あの日から数日だろうか。
毎日のように彼は私を求めて、朝になると腰が少し痛むのだ。だって毎晩激しいことをしてくるのだから。
そして彼は朝になると私を抱きしめながら目を覚まし、おはようのキスをしてくる。キスは構わないがせめてフレンチな方をお願いしたいものだ。言ったとしても結局ディープなのだが。
そして今はキスを済ませた後なのだが、ベッドの上に座る彼の上に向かい合うようにして座っている。
私は彼のちょっとしたチャームポイントを作っている。彼から見て左側にある小さい三つ編みを丁寧に櫛で空いて編むところだ。

「なまえに編んでもらうなんてオレは幸せ者だ」

和一君はそう言いながら私の髪を手の間に入れ手櫛で空いてくれる。

「大袈裟よ、もう」
「本当だって!…誰かにやってもらったことなくてよォ」

少し寂しそうにする和一君の左頬に軽くキスをすると彼は頬を赤く染め、私の腰にまわしていた手で自身の顔を覆う。はぁーと彼から息が漏れる。

「…あー……最高…」
「ん?」
「…今夜も寝かさねェ、たっぷり愛してやるからなッ」
「う…わ、分かったから大人しくしてよ、これから編むから!」
「おう!頼んだぞなまえ!」

明らかに声が上機嫌になる和一君。単純で分かりやすい人だ。でもそんな所も悪くないと心の中で思う。

和一君がふと少しだけテレビをつけていいかと尋ねる。ここ数日テレビをつけていなかったから今の状況が知りたいのだろう。私も知りたいと言うと彼はテレビをつける。するとコロシアイの中継ではなくモノクマでもないモノクマの被り物をした人間が写っていた。


「江ノ島盾子は死んだ」


その言葉に和一君と顔を見合わせる。どうやら生き残った苗木君達が黒幕である江ノ島盾子を追いつめ、江ノ島自らオシオキを執行したらしい。

「すぐにでも希望がこの世界を包むだろう。だが、我々絶望はここで諦めることはしない。希望を持つ者よ!絶望に堕ちるのだ!」

モノクマの被り物をした両手を大きく広げ画面が切り替わる。私は驚きを隠せなかった。だってそこには…


「……清多夏君?」


そこに映るのは清多夏君だった。また画面が消え真っ暗になる。今のは一体なんだったのだ?何故清多夏君がテレビに映ったのだ?


「"なまえくん"」


ピンと自身の背筋が真っ直ぐになる。声のした方に振り向けば信じられない光景が見えた。空は雲ひとつない青空、周りはひまわりが咲き誇り、そのひまわり畑の中にいつの間にか1人男性がいる。
白い学ラン、黒ブーツ…そして、顔は紛れもなく清多夏君だ。

「………きよ、たか、くん…」
「なまえくん、ここにいたんだな。迎えに来た」


彼の方へ足を運ぶ。足取りがフラフラしていたせいか途中で転んでしまった。膝が少しだけ擦りむいたと思うと全身が温かくなる。清多夏君が座り込んで私を抱きしめてくれる。この温もりに懐かしさを感じる。嗚呼、これは清多夏君の温かさだと。彼は生きていたんだと。涙が自然と大量に流れる。彼も両目に涙が溢れていた。

「清多夏君…寂しかったよ…!私、死んじゃったかと思って」
「すまないな…僕は君に沢山迷惑をかけてしまったようだ」
「っ、本当だよ…うあぁ……」

彼を強く抱きしめると彼もまた強く抱きしめて、背中を優しく撫でてくれる。

「さぁなまえくん、行こうか」

そう言って彼は私を立ち上がらせる。

「え…どこに?」
「…式場に決まってるじゃないか。これを見てくれ」

清多夏君が見せたのは小さい箱だ。彼が箱を開けるとダイヤがはめ込まれた指輪が入っている。彼の顔を見るといつも私に見せていた頬を赤らめた柔らかい笑顔が目に入り私自身も顔が火照った。

瞬間、先程までの出来事が脳裏を掠める。
清多夏君じゃない、別人の姿が。


「…清多夏君…」
「君を探し出せて本当に良かった。2人で幸せになろうではないか」
「うん、そう…だね…」


私は夢を見ているのだろうか?
それともこれが現実で今までは悪い夢だったのだろうか?


「なまえくん、愛している」


でもそんな疑問は彼の純粋な笑顔で容易く掻き消された。


「うん…うん!私、清多夏くんのこと……」
「ああ、分かっているさ。なまえくん、僕は幸せなんだ。これから式場でこの指輪を君の左手の薬指にはめることが出来るなんて…さぁ早く行こうではないか」

清多夏君が私に差し出した手を握ろうとしたときだった。


パリンッ____________


何かの割れる音。その音によって思わず瞬きを1回すればそこはひまわり畑ではなく無機質な部屋だ。一体何が起きたというのだろうか。

「…………!?」

手に何かを握っている感覚がして下を見ると声が出てこなかった。
右手には鋸があり、その歯が私の左手の薬指の上にあったのだ。体の奥から底計り知れない恐怖が渦を巻いて全身を包み、鋸を遠くに捨ててその場に座り込む。苦しい。息がつまる。吸って吐くだけの呼吸が出来なくなる。

