それからしばらくした頃だろうか。とはいえまだ5日位しか経ってないのだが、石丸君に会えないとこう時間の流れが遅く感じる。
あのときはマスターや天野君に時間を空けてしまったことを謝った。天野君はともかくマスターも許してくれたのは意外だった。寧ろ私を心配してくれたようだ。優し過ぎるマスターのもとで働き続けたいものだ。

今日は近くで夏祭りが行われている。
マスターや主婦の先輩達も家族と、天野君は友達と行っているようだ。
だから今日は私1人だけである。この日に備えてマスターや先輩達にまだ習ってないデザートを叩き込んでもらった。幸い今日は夏祭りのお陰で人は誰もいない。祭り終盤になると人が来るようだが。

カランと扉が開く音がする。そのお客さんに心臓が高鳴る。紛れもなく石丸君だ。普段通りの石丸君だ。

「石丸君、いらっしゃい」
「………君1人か?」
「ええ、はい」

辺りを見回した後、石丸君は私の目の前のカウンター席に座る。少し大きい深呼吸をした後、彼は私の目をじっと見続けた。

「なら言わせてもらおうッ!みょうじくんッ!結婚してくれないかッ!」
「はっ、はいっ!?」
「前会ったとき、君は僕と同じ気持ちだと言っているッ!即ちそれは、…僕に気を持っている、ということでいいなッ!それならば話は早いッ!結婚しようッ!」

開口一番、何恥ずかしいことを言い出しているのか。しかも素晴らしい程に店内に響く。誰もいなくて本当に良かった。石丸君は至って普通だけど、私は思わず赤面し、急に言葉が出せなくなった。恋愛を知ったばかりの石丸君恐るべし、だ。

「え、えっと…」
「僕は交際について何故不純なのか分かったぞ!結婚を目的とした付き合いをしていないからだッ!何故お互い想い合っているのにすぐ別れるのだッ!人の気持ちを弄んでいるから不純だということに気がついたのだッッ!」

彼らしからぬ直球過ぎるマシンガントークに圧倒される。彼の言うことは間違いとはいえないが、飛躍しすぎる。それなら結婚前提の付き合いしてくださいで、済みそうなものだ。

「ま、まさかみょうじくんには他に好いてる人がいるのかッ!?」
「石丸君待って!あの、私も好きだよ!石丸君のこと好きです!」
「本当にか!僕もだッ!みょうじくんのことが好きだッ!」

笑顔な石丸君に卒倒しかける。彼はこんな情熱的な人だったっけ。でも正直言えば嬉しいものである。ドラマや小説とは違う形であれ、相思相愛というのが証明されたのだ。


「そうと決まったら、この後日程は空いているかねッ!」
「に、日程ですか…?」
「僕は大切な結婚相手のことを詳しく知りたいのだッ!お互いもっと親交を深め合おうではないかッ!そして君の両親に挨拶しに行かねばなッ!」
「で、デートってことですね。構いませんよ。石丸君と一緒にいれるのは楽しみですね!で、でも両親に挨拶するのは高校生卒業してからでも…」
「う、うむ…確かに一理ある。ご両親が納得しないだろう。僕が就職して成功することが結婚への近道ということだね?」
「はい、そうですね」
「よし、僕はまた更に努力を重ねるぞ!」


「ふふ…デートというと、何をしに行く予定ですか?」
「ふむ、みょうじくんはどこか行きたい場所はあるか?」
「んー、お祭りは終わっちゃいましたしねー。石丸君と一緒ならどこでも大丈夫ですよ」
「ふむ…ではある所に行こうか。僕の実家の近くに景色が綺麗な所があるのだ。君にも喜んでもらえると思うぞ」
「そうですか?ふふ、楽しみです」

そうして彼はやっとここで頬が赤く染まる。
石丸君には今までの言葉を思い出してほしいものだ。最初から恥ずかしいこと言ってきたけど、彼にとっては当たり前なのだろうか。
そうして初デートの日程を決めて彼との一瞬のひと時を過ごした。






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