こんな所にいたら危ないから、オレが隠れている家に行こうぜ」 左右田君に腕を掴まれながらなんとかついていく。瓦礫の他に人の……が転がっていてずっと左右田君の背中を見続ける。 「みょうじ、あんまり地面を見るんじゃないぞ。もうすぐだからな」 「う、うん…」 「後、これも被っとけ。被っとけばあいつらに襲われることはなくなるからよ」 「あ、ありがとう…」 そこはかとなく不気味なクマのお面を被り、歩いていく。 途中でビルや車を破壊する人達に出会ったがこちらを見るだけで何もしてこなかった。このお面はあの人達にとって仲間の印なのだろうか。 「着いたぜ、中に入りな」 「は、はい…」 そこは一般的な一軒家だった。とはいえ2階部分は破壊されて1階部分しか無かったが。中は2階部分の破片があるが比較的綺麗だ。上も2階の床が残ってて屋根代わりになっている。 「みょうじ、ここにいろよなッ!なんか食えるもん持ってくるから」 「そ、左右田君、ごめんなさい。こんなことしてもらって」 「まぁ、何とか生きて助けを待つしかないからな。一応そのお面つけてろよ」 「う、うん…分かった…」 そう言って左右田君は外へ出て行った。ぽつんと1人になった瞬間に足がすくんで近くのソファへ座り込む。 さっき襲われた出来事を思い出してしまう。あの時左右田君が助けに来てくれなかったらきっと死んでいただろう。急激に変化してしまった街が恐ろしくなってしまい、身体中の震えが止まらなかった。 でも清多夏君がこの場にいなくて良かったという安心もある。 きっと清多夏君を含めた78期生の人達がこの事件を鎮火させてくれるようなアイデアを考え出して助けてくれるはずだ。 左右田君もいるんだ、すぐに終わるはずだよね。 清多夏君、離れたばかりなのに会いたいなぁ。彼から貰ったネックレスを握りしめる。一生の別れだなんて信じられない。また会える、そう約束したんだ。 そう言えば左右田君、目が赤かったけど大丈夫かな…。左右田君もよっぽど疲労していることだろう。会ってすぐ色々と助けてもらって申し訳ない気持ちだ。 少し落ち着いたので周りを見渡す。ソファに小型テレビ、左右田君の荷物らしき機械工具がある。その機械用具の下にホチキスで留められた紙が落ちている。近くで見てみると、表紙に「お仕置きリスト」と書かれていた。お仕置き、その言葉を見た瞬間にドクンと心臓が鼓動する。なんだか胸騒ぎがするし、嫌な予感がする。これが人間の性だろうか、見たいという好奇心が勝ってしまう。 1ページだけめくると[【補習】 お仕置き対象:苗木 誠 ]と書かれており、その下に機械、プレス機のような物が描かれ、説明文が書かれている。 あまりの気味の悪さにドクンドクンと鼓動が早くなり、紙を持った手を離す。 何故苗木君の名前が…?説明文の最後に[プレス機に潰され死亡]の文字に冷や汗が滝のように流れる。 「どうしてこんなものが…?」 恐る恐る紙に触れ、ページをめくる。 他の生徒にもそれぞれのお仕置きが用意され、セットみたいなものが描かれる。共通しているのがみんな78期生だということだ。 と、いうことは…?まさか…? 嘘であってくれ…という気持ちはあえなく玉砕される。 「ッッ…!!」 紙をバサッと落としてしまう。私の手はわなわなと震える。 [【石丸清多夏首相就任パレード】お仕置き対象:石丸清多夏] 豪華なパレードの中、群集が「石丸首相万歳」のプラカードを持っている。石丸は車上から民衆の声援にこたえる次の瞬間、スナイパーモノクマに狙撃されて死亡。 「何でこんなものが…!」 そこには清多夏君の名前とお仕置きの説明文が入っていた。これは殺人計画書だ。お仕置きという名の殺人だ。ヘタリと床に座り込む。 よく見ると清多夏君のページにだけ何か書かれている。それを見た瞬間、恐怖でブワッと鳥肌が立った。 『なまえの男はコロしてやる』 『絶望を思い知れ』 「ど、どうして清多夏君のページにだけ…?」 「あーあ、見ちゃったの?」 背後からその声を聞いた瞬間身体が動けなくなった。 「まぁ、そこに置いたら見たくなっちゃうよなァ?」 「そ、左右田君…?」 声が震えてまともに出せなくなっている。 「あっ、言っとくけどソレ考えたのオレじゃねーからなッ!文句は江ノ島に言ってくれよ」 フフと笑いながら、コツコツとこちらに近づいてくるのが分かる。 左右田君、どうして笑っていられるの?ああ…もうあの人達みたいに既に狂ってしまったのか。もう逃げられない距離まで近づいている。怖い。振り向けない。 「お願い…殺人しようと思っているのなら、やめて」 「やめて、だァ?何言ってんだよ、外で破壊活動してる奴はこのお仕置きを楽しみにしてるんだよ」 「ど、どうして…?」 「希望の象徴と言われたあいつらが無残な死を遂げる。コレが絶望的でたまらねーんだわ」 「そ、左右田君も希望の象徴でしょ?」 「もうオレは希望の象徴じゃねーよ、絶望の象徴だ」 「左右田君!」 勇気を振り絞って左右田君の方を向く。 姿を見てひぃっと悲鳴をあげてしまった。目は怪しく赤く光り、片手には食べ物が入った袋、もう片手には血塗れのスパナが握り締められていた。 「お、どうしたんだ?」 「そ、ソレ何…?」 「ああ、コレで殺ってきた」 「えっ…?」 「だーかーらッ!人をぐちゃぐちゃにしてきたんだよッッ!」 左右田君の荒げる声に身じろぎをする。左右田君はこんなことしないはずなのに…堂々と殺人を認めた左右田君は別人のようだ。 涙が出てきてしまう、逃げなきゃ、いけない。 逃げようとした。ドアまで走った。けど、腕を掴まれてぐいと引っ張られた。駄目だ、殺される。 「安心しろ、お前だけは殺さねぇ」 「な、何で…」 「………愛してるから」 一瞬耳を疑った、愛してる?……でも、でも左右田君には… 「ソニアさんは?カフェでもソニアさんのこと話してたじゃないですか…」 「ソニアさんのことは今でも好きだ、けどよォソニアさんに何をしたって振り向いてくれねー…むしろ田中と仲良くなって最後までイッちまいやがった。絶望的だったねアレは」 「えっ……だけど私にもきよた」 「その言葉を口にするな」 急に口を塞がれ、耳元で低い声で囁かれる。私はこれから左右田君に何をされるのか、考えるだけで怖かった。ただ黙るしかなかった。 「気に食わねーんだよ、オメーを手に入れたと思ってるアイツが。でもこの事件のおかげでオレはオメーをずっと愛してやれる。みょうじ、…いや、"なまえ"、愛してる。希望なんかより絶望を愛してくれよ」 ← → |