「みょうじく…いや、なまえくん」
「んー?な、何かな?」

名前を呼ばれ振り返ると、険しい顔をした清多夏君がいた。その顔はきっと学校で風紀委員として皆に見せているだろう。
大学で勉強してから、何回か大学側から清多夏君が呼ばれているらしい。社会情勢やらなんやら討論していると彼から聞いただけで頭が痛くなる。
とはいえバイト先以外で出会えるし、それが嬉しい。
のだがあれ以降、清多夏君の目線を痛いほどに感じる。他の男性と話すときに限ってだ。

「君は何回も僕から注意を受けているはずだ、僕以外の男性と話すことは最低限にだ!」
「もうー、大丈夫だよ!」
「大丈夫な訳あるかッ!君の会話から出掛けるという言葉が出たぞッ!僕のことだと言ってくれッ!」
「只の飲み会の誘いよ。大学生にはよくある事だよ、コミュニケーションとしてね」
「な、大学生はやはり遊ぶ立場になってしまっているのかッ!そうやって男女で飲み会と言って実は男どもは、なまえくんが酒に酔った隙に狙うのではということを想像しただけで辛いのだ…ッ!」
「どこまで想像してるの!?」
「そんな破廉恥な所へ連れて行くものかッ!なまえくん!聞いているのかね!」


「わ、分かったから、その日は清多夏君と過ごそうね。そういえばテストも近づいていることだし…」
「うむ!賢明な判断だぞ!なまえくんは僕の近くにいれば良いのだッ!」

ハハハと機嫌が良い清多夏君。彼はもはや超高校級のヤンデレでもヤキモチ焼きでも心配性とでもいえば良いのだろうか。
やれやれと心の中で思いつつ、彼の手を握る。

「さて、講義も終わったから学園まで送るよ」
「いや、なまえくんの家まで送ろう。君に何かあったら大変だろう?」
「えっ、だ、大丈夫だよ!清多夏君からしたら逆方向だよ?いいの?」
「………そうだな…最後まで見送れないのが残念だが駅まででもいいか?」
「うん、ありがとう」
「…だが家に着いたら僕に言うんだぞ!後途中で何か起きたらそれも報告せよ!」
「私は携帯持ってるけど…清多夏君は持ってるの?」
「…………あっ、明日会いに行くからそのときに報告だッ!」

図星だったようで、少し呆然としていたが明日報告という形で終わった。
学園の外出許可が限られているみたいだから、彼と会うことが容易ではない。けどそれ故に会う楽しさと幸せが風船のように膨れ上がる。そして彼の笑顔を見たときにその膨らんだ風船は弾けるのだ。今日も彼は凛々しいなとか相変わらずの心配性だなとか。

「…なまえくんは宝石は好きか?」

突然の質問にビックリするが、宝石は嫌いではないと伝えた。

「そうか…いずれ僕達は結婚するんだが、…その、結婚指輪はどうしたいのかが気になってだな。今まで手をつけなかったそこらの雑誌を読んでみたが、これは君の好みに関わることだろう?君に問おうと思ってだな」

なんと。彼は指輪について考えているのか。早すぎるが、いざその内容になるとどうも照れ臭くなる。なんて言ったって高校生とこういう話をするのだ。

「そうだなぁ、小さくてもいいからダイヤとか欲しいかも」
「ふむ、なるほど。…君にとても似合いそうだ」

そう言って顎に手を当てていた清多夏君は柔らかい笑みを浮かべる。その優しい笑顔に私は体や顔が熱くなるのが分かる。
だって将来彼と結婚するときはこう顔を合わせて笑いあうだろうと想像していたからだ。

「本当に可憐な人だ」
「あ、あの、そんな褒められると」
「僕はこれからも努力する。努力して君と幸せになる。……なまえくん、絶対に幸せにしてみせるッ!」

そう彼に告げられて、私は思わず目を逸らし、繋いでる彼の手を強く握る。毎日とても幸せだって痛感させられる。

「…ありがとう、清多夏君」

私にも夢が出来たような気がする。
雲ひとつない澄んだ青い空で彼と結婚式を挙げるという夢だ。
きっとそこで2人笑いあえるだろう。

そんな夢を思い描きながら、清多夏君と駅まで歩いていったのだった。


END






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