![]() 時が経って、オレ達は高校生となった。工業高校での高校生活は男子が圧倒的に多いから他愛もない話や馬鹿らしい話で盛り上がることもあったが味気ないように感じた。けれども、オレには青春というものがあった。進学校に進学したみょうじと帰り道が少し被るところがあった為、時間さえ合えば一緒に帰ることが出来た。 「待たせたな!午後の授業が終わるの遅くなっちまって!」 「大丈夫だよ、いつも大変だね」 「そっちこそ毎朝復習がてらに小テストばっかなんだろ?キッツいな」 「でも左右田君の方が実習もあって大変でしょ?」 携帯で少し遅れると連絡を取り、公園で待ち合わせをしていた。夕方の公園のベンチに座っているオレ達の他に滑り台やブランコで遊ぶ子供達の姿が見える。公園の中心には時計台があり4時30分をさしていた。良かった、連絡した時間通りに着いた。ほっと一息つきながら近くのベンチに座る。 「なぁ!これ見てくれないか?」 通学リュックの中から勢いよく大きめの茶封筒を取り出す。みょうじはその封筒の差出人を見るや否や一気に顔色が驚きへと変わった。 「希望ヶ峰学園……!?左右田君スカウトされたの!?」 「おう!メカニックとしてな!」 「す、すごい……!」 オレだってビックリした。家にそんな封筒が届いて家族全員で嘘なんじゃないかって思っていた。でも嘘じゃない。 「それで行くの?希望ヶ峰学園に」 「勿論!面白そうだし、超高校級のメカニックとしてその名を轟かせてやるんだ!」 「そっか……うん。頑張ってね」 みょうじは少し憂いを帯びたような表情を浮かべたが、取り繕うように笑顔に変わった。 「どうした?歯切れの悪そうな顔をして」 「……色々複雑になっちゃった」 「色々?」 「左右田君が希望ヶ峰学園に行くってすごい名誉なことだし、ずっと応援したい。けれど、暫く会えなくなっちゃうのかなって」 「……あ」 「だってそこって寮生活なんだよね?」 すっかり忘れてた。そうだ、ここは寮があるから入学したら暫くはこの街に帰れない。そしてみょうじとも会えなくなるんだ。 オレはなんて馬鹿なヤツだ。みょうじに会いたくなったらどうすりゃいいんだ…!? 「でも気にしないで」 「んあ?」 「左右田君の将来の夢だから。ロケット作りたいんだよね?その為にはメカニックとして経験を積んで有名にならないとだもんね。寂しくなることがあってもずっと応援し続けるよ」 「みょうじ……」 「それに文化祭とかあるよね。長い夏休みも数日くらい家に戻れると思うし、そのときに会えるなら私頑張れるよ!」 頑張ってね、そう言ってみょうじはオレの手を包み込むように握りしめた。あぁ、今泣けって言われたらすぐにでも泣けそうなくらい優しい言葉だ。 「……サンキュ。オレ、頑張ってみせる。みょうじに誇れるような自分になってみせるぜ」 「うん、その調子だよ!……ひとつ、わがまま言っていい?」 「ん、なんだ?」 「いつか希望ヶ峰学園のある街に連れてってほしいの」 「ああ、この街よりも明らかに栄えているだろうな」 「巷で人気のわたあめパフェを食べて、互いの好きな服のブランドを見てまわって……ええと、それで夕方になったら人気のお店でご飯を食べてスカイ未来タワーの展望台で夜景を見る!そこから見た景色を独り占め、いや2人だけのものにするんだ!」 「おいおい、注文多くねーか!?」 「いいの!高校生になったらもっと青春するんでしょ?」 「はぁ…困ったヤツだな、オメーも!」 互いにひとしきり笑った後、そろそろ帰るか、と2人でベンチから立った瞬間突風が吹き荒れた。 「あっ…!」 みょうじの甲高い声と共に制服のスカートが風に乗って上にふわりと捲り上がる。その間にみょうじは鞄や手でスカートを抑え込む。 「……み、見た?」 「…………いや」 「本当に?」 「……」 「見たんだ……エッチ」 「なっ、仕方ねーだろーが!目の前にいたのがいけねーんだ!」 「もう、何よそれー!」 小さく呟いた声に対して声を荒げてしまう。その慌てぶりがおかしかったみたいでみょうじはくしゃりと目を細めて笑った。 その顔がたまらなく好きだった。 ………… 「……なんだよ、それは。左右田がラッキースケベに当たったのが最後って」 「し、仕方ねーだろ!みょうじと会ったのはそれが最後なんだからよ!」 「朝からそんな話される俺の身にもなってくれよな?」 「る、るせー!んなこと言われたらマジでこっちが恥ずかしくなるだろーが!」 左右田もいい青春送ってんじゃん。羨ましいな、と軽いため息をつく。みょうじに取り憑いた変態教師が捕まった所で一旦話を切って、続きはこの修学旅行の最終日にしようと決めていた。そしたら朝からこんな話だ。でもおかげで最終日へのちょっとした緊張は解れた(気がする) 「日向」 「何だ?」 「……話一瞬だけ逸らすけど未来機関ってどう思う?」 「突然どうしたんだ。確かに未来機関が俺達を閉じ込めたかもしれないが……なんとも言えないじゃないか」 「……まあ、そうだよな。まだハッキリしてねぇしな」 当たり障りのないことを言うと左右田は何回か頷く。何故そんなことを聞いてきたのだろう。確かにこの修学旅行の間、未来機関という謎の組織がチラついていた。チラついていた程度だったからか、その組織の目的が一切分からないままだった。 