それからしばらくして変わったことと言えばより一層希望ヶ峰学園の生徒さんが増えたことだった。
今まで予備学科と呼ばれる黒い制服の生徒さんが多かったが、最近はちらほらと本科である茶色い制服の生徒さんも増えてきた。
何故だか分からないが知名度が増えているのだろうか。
とはいえ、お客さんが増えていくのは嬉しい。
同時に忙しくなってくるが。


「みょうじさん、今日も忙しいね」
「そうだね、どうしてこんなに増えたんだろう?」
「それに関しては僕らの中で噂になっているんだけど…どうやら希望ヶ峰学園の学園長がここに来たらしいよ!」
「えぇっ!?あの希望ヶ峰学園の!?」


思わず大きめの声をスタッフルームで出してしまう。
シフトが私と同じ夕方に入っている天野君は私と同じ大学の学生だ。
身長高いし話上手いし顔も良いからよく女性客の話し相手(聞き相手?)になっている。


「ねぇ、みょうじさん、心当たり無い?学園長らしい人来たなーって」
「んー、無いなぁ。ここって、サラリーマンのお客さん多いし」
「それもそうだねー、でもあんなすごい所の学園長だからどんな人なんだろう?」


そう言いながら天野君はドリンク作りに入った。

今日は雨が降らない快晴日和。朝や昼に店前の花に水やりしてるとは思うがもう土が乾いているだろう。

「天野君ごめんね、水あげに行くから何かあったら呼んでね」
「店内落ち着いて来たから大丈夫だよ、いってらっしゃい」

天野君の了承も得たし私は外に出た。

やっぱり夕方になって気温が落ち着いてきたとはいえ土は乾いているようだ。
花に水やりしていると私の方へ来る人が1人いた。

「おや、こんにちは」
「ん、ああはい!こんにちは」
「この前はコーヒーをありがとね」

コーヒー…と言われて思い出した。
ああ、アイスコーヒー頼んだスーツの男性だ。褒められたからこの人の顔は何となくだが覚えている。

「そんな、恐縮です」
「そんな謙遜しないで自信もっていい」

その男性は窓から見えるお客さんをあまり見回していた。

「やっぱり生徒が増えているね、学食もいいけどやっぱりこういうところもいいよね」
「えーと、学食ですか?」
「そうだね、美味しいコーヒーを淹れてくれる君には知ってほしいかな。僕は学園長なんだ」
「えっ、貴方が!?」

正直驚いて言葉を見失ってしまった。
この人が希望ヶ峰学園の学園長なのか。私の心の中の言葉はいくらなんでも若すぎないか?という疑問だけだった。

「ああ、驚かせてしまったようだね。僕から教員の人にこの店を勧めたんだよ。そしたら教員が生徒達に伝えたみたいだね。静かなところで落ち着くって評判だよ」
「そんな話題になっているのですか?」
「もちろんだよ」

そう言って学園長は微笑んだ。信じられないが高評価らしい。
とはいえ、マスターやベテランの店員さん、天野君がいるからだろう。

「それじゃあ、学園で仕事があるから・・・ああ、そうだ。僕はもう1つ伝えていたんだ。コーヒーを頼む際は・・・そうみょうじさんに淹れてもらってって」

そう学園長が言った後、私に背を向けて学園の方へ歩いていってしまった。
脳内でぐるぐると言葉を反芻させた後、私はこれからまた忙しくなると理解した。






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