今日も一日、挨拶運動、身だしなみチェック、委員会がある。こんなのは毎日当たり前のこと。少し早く起きてしまったから昨晩やっておいた予習をもう1度やっておこう。高校から希望ヶ峰学園に来たがやることは変わらない。毎日同じことで変わらないが学問を究めると面白いものだ。
しかし、クラスメイトから俗世のことを耳にすると勉学に関係ないこととはいえ気になってしまうのも事実だ。自分自身、多感な年だと自覚していることもあるのだが、やはり友人と話す内容も最先端でないといけない。今まで勉強をしてきた僕としては中々難しいが、たまに為になる話も聞けるから最近テレビのことを調べるのも悪くない。
 
ということで朝のニュースでも見ようか。勿論最初は経済や政治、海外情勢についてだが。
部屋に備え付けられている小型テレビを点けると、丁度政治についてアナウンサーが話していた。聞きながら身支度を済ませる。制服のネクタイをきっちり締めた頃にニュースはエンターテインメントに変わる。
 
 
「さて週間シングルランキングですが」
 
 
ここでテレビを消す。エンターテインメントのニュースの時間はもうそろそろ挨拶運動へ行かないといけない時間。
教科書と参考書を持って部屋から出ることにした。
 
今日は不思議と何かが変わる予感がした。その前兆は既に朝から始まっていた。
校門の近くで挨拶運動をしていると何やら生徒達が騒がしい。


「文化祭にスペシャルゲストとしてみょうじなまえが来るんだって!」


周りがその話で持ちきりだ。学級会でも休み時間でも放課後でもそのみょうじなまえというアイドルの話ばかり。
僕にはいかんせん何が何だか分からず、舞園くんと苗木くんに話を聞くことにした。最近デビューしたばかりでありながら月間、週間ランキング1位を獲得し、曲のダウンロード数とやらも右肩上がりだとか。
どうやら舞園君が所属するグループにも負けない位、人気急上昇中のアイドルらしいと理解した。


「ふふ、本当にみょうじさんに負けちゃうんじゃないかってみんなに心配されちゃって…だからこそ私達も負けてられないんです!」
「そ、そうか…。教えてくれて感謝する」
「何よりもデビューした瞬間が話題になったんだよね」
「瞬間が…?」


舞園くんが、ああ!と思い出したような声を上げるも僕には何一つ分からなかった。これまで忙しさを言い訳に盛り上がりやすいエンターテイメントの情報を手に入れてないのが仇になったか。
舞園くんらしくない興奮した様子で僕にみょうじなまえくんについて話をしてくれた。


「東京を思い浮かべてください。大きい街頭テレビがある高いオフィスビルとスクランブル交差点。そこを多くの人が歩いていく…」
「う、うむ…。よく桑田くんが遊びに行くような場所だな」
「ええ。夜なのにビルやテレビの電気によって明るいあの場所です。ですが突然ビルの電気、天気予報を流していたテレビの電気が消えちゃったんです」
「な、何だと!?停電か!?信号はどうなる?事故が起きてしまうではないか!」
「い、石丸クン。そのとき停電ではなかったんだ。信号は無事だよ」


僕のヒートアップした姿にフォローを入れる苗木くんと僕に苦笑いをする舞園くんの表情を見て、コホンと小さく咳をワザとする。決して恥ずかしかった訳ではない。


「し、失礼。続けてくれ」
「はい。状況に気づいた人達は困惑し、電気が消えたことに気づかなかった者もいるみたいです。ですが突如ビルに鮮やかな映像が流れ、その場にいた誰もが気づきました!」
「び、ビルに映像が?」
「プロジェクションマッピングってやつだよ」
「ほ、ほう…?不二咲くんなら詳しいかもしれない」
「複数のビルに映し出された映像、流れ出したクールな音楽が街中に響く。そこは都会の街ではなくライブ会場のアリーナへと変化しました…っ!そして建ち並ぶビルの下で1人の女の子が沢山の煌びやかな照明を浴びて立っていたんです!そしてマイクを手に持って彼女は大きく叫びました!」


「「イッツショータイム!!」」


「う、うおおお!!??」


舞園くんや苗木くん、それに舞園くんの話を聞いていたであろうクラスメイトが一斉にその掛け声を上げる。あまりにも重なった声に思わず驚いて叫んでしまった。

全員が笑顔に満ち、それぞれの話に戻る者もいればそのままみょうじなまえの話をする者もいる。……ここまで笑顔にするなんて、かなり影響力の強い人物なのだろうか。


「うふふ…何だかつい言ってみたくなっちゃうんですよね。流石みょうじさんです。…これが彼女の衝撃デビューのお話です。東京の街を使ったデビューによりネットやテレビで注目を集めましたわ」
「何より舞園さんとは違うタイプなんだよね。見た目は可愛い系のアイドルなんだけど音楽性はクールでロック。音楽が好きな人もいれば、見た目と音楽性の違いにギャップ萌えする人もいるみたいなんだ」
「な、なるほど。みょうじなまえくんの大体のことは理解出来た気がする」
「あ、ボクは舞園さんを勿論応援してるからね!文化祭のライブも観に行くし!」
「ふふ、苗木くんありがとうございます。みょうじさんに負けないように練習しないといけませんね!」


…ひとまず安心したのは苗木くんや舞園さん、他のみんなから聞くにみょうじなまえくんの悪評は無さそうだ。学園の文化祭で風紀が乱れるようなアーティストが来られたら、いくら有名人でもとは思ったが杞憂に終わりそうだ。

さて、今日の1時間目の準備をせねばならない。





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