「まぁそれも今日で終わりだな。気にすることねぇか。勿論日向だけじゃなくてあいつらと関われて楽しかったぜ!」 「それで学園に戻って地元に帰ることがあればみょうじと会うんだろ?」 「日向!オメーって人の心読めるのか?」 「もう丸わかりだって」 最終日。 食堂にて俺達2人は話していた。みんなのおかげで無事課題は終わらせた。食堂で全員集まってから船に乗って学園に帰ることになっている。 その筈だった。 「………なぁ日向。集まらねェな」 「ああ。真面目な十神や小泉が集合時間に遅れるなんてあり得ないな」 「ソニアさんも遅れる訳ねーし…オレ達場所を間違えてるのか?」 「そんな馬鹿な。いつも全員で話し合うときは食堂だったのにこのときに限って場所変更なんて」 只事ではない様子に左右田と目を合わせる。 しんと静まった食堂で左右田はソワソワとしている。時間を過ぎても誰も来る気配がない。 「……オレ達をターゲットにしたドッキリか?」 「ドッキリ!?それならボクも脅かしちゃうもんねーー!ガオーー!」 「ぎにゃあああああ!!」 突然俺達の前に現れたモノクマに左右田は叫び声を上げ、モノクマから2歩3歩引き下がる。俺は叫び声が出ずに体中に電気が走る程驚いてしまう。 「2人共驚いているねー。テッテレー!大成功!」 「お、脅かすんじゃねーよ!心臓が縮まったじゃねーか!10センチ位!」 「そんなに縮まったらノミの心臓並になっちゃうよ!アレ!?何でボクが左右田クンのボケを拾わなくちゃいけないんだ?ま、いっか!ボクが最終日に用意したのはこんなちゃっちいドッキリじゃすまないけどね……うぷぷ」 うぷぷとこれ見よがしに笑うモノクマに嫌な予感がした。目の前のぬいぐるみは邪悪なオーラを纏い、俺達を嘲笑うかのように変な笑い声をあげている。 「実を言うとみんなもう船に乗っちゃったんだよねー」 「はっ!?オレ達を置いてったのか!?」 「大丈夫。ボクが船へ案内してあげる」 短い足でモノクマは歩いていく。みんながいる所ということ善意で案内してくれている可能性もあったが、それならさっきの言動と噛み合わない。嫌疑の目をモノクマに向けながら左右田と共に歩く。 食堂を出て、海辺へ出るとそこには船があった。豪華客船のような大きい船にぽかんと口を開ける。 昨日までこんなものは無かった。どこから出てきたんだ?考える間もなく、前を歩いていたモノクマは船の中へ入る。左右田は俺と顔を見合わせる。……俺が先に行けと?アイコンタクトでそう言われている気がしたので恐る恐る船へ足を踏み入れた。船に乗り、扉をくぐり、そして下へ降りる階段を降り進めると…… 「な、何だよこれは!?」 俺は思わず声に出してしまう。船の中は似つかわしくない光景が広がっていた。周りの壁は何かのモニターになっているようで、1つの大きな地形にくっつくように小さい点が光っている。きっとこの島の地形で、小さい点はこの船なのだろうと何とか理解する。 そして目の前には機械とチューブが繋がっており、それらに繋がれているのは、人が入るようなカプセルだ。等間隔に並べられており、そこには……。 「うぷぷ。ビックリだよね?船にこんな機械的な地下室があるなんて!」 「う、嘘だろ?日向……このカプセルの中にオレ達以外のヤツらが……」 「なんだって!?」 俺はカプセルの中をざっと見渡すと確かに俺達以外のみんながカプセルの中で安らかに休んでいる。そして空のカプセルは1つだけ。血の気が一瞬にして引いた。間違いなく俺達の背後にいるこのモノクマがやったことだ。 「みぃんな…眠ってもらったんだよ。"未来"の為に。修学旅行最終日としてボクからのプレゼントというのはね、ナヤミトール……文字通り悩みを取るのさ!」 「は…?」 「そう。超高校級といえどみんな悩みを抱えているからね。だから夢の中で悩みを払拭して貰って、これからの学園の未来の為に希望と自信を持ってもらうのさ!」 何を言っているんだ。それがこのカプセルって訳なのだろうか?しかしそれなら不可解だ。空いているカプセルは1つだけ。俺達は2人だ。 「で、でもよぉ、カプセルが1つしかねーじゃねーか」 「それはね、日向クンはここに入る意味は無いからです!」 「俺?何でだよ」 「日向クンは別にィ…。だって超高校級なんて持ってない只の予備学科だし」 「……は?俺が超高校級じゃない?予備学科?どういうことだ!?」 俺のことなど無視してモノクマはある所へ不気味な目を向け始めた。その視線の先、俺の隣にいた左右田は小さく悲鳴を上げた。 「最後はキミだよ、左右田クン」 「い、いやぁ。オレ悩みはあるけどそのカプセルに入るの辞めとこうかな、………スゲェ怖いし」 最後はボソッとモノクマに聞こえないように呟いた。妥当な判断だと心の中で頷く。寧ろなんでみんなはこのカプセルの中に入ろうと思ったんだ。モノクマは左右田の方を見て小首を傾げた。 「フーン。ま、左右田クンの大好きなだーいすきなみょうじさんのこと聞いたら、このカプセルに入りたくなるからいっか」 その言葉を聞いて左右田は明らかに動揺する。みょうじという名に。モノクマはその様子を待ってましたと言わんばかりにニヤリと口が裂けるほどに笑った。 「問題です!左右田クンの彼女、みょうじなまえさんはどこにいるかな?」 ← → |