あれから何が起こったかをこれから思い出してみる。
数ヶ月前のことだ。和一君含め、77期生の生徒達は苗木君により保護されて新世界プログラムを受けた。一旦はモノクマに乗っ取られてコロシアイ学園生活となってしまい、私は2度もハラハラとしてしまった。しかも未来機関の中でさえもコロシアイというものが起きてしまった。幸いそのときは未来機関の外にいた為に巻き込まれることは無かったが肉体的精神的に疲労してしまった。そのときに77期生の生徒達が目を覚まして助けてくれた…とか。

そういう話を聞いたけどあのとき以来、未だに彼に会えていなかった。私はある所へ足を進めている。白いブーケに赤いリボンを纏い、腕いっぱいに花を咲かせているひまわりの花束を持ちながら。

そこは希望ヶ峰学園の校舎の裏から少し歩いた殺風景な場所だ。規則的に木の立て札が並んで立てられ名前が書かれていた。苗木君達が作ったお墓である。簡易的だが次第に立派なお墓にしてくれるそうだ。犠牲者となってしまった人達にお花を添え、清多夏君には大きいひまわりの花束を添えた。思い出の場所だったひまわり畑…今は既に燃やされてしまった。私は清多夏君達の周りを綺麗な花畑にしてあげようと思う。殺風景な所だと寂しいだろうからという勝手な気持ちだけど。

「…貴方の気持ち、裏切っちゃった…怒ってる?」

ボソリと彼の墓の前で呟けば、強い風が私の正面から吹き荒れ、1枚のひまわりの花弁が私の頬を叩くように当たり、青空へ飛んでいってしまった。まるで彼の言葉を代弁したかのような動きで思わず微笑んでしまう。

「…うん。ごめん、」

続ける言葉が出ないまま黙っていると後ろから誰かの気配がする。でもその人はただ立っているだけのようだ。ただ風の音だけが静かに聞こえる。


「…"みょうじ"…」

聞き覚えがある男性の、少しよそよそしくなった声に振り向く。少し昔に戻ったようないつもの和一君だ。いつものツナギではなく、珍しく私服姿である。

「和一君」
「……ん?」

彼は怪訝な顔で首を傾げた。…忘れてた。絶望のときの記憶は"上書き"されたんだっけ?

「…"左右田君"、どうしたの?」
「みょうじを探してた」
「あら、どうして?」
「…オレはオメーに何かしたんじゃねーかって思って。思い出さなくていいって苗木に言われてよォ。でも、どーしても気になるんだわ」

…困ったな。記憶が上書きされたとしたら、きっと彼の好きな人は私ではないだろう。聞いてみればソニアさんと田中君は仲良いもののまだ付き合ってるような関係では無いと聞く。それならなおさら伝えにくいものだ。彼が私を監禁したという事実は私の心の中に留めておくのが1番だろう。だが、全部隠すのはなんだか癪だ。少しだけ意地悪言ってみることにした。

「…どうしても知りたい?」
「ああ」
「あ、あの…恥ずかしいんだけど…毎日1回はキスしてた、よ…」
「……はぁっ!?」
「だってそうでもしないと元気が出ないって…」
「は、みょうじにはか、彼氏が…」
「い、いたけど左右田君がその方が燃えるとか」
「はぁぁあああ!?ま、マジかよ…」

左右田君は口に手を当てて驚いている。一応監禁の事実は隠したものの結構な事実を自分の口から出せたものだ。

「オレ、とんでもねーことしちまったよ…ごめん、ごめんみょうじ!!!」

彼は頭を深く下げる。…ここまで謝られるとちょっと言い過ぎてしまったかなと思ってしまう。
キスとか恋人がやるようなことは彼にとっては神聖なものだと思うからかなりショック受けてるだろうな…というか私としたことが初めてだった可能性もあるのだ。そう思うとやはりキス以外のことは隠しておこう。意地悪してしまった自分を少しだけ呪いたくなった。

「左右田君、顔を上げて」
「…なァ、みょうじ。………」

顔を上げて私の名前を呼んだ後に彼はしばらく黙った。そして後ろに後ずさりする。もしかして私の後ろに誰かいるのかと振り向くと誰もいなかった。清多夏君のお墓と私が供えたひまわりの花束だけである。

