大学のテストやらで忙しくやっと出勤出来たのはあの男性に会ってから約2週間後位だろうか。
今日は一日中雨だからか店内は空いている。
とはいえ、ボーッとしてる訳にもいかないのでレシピの確認や清掃をして時間を潰す。
夜の時間になるとクラシックジャズの音楽が流れ、店内はオレンジ色の淡い光が広がる。
まるで都内のお洒落なバーに来たような感覚である。
夜の時間はいつものカフェドリンクに合わせ、アルコールも販売している。
朝や昼はよくあるお洒落カフェ、夜はよくあるお洒落バー。カーネリアンは昼と夜で顔が変わる特殊なカフェだ。
実際、ここで働いてる私もこの空間にいると癒されてしまい、テストで上手くいかなかったとかそういう嫌なことを忘れられそう。
雨の日にこんな空間にいるとここで眠ってしまいそうな安心感を覚える。

そのときカランと鈴のついたドアが開く音がした。

「いらっしゃいませ…あら」

一瞬目を疑ったが間違いない。あの時の男性だ。手には黒い傘を持っている。
その人の後ろにもう1人いる。茶髪の男性だ。
あの人の友人だろうか。

「へーここがみんながオススメしていた所なんだね」
「こんばんは、2名様でよろしいですか?」
「こんばんは!あのときは本当にありがとうございました!」
「どういたしまして、ではご案内しますね」

やはりあの人だ、と思いつつ奥の席に案内する。2人は友人同士なのだろうか?

「ご注文お決まりになりましたらお呼びください」

メニュー表を渡して一旦カウンターまで戻る。
遠目で見ると2人はなんだか話しているみたいだ。
2人は初めてみたいで店内を見回しながら話しているようだ。たまに白い学ランを着た人がこっちを見てきてはすぐ目をそらしているようだ。
お客さんに見えないようにしゃがみ込み、小さい鏡を取り出して顔中心に身だしなみを確認する。これといって悪いところはないようだからまた立ち上がる。なんだか見られていると意識するほど気になってしまう。

「すいません、いいですか?」

黒い学ランの人が手を挙げて呼んでいたのですぐそっちに向かい、オーダーの準備をする。

「お待たせしました、ご注文お伺いします」
「えーと…みょうじさん、ですよね?」
「?…はい、そうですがどうされましたか?」
「いや、クラスメイトがコーヒーはみょうじさんが淹れてくれたのがオススメと言っていたから…アイスコーヒー2つお願いします」
「ふふ…学生さんにも広まってしまったのですね」
「かなり有名ですよ、夕方に可愛い店員さんがいるからその人が作るコーヒーはオススメだって」
「恐縮です」
「みんなの言うとおり可愛い人ですね」
「えっ!?」
「…なっ!?」

突然可愛い人と言われてつい声に出してしまった。それはもう1人の人にも同じことが言えた。

「はは、ごめんなさい。みょうじさん、お願いしますね」
「あ、はい。少々お待ちください」

そう言って足早にカウンターへと戻る。
びっくりしてしまった…自分の手で頬を触ると熱いような気がしてきた。
チラッと見ると2人は何か話している。白い学ランの人は手元に本を持っていた。
何か難しそうなものだ、参考書なのだろうか。

アイスコーヒーを作らなければいけない。
…があんなこと言われてしまうと緊張してしまう。
大丈夫、と小声で呟きいつも通りにコーヒーを淹れる。
少し2人のいる方に寄りつつ、いけないことだが耳を澄ましてみる。

「苗木くん、き、急に何を言っているのだね!」
「本当のことだよ、石丸クンもそう思わなかった?」
「う、うむ…それはだな…」

どうやらあの男性…石丸君は困ってるようだ。
一瞬私の方を見たかと思うとすぐ逸らす。少し顔が赤いようだ。

これ以上お客さんを待たせるわけにいかない。アイスコーヒーを作り彼らのもとへ持っていく。

アイスコーヒーを持って行くところで石丸君はまた苗木君にからかわれるのだった。






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