は?殺せ?
一瞬何を言っているんだと思考が止まってしまった。

「これから学級裁判を始めます」

何で急にこんなことを言ってきたんだと思ったがテレビに目を向けるとその理由もすぐに理解した。

ああ、アイツが死んだのか。

なまえの希望が壊れた、と。生きる意味は無いと判断したようだな。
けど、オレは殺さねぇ。なまえを殺した所でオレが絶望するわけでは無い。
寧ろ胸糞悪いんだ。

「…なまえ。オメーの今の希望は死ぬことだろ?死ぬことで石丸に会えると思ってんだろ?」
「な、なにが、言いたいのっ…」
「殺さない」
「えっ!?」
「殺すわけねーだろ。殺したら石丸の所に行くに決まってる」

オレは強くなまえを抱きしめる。
これから溢れる声が絶望しきったオレに相応しくないだろう。

「…なまえ。石丸だってよォ、早く死んでほしくないと思うぜ?そりゃあ苦しいけどよ、生きてりゃ石丸を弔うことだって出来る。まだ出来てねーだろ?」
「…」

少しだけだが、落ち着いてくれたようだ。

「…アイツの性格考えてみろ、なまえが死んでほしいなんて思うか?」

そう言うとなまえは頭を横に振る。

「だろ?ならすぐ死ぬなんて思わねェことだ」

オレは絶望失格だ。好きな奴に生きて欲しいという希望を少なからず持ってしまったのだ。
こんな気持ちを察されたら真っ先にアイツらはオレを狙うだろうな。

絶望と希望は紙一重というが、全くその通りだ。オレはなまえの足枷を持っていた鍵で外す。彼女は驚いていたようだ。これからはなまえに選ばせよう。外に出るならオレが死ぬまで彼女を遠くから守るだけだ。

「…悪かったな、不自由だったろ?」
「………そ、うだくん….」
「ん、何だ?」

彼女はぎゅっとオレの背中へ腕を回して抱きしめる。まるでオレを欲しているようで可愛らしい。

「…今、左右田君のおかげで生きられるけど…やっぱりこんな世界じゃすぐに」
「オレといれば大丈夫だ、現に生きてるだろ?1人が怖いならオレといればいい」
「…左右田君って強いんだね」
「だろ?惚れてもいいんだぞ?」
「……絶望に染まる前の左右田君に戻ってくれるなら」
「オイオイ、それは難しいぞ」

オレが笑うとなまえがつられて少しだけ笑う。この笑顔が見たかった。この部屋に連れ込んでからオレはなまえの笑顔を見れていなかったからだ。

ああ、可愛いな。こんな良い女は誰にも殺させねーわ。
ずっとなまえを抱きしめているとスースーと規則的な寝息が聞こえる。
寝るの早くないか、泣き疲れ?と思いつつ、なまえを起こさないようゆっくりと横にする。

オレが起きたときには彼女がどこかに行ってしまってないことを祈りながら目を閉じた。






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