「…え?左右田君どうしたの?」
「……あ、いや、何でもねーよ」

顔を覗くと少し青ざめているような気がする。
まるで幽霊でも見たかのような……。

「…大丈夫?気分悪くしちゃった?どこかで休む?」
「…あぁ、そうするわ。オメーの淹れたコーヒー飲みたい気分だ」
「あら、珍しいね。左右田君がコーヒー飲むなんて」

不意に体が左右田君の方に引き寄せられる。

「…"アイツ"が言っていたぜ。オメーを幸せにしてくれって」
「…………?」
「今まで通り友人から始めてもいいか?その、申し訳ないけどオレには好きな人がいるからよ」

ああ、そういうことか。誰が言ったかは何となくだけど分かった。あまりにも非現実的すぎるけど。そう言われたのならかっこよく私と付き合ってくれればなぁと思ったけど、彼はどうしてもあの子のことが好きらしい。一応キスとか色んなことした関係なのだが。勝負なんてしていないけど負けたような気分だ。

「…友人からでもいいよ。でも左右田君がそうするならもっとお洒落しなきゃね」
「ん、何でだ?」
「左右田君が振り向くように。…それか他の男の人にモテるようにかな?」
「な、何でだよ!他の男にモテる必要ねーだろ!」
「あら?どうしてそう思うのかな?」
「…ッ!…な、何でだ?こうオメーといると懐かしい気持ちになるんだよォ」
「あー、それは思い出さなくていいかも。だって友達でいたいんでしょ?」
「だぁああ!オメーさては他のこと知ってんな!?」
「ふふ、秘密だよ、これだけはね」


彼とそのような再会をしたあの日から和一君にかなり迫られたものの何とかのらりくらりとやり過ごしている。
そこから数週間した今、私は復興もしつつ新しく学園長となった苗木君の提案で学園の隣に小さいカフェを建て、そこでコーヒーを淹れつつ、デザートを作る仕事をしている。そこには学生だけでなく一般人も利用可である。

「"店長"。あの、店長に会いたいという人がいらっしゃってますが…」

一緒に働く女性店員が私の所に来る。分かった、と彼女に伝えて店の外まで行くと見慣れた人が立っている。

「左右田君。どうしたの?」
「よっ、みょうじ。オメー来月の土日は暇か?」
「…んーなんとかすれば大丈夫だと思う。どうしたの?」
「おう!77期生や78期生の奴らと集まって遊びに行く予定なんだよ!良かったらオメーもどうだ?」
「ち、ちょっとその中に私が入っていいの?」
「い、いーんだよ!みんなみょうじと遊んでみたいらしいぞ?」
「そ、そう?それなら何とか時間作るよ」
「よっしゃ!決まりだな!また詳しく決まったら来るからな!」

左右田君と話をした後に仕事へ戻りつつもその遊ぶ約束を楽しみにしている自分がいた。久々に遊びに行くからというのもあるし、何かあるんじゃないかという期待もあったのだ。
カフェの中に入ると笑顔で先程の店員が話しかけてくる。

「店長〜、最近あの人よく来ません?絶対店長のこと気にしてますよ!」
「そう?」
「だって店長のこと気になってる人いっぱいいますよ!というか!店長も彼氏作ったらどうです?婚期遅れちゃいますよ!」
「あはは、婚期は余計だよ。あの人のこと、確かに気になってるけど私は待ってるのよ」
「えっ!」
「あの人の周り、結構大変だから。それに私もお店のことあるからね、貴女みたいに青春してバイトしてと自由に出来ないの」
「そ、それじゃあ…!落ち着いたらってことですよね!結婚式は私を呼んでくださいよー」
「ち、ちょっと話が早すぎるってば!」
「そしてあたしが結婚式あげるときは来てくださいよ!」
「本当に自由人よね、貴女って…」

まぁ、待ってるというのは和一君が振り向いてくれるのを、っていう意味。別に恋人が欲しいという訳ではないけど、彼と関わっているうちに不思議と安心してしまうのだ。だから居てくれたらいいなぁという願望はある。それが友人でも恋人でもどちらでもいいのだ。

彼を含めたみんなと遊ぶときは何を着ていこうか。そう思いながらカフェの仕事を着々と進めていた。来月、彼に告白されるのを知らないまま。



END






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