「さっきまであんなに強がってたのに、夜だと可愛くなるのずりーぞ!」

そう言ってニコニコした左右田君は私の頬を人差し指でツンツンとつつく。
ラジコンを作ってもらった後、数日家を空けていた左右田君。帰ってきたらそれはもう嵐のような時間だった。


「…なんのことやら?」
「全くつれねーな、また可愛いとこ見たいからヤるぞ?」
「そ、それだけはやめて…腰が痛くなる」
「ん、それならまァ仕方ねぇな。オメーの華奢な骨格が壊れるのはヤだしなァ」

左右田君はベッドから起き上がり、Tシャツを着始める。そういえばお互い何も着ていないんだっけ。私は何をしているんだろうなぁ。生きる為に左右田君に寄生するなんて。そんなこと言ったら、寧ろずっとそばにいてくれと抱きしめてきた時はあった。

「…オレもそろそろ行くか。なまえ、大人しくしてるんだぞ」
「大人しくしなかったら?」
「それはもうベッドの上でゆっくりと説教と…」
「わ、分かった。大人しくなるから」
「ったくよ…行ってくるわ」

ドアを開ける左右田君の背中を見送った。
そして私1人だけになった。
朝の日差しを浴びない朝は何とも憂鬱である。
テレビはチャンネルもなくただコロシアイを映していた。


…だけど、妙な胸騒ぎがする。清多夏君と山田君が朝から見つかっていないのだ。
まさか、まさかと思いながらテレビから視線を離せなかった。


「死体が発見されました!」


このモノクマの声に胸が締めつけられる。そこには苗木君や朝日奈さん、セレスさんが立ち尽くしていて、山田君が血塗れになっていて倒れていた。
また始まってしまうのか…そう思っていると、画面の中で苗木君が他のメンバーに伝えようとしていた。
苗木君が驚いた瞬間だった。私の中でか細い糸がプツンと切れた瞬間だった。

うつ伏せになって倒れている清多夏君の姿が映し出されたのだ。
まだ、…生きてるよね?放送は流れていないんだから。
大丈夫、大丈夫だと言い聞かせる。


そんな淡い期待もすぐに崩れ去る声が聞こえた。


「死体が発見されました!」


2回目。
それは山田君…そして清多夏君が2人共何者かに殺されたこと。
そして画面には2人の死体が映されたこと。

そこから先は記憶も視界も、テレビの声もおぼろげだった。
まだ朝のはずなのだ。1日の始まりなのにも関わらず私の体は気力を失っていた。座るのもままならずベッドで横にぐったりとなった。

おぼろげだった記憶の中でわずかに覚えているのは死体が発見された後に苗木君達が捜査を始めた頃だ。突然プツンとテレビの画面が消え、急にモノクマの姿がドアップで映ったのだ。
そこにはモノクマ劇場と書かれている。

「いやぁ、今朝は何と怒涛の展開!2人も犠牲者が出ちゃいました!」

嬉々として視聴者に伝えているその姿は怒りと憎しみしか出なかった。

「さてここで視聴者の方だけに、犠牲者の最期の言葉でも聞いてみようか!」

…?
そっか、今まで彼らの日常を主として見ていた。捜査や学級裁判は左右田君といたからあまり見てなかったんだっけ。


最初は山田君だ。朝日奈さんが涙を流しながら抱えている。私もあの中にいたら清多夏君の体を抱きしめていただろうか?
"みんなと出会う前からみんなに会っていた"
頭部の衝撃で山田君は思い出してくれた。これで苗木君達が気づいてくれれば良いんだけど…。
最期に彼は犯人の名前を呟いて事切れる。
人が死ぬ寸前、そして死ぬ瞬間を堂々と見せびらかすモノクマはものすごく趣味が悪い。

突然画面が切り替わり、ドサっと音がする。
清多夏君の倒れる音だ。彼も頭部を殴打されたようだ。
私は見なければいけないような気がした。彼がどんなことを呟いたのか。例え恨み言でも何てことのない言葉でも聞くべきなのだ。

そう思ったときだ。彼は目を見開いて左手で胸ポケットを漁る。
…?死ぬ間際に何を探しているのだろう?何か犯人を特定する証拠があるのだろうか?

清多夏君が胸ポケットから出したソレに驚きを隠せなかった。清多夏君、貴方は記憶を無くしているのに、
どうしてお揃いのネックレスを持っていたの?
画面からでも、ネックレスの月の石は光っているが、ソレは三日月の尖った部分だけ少し欠けているように見えた。
殴打されて倒れた衝撃であろう。
彼は左手に握ったネックレスと左手首にある腕時計を交互に見て苦しそうな顔が綻ぶ。

