「みょうじなまえの新曲最高!PVだってあの希望ヶ峰学園で撮ったんでしょ!?」
「しかも希望ヶ峰の学生がエキストラなんでしょ!?本当に羨ましいー!」


学園には置いていない参考書を買いに外出していると大学生くらいの女性達の会話が自然と耳に入ってくる。そのエキストラの1人が僕だと知らないまま通り過ぎていく。

新曲が出されてから僕の元へやってくる学生は少なくなかった。演技が良かったとか僕に対して感想を言ってくれる人もいれば、みょうじくんに対して聞いてくる人もいた。特に後者は圧倒的に多かった。
僕に羨む声や妬む声をここ数日間聞いている。原因は殆どがPV中のあのシーンだった。
僕が失態で落としてしまったシャープペンシルをみょうじくんが拾ってくれるシーンを見たファンが僕の所へ来ては妬みを吐き捨てていくのだ。その者達への声をしっかり聞いてきたのがまずかったのかもしれない。最近は体調を崩してしまったのだ。精神的に未熟だと己の弱さを痛感した。
彼女には何か訳があるのだろう。それがなんなのか僕にはよく分からない。……いや、誰にだって分からないだろう。
みょうじくんの行動には不可解な点が多すぎる。僕は彼女に直接会う必要があった。

果たしてそれは偶然だろうか?たまたま買い出しをしようと裏門を通ろうとしたとき、見覚えのある人物が通り過ぎた。その人物の方へ振り向くと、僕と同じように振り向いてくる。


「あっ…!」
「…!」


彼女の名前を呼ぼうとするといきなり詰め寄ってきては唇の前に人差し指を置くジェスチャーをとられる。その動作にハッとした。まだ人はいるから気づかれたくなかったのだろう。一般人に変装した彼女に小声で挨拶を交わした。


「久しぶりじゃないか。どうしてここに?」


少しの間がとても長く感じられた。彼女は目を逸らしていたが僕の方を向いて小さく笑った。


「ここに用があってね」


ギュッと一気に胸が締めつけられた。悪い意味で、だ。どうやら少し自分を過大評価していたようだ。みょうじくんからしたら僕のことなんてただの希望ヶ峰学園の生徒としか思っていないだろう。分かってはいた。それなのに勝手に苦しい思いをしている。彼女が僕に会いにきてくれた訳ではない。


「君がどうして学園に?」
「んー、ちょっと色々あってさ」
「君の周りは問題ばかりだな」
「あはは、参ったなあ」


困ったように笑うみょうじくんはまるで何かを隠しているようだった。
そしてまた沈黙が生まれた。気まずい、というよりただ単に話すことがないからだらう。
いや話したいことはあった。特に舞園くんが言っていたあのことは。


「……新曲のプロモーションビデオ、良かったと思う」
「本当に?ありがとう」
「だが僕のあのような失態を何万人の人に見せているとなると…」
「そんなこと気にしなくていいよ。失態なんかじゃなくてただの演出と思ってしまえば気にしないよ」
「そんなものなのか……?」


当たり障りのない会話だが僕にとっては重要だった。ここから学園と揉めたという噂について追及せねばならない。そんな唐突な話を急にされたら誰だって警戒はする。なんてことのない会話をして少しでも警戒を解いてもらおうという僕なりの話術だった。


「……君に聞きたいことがある」
「どうしたの?」
「そのプロモーションビデオの撮影中にあらぬ噂を聞いた。君が希望ヶ峰学園とトラブルを起こしていると」
「誰から聞いたの?」
「………関係者から」


僕がその話を切り出した途端、みょうじくんは一瞬にして眉を潜め、警戒態勢をとったかのように見えた。
___誰から聞いたの?その言葉を放った彼女の声は柔らかい笑みに似合わない程の低い声だった。舞園くんの名を出さないようにしたのは正解だったかもしれない。


「そっか」


みょうじくんは一呼吸おいてはニコリと笑う。それは最初に見た営業スマイルだった。


「そういうのは学園が1番知ってるよ」
「えっ」
「これ以上ヒントは言わないからね。こういうのあんまり私から言いたくないからさ…」


言い渋る様子からしてあまり言いたくない内容のようだ。きっとその内容こそが学園とトラブルを起こした理由なのだろう。
何も言わない僕を横目に彼女は僕を通り過ぎては歩みを進める。


「ま、待ちたまえ!」
「もう、なーに?」
「君の夢はなんだ?それを叶える為に希望ヶ峰学園は必要なのか?」


みょうじくんは僕の質問に足を止める。そしてすぐに返事が返ってくる。


「必要だよ、きっと」


きっと?
あやふやな答えに戸惑っている内に彼女は僕から姿を消した。どこに行ってしまったんだ。ある程度の目星はついていた。何か問題事があれば職員室か学園長室、もしくは理事室だろう。しかし僕が行ったところで部外者は門前払いされるに違いない。分かりきった未来を諦め、素直に買い出しをすることにした。
ショッピングモールの中にある本屋で目当ての物を購入することが出来て一安心した。帰路につこうとすると、人集りが出来ている。僕がよく行く文具屋だった。
文具屋に用は無かったが様子を見る限りどうやら新商品が発売されたようだった。混雑もしていることだしまた後日訪れよう。
そう決めて寄宿舎へ戻ることにした。





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