案の定、私が出勤している日は忙しくなった。
マスターや先輩店員さんには褒められて嫌な気はしないし、天野君にはいじられるのだがとても忙しい。
店内が落ち着いた頃、マスターから休憩を貰って私はスタッフルームにいる。
マスターから「頑張ってるなまえちゃんにご褒美」とカフェのデザートであるオレンジのパウンドケーキを頂いた。

やはり先輩の作るケーキは美味しい。自分も頑張らなきゃと感じる。
スタッフルームは更衣室とは別に休憩用のテーブルといすがあり、窓には白いブラインドがかかっている。
本来スタッフルームは見えちゃいけないから閉まってるけど、たまには外で深呼吸するのも悪くない。そう思って私は裏口から少しだけ外に出る。

今日は雲一つ無い綺麗な夕焼けだ。
これから学生は家に帰るところかもしれないし、仕事を終えた人も満員電車に揺られていくのだろう。
そう物思いにふけると、ガサッと足下で音がした。
その音に気づき、すぐに下を見ると、白いレジ袋があった。
思わず拾い上げるとカフェの隣にある文房具屋さんのロゴと店の名前が入っており、中は鉛筆やらノート、クリアファイルが入っていた。

しばらく袋を見ていると「あの」と男性の声がした。
しゃがんだ状態で上を見ると私を見下ろす男性がいた。
制服を見て理解した。希望ヶ峰学園の生徒だと。

「す、すまない。しばらく持っているようだがそれは僕のなんだ」

そんなに袋を見ていたのか。なんだか他人の物をじろじろと物色してしまったようで恥ずかしくなりすぐ立ち上がった。


「ごめんなさい!ど、どうぞ」

袋を渡す際に温かさを感じ、ビクッとして手を胸の前に置いてしまった。どうやら物を渡すときに男性の指に触れてしまったようだ。
他人にオーバーリアクションしてしまった、と恥ずかしくなったが男性は気がついてないようだ。

「いや、落としてしまった僕も悪かった」

そう言い、男性は現実では全く見ないであろう律儀なお辞儀をした。


「拾ってくれてありがとう、感謝している」

そして私を見てにこりと笑う。

私は彼の赤い瞳に吸い込まれてしまったような感覚を感じた。
何故こんな感覚になったのだろうか。
たかが拾っただけ、なのだがこんなに感謝されることも笑ってくれることも無かったからかもしれない。
もしかしたら、こんなに立派な感謝の仕方が現実にあるのだろうかと驚いたかもしれない。
とにかく、私はこの男性に少なからず興味を持ってしまったことは確かだった。


「い、いえ、私は拾っただけなので!」
「何を言うか、人の助けをしているという自覚を持った方がいい。例え小さな事だとしてもだ!」

そうビシッと人差し指を突きつけられる。
もとよりこういう性格なのであろうか。学生は学生でも今時の学生ではなさそうだ。

「ふむ、もうすぐ夜になるな。では失礼する!」

そう言い、男性は去って行った。
方向からすると希望ヶ学園の方だから生徒であろう。

変わった人だなあと思いつつ、私は短い休憩を終えることにした。






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