「………僕達は、こんなことしている場合ではなかった……」

もしかして貴方も山田君と同じで記憶が戻っていた……。

「…あの世界をどうするべきか…考えるべきだったのだ…」

清多夏君の声がか細くなる。それでも彼の口は話しだそうとしている。

「僕は…、助けにいけなさそうだ」

そのときだ、その瞬間がきてしまったようだ。必死に目を開けようとしているが次第に閉じようとしている。彼の目は潤み、涙が一粒溢れた。

「……す、まない………"なまえ"……く…」

「き、清多夏君…」

「…………」

彼は目を閉じてそのまま何も動かなかった。カランと月が欠けたネックレスが床に落ち、すぐにプチュンと画面が黒くなる。

「あ、あ、あぁぁ……」

その後に映し出されたモノクマの画面は揺れている。水面が揺れるような揺れは私の涙で作り出されていた。

その後は何も聞こえなかった。無力な私は泣き叫ぶことでしか出来なかった。只々モノクマや絶望の残党とやらに心を打ちのめされた気分だ。
これを快感だと思えてしまうのか。信じられない。狂っている。

私の希望は絶望によって失ってしまったのだ。
只々息苦しく、未来が不安で恐怖で体が震える。
清多夏君の為に生きていたのだ。私に生きる意味なんてもう無い。


……


チェーンソーの動きを止めて家の中へ入り、なまえの待つ地下室の部屋へ進む。
今日はなまえに甘えたいくらい嫌なことがあった。
絶望の残党もとい俺の仲間に裏切られ、そいつはオレに襲いかかってきた。なんとかチェーンソーで返り討ちにして真っ二つにしてやったが、過去を思い出して胸糞が悪くなった。
この間は江ノ島にロケットを作ってやったが宇宙まで行ったかと思いきや、すぐに墜落した。もちろんオレのミスではない。江ノ島が改造したのだ。
そのときは絶望という快感に浸れたが、今回ばかりは違う。オレにとって裏切られた絶望は快感ではない。ただイラつくだけだ。
絶望の残党は全ての事象に対して絶望するわけではない。出来事によってはただ怒りを感じることだってある。ここの人間だってトラウマはある。それに快感なんて感じるわけがない。

まァ、あいつに裏切られたから今日はオレ1人だったが寂しいったらありゃしない。
オレだって弱い所はある。1人にされることが怖いんだ。
だからこそ隣にいてほしい人が欲しかった。
ソニアさんにアプローチしても結局は田中の方へ行ってしまい、どこかに行ってしまった。だがそれでオレは絶望しなかった。いや、悲しかったけどな。

そんな悲しい気持ちを励ましてくれたのがなまえだ。カフェで働いているなまえはこんなオレにいつもアドバイスかけたり励ましたりしてくれたのだ。

ほとんど毎日カフェに来て、暫くして気づいた。
なまえのことが好きになったって。
あいつの笑顔が大好きだからだったのかもしれねぇ。
次第にカフェの窓からなまえを見るようになった。ただの接客だが笑顔を振りまくあいつの姿は美しくも許せなかった。
…オレにだけ笑っていればいいんだ。

オレを絶望に堕としたのは紛れもなくなまえのせいだ。
なまえが石丸のもとへ行ったのがオレにとって1番辛く、暫く立ち直れなかった。
オレは希望ヶ峰学園でも1人なのか…?
何でオレには誰も振り向いてくれないんだよ?

……

「あっ、左右田せんぱぁい!あの可愛い店員さんにフラれちゃったの!?ウケるー!」

寄宿舎の自分の部屋に帰ろうとしたときだ。聞こえた声に振り向くとそこには江ノ島がいた。

「カンケーねーだろッ!オメーにはッ!」
「まぁまぁ怒らないで!先輩!手を組みませんかぁ?」
「…は?何なんだよ?急によォ」

江ノ島は周りを見て、誰もいないことを確認するとこっそり耳打ちしてくる。年下ギャルが近づいてくるのにビビったがもっとビビるのはその後の言葉だ。

「…アイツ、邪魔じゃない?」
「はぁっ!?」
「だーかーら!アイツよ!左右田先輩が好きな店員さんを奪った男がいるでしょ!?」
「…えーと、石丸か?」
「そう!石丸!あたしもさー、石丸に散々身嗜みについて注意されてて参ってるのよねー。それなのに石丸のヤツ、あの子と付き合ってるのよ!?不純不純言いながらアイツだって不純じゃない?そー思いませんか!?」

そうか、江ノ島も確かに制服を着崩しているし何より同じクラスだから注意されてんのか。気の毒だ、と思った。

「ま、まァそうだな…」
「だから、左右田先輩。手を組みましょうよ、アイツのこと"絶望"に陥れましょうよ〜。先輩はちょっとした"ドッキリ機械"を作ってくれればいいんですー!ね!」

そう言って江ノ島はニコニコしながら手を差し伸べる。
少し脅かすぐらいならいいかもしれねェ。江ノ島によると機械を作るだけでいいらしいしな。
オレは江ノ島の手を握る。そのとき、江ノ島の顔が歪んだような気がした。

……

…いけねぇ、結構考え事をしていた。
なまえの待つ鉄のドアにいつのまにか着いたようだ。

扉を開けたところでなまえの泣き声が聞こえる。部屋の中に入り、すぐに駆け寄った。

「なまえ!どうしたんだよッ!?」
「左右田君…?」

彼女の泣き顔までも美しくて見惚れてしまうが話を聞くのが先だ。
なまえはオレを見て微笑んで呟いた。

「ねぇ、私を殺して、左右田君…」






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