「……ッッ!なまえッ!なまえッッ!!」

後ろから聞き覚えのある声が、必死に私の名前を呼ぶ声が近づいてきて、和一君は私を後ろから抱きしめる。強く抱きしめる腕を一旦解いて彼の顔を見る。私を見て青ざめた和一君はまた私の体を包み込んだ。


「う、……あ…わたし、……」
「…良かったぜ、オメーが天国へ行かなくて…」


ゆっくりと周りを見渡す。するとベッド付近の机の引き出しは開けっ放しで床にはレンチと何かの破片がある。目を凝らすとそれは清多夏君から貰った三日月のネックレスだ。パリンと何かが割れる音がしたのはきっとアレだろう。レンチが近くにあることから恐らく壊したのだろう。

和一君がボソボソと呟く。和一君によるとテレビは突然砂嵐に切り替わったらしい。すると私が1人で話し始め、鋸を手に取ったらしい。和一君が止めても全く私は動きを止めなかったとか。どうすればいいか分からず引き出しを漁ればネックレスが出てきてそれを壊したとか。

「…元々ソレは捨てる予定だった。だってアレはなまえとアイツを繋げる物じゃねーか、オレからしたらムカつくしな」
「……この部屋にある唯一の物を壊したんだね、私と清多夏君を繋げる物だから」
「正直アレ見つけた時は今壊すしかねェって思ったんだ。…結果オメーはちゃんと戻ってきたんだ」
「…ごめんなさい、和一君」
「いーんだよ、オメーがオレのそばにいてくれればいいんだ」

するとまた砂嵐のような音が流れる。そこにはテレビが砂嵐の画面になっていた。

「嘘だろ、何で勝手につきやがるんだ?」

勝手についたテレビ画面はまたモノクマの被り物をした人間が映り込む。

「絶望の同士よ!今こそオマエラの本気を見せてくれ!」

そして砂嵐へと切り替わる。恐ろしくなってきたからあまり見ないようにして恐る恐るテレビを消す。また和一君に迷惑をかけてはいけない。そう思って彼の顔を見上げた。

「……和一君?」

彼は消えたテレビを見つめながら黙り込む。
和一君の様子がおかしい。私が近寄ると和一君は急に立ち上がり、チェーソーを持ってドアの外へ走り出す。

「和一君っ!」

私はそのまま後を追いかけるしかなかった。暗い道を真っ直ぐ進む。そういえばこのまま真っ直ぐ行けば外に出られるんだよね?
外へ行ける階段が見え、そこに上る彼を見つけ、彼の名前を叫びながら抱きしめた。

「…ッ、何を"するんですか!"」

和一君に振り払われ、背中を強く打った。和一君もテレビのアレにやられたに違いない。

音が聞こえる。電源がついた音。刃が振動している音。チェーンソーが動き出したのだ。しまった、迂闊に近づけない。和一君は振り向いて私の方へ歩を進める。


「ねぇ、ソニアさん…」


チェーンソーの動く音に混じって彼の声が聞こえる。彼の目は虚ろで赤く染まっている。間違いない、あのテレビは何かしら人を絶望させようとおかしくなってるんだ。

「…ソニアさん卒業したら国へ帰るんでしょう?」

和一君を見ながら、後ずさりをするものの背中に壁の感触がする。

「和一君!私が分からないの!?和一君!」

ここまで来たら叫ぶしかない。和一君に声が届くように祈りながら彼に呼びかける。

「…ソニアさん、オレじゃ駄目だったんですか?…それならココで共に死にましょう。大丈夫です、オレが一思いにやっちゃいますんで!」

チェーンソーを振り上げた瞬間の顔を私は見た、見てしまった。
彼は目を赤く染めながら泣いていたのだ。その赤い目は絶望に染まったのか、単に泣き腫らして赤くなっているのか分からなかった。
共に死ぬ…彼は好きな人と一緒にいないとダメな寂しがり屋さんだったんだ。…これは私の希望が小さすぎたのかもしれない。私のときは和一君が助けてくれたのに、彼のことを助けることが出来なかった。
ごめんね…。先に逝くけどずっと和一君のこと待ってるよ。だって約束したから一緒にいてあげないと、ね。目を閉じて痛みが来るのを待っていた。


「そこまでよ」

女性の声が聞こえ、和一君の低く呻いた声、そしてチェーンソーが止まっていく音に目を開ける。

…な、何が起きたの?

「は、離せッ、離せって言ってんだろうがああアアア!」

和一君の苦しい叫び声に女性と男性が組みつき、女性が和一君に薬を飲ませる。2人とも見覚えがある…確か、テレビで…

「77期生 超高校級のメカニック、左右田和一 あなたを保護するわ」

和一君はそのまま動かなくなった。この人達、コロシアイ学園生活で見たことがある。

「き、キミはみょうじさん!?覚えてる?苗木誠だ」

やっぱりそうだ、苗木君と女性の方は霧切さんだ。

「…あら、知り合いかしら?それよりも苗木君、眠った彼を運んでほしいわ」
「ああ、ごめんね」

苗木君が和一君を背負う。そのとき私の前に霧切さんがやってくる。

「大丈夫よ、彼は眠ったわ。あなたに怪我はなさそうで安心したわ」
「え、えーと…彼はどうなるんです?」
「それは後々説明するわ。とりあえずここから出て話しましょう」

霧切さんに手を差し出され、私は手を握って立ち上がる。眠った和一君を見つめながら、久々の外へと足を進めた。






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -