罪と罰(中編)



私のコテージだけボロボロの黒焦げになって木屑と化していた。その周りでみんなは捜査をしていた。

そして自分は映画館のシアターに閉じ込められその様子をスクリーン越しに見ていた。

「…モノクマ」
「はーい、何?ポップコーンでも食べたいの?」
「違うよ、コテージには誰もいなかったんだからああやって捜査されたら死体がないって気づくんじゃない?」
「そうだねぇ…コテージに爆弾があるのを知らなくて爆発の近くにいたってなれば木っ端微塵で死体がないってことにしようか」

木っ端微塵…それで実際に死にたくないものである。そしてそれを周りに花を咲かせながら話すモノクマも恐ろしかった。

「みょうじさん、本当にクロにオシオキしなくていいの?だってそのときコテージにいなかったからいいけど、本当なら木っ端微塵になる所だったんだよ!」
「………」

確かに。もっと怖いのは本当に火事を起こした人がこの中にいるってことだ。

「…オシオキってどういうことするの?」
「それは秘密!そのときのお楽しみだよ!」


…モノクマの言うことが嫌な予感しかしないが…モニターに目を向ける。

「コテージ捜索してもみょうじはいなかった…」
「死体が無いならまだなまえちゃんが生きてるかもしれないでしょ?」
「いや…もしかしたらなんだが…"みょうじ"らしきモノはあったんだ」

日向君の遠回しな言い回しに真昼ちゃんは眉をひそめる。

「は?らしきものって…?」
「……あまり言いたくないんだけど…どうやらあの火事は爆弾によるものなんだ。爆心地近くに肉片があったんだ…多分みょうじだったものだ…」
「え、嘘…でしょ?」

真昼ちゃんは口に手を当てて青ざめる。
あれ、私以外は全員いるし誰も死んでいないはずだ。

「あっ、ボクじゃないよー」
「モノクマ以外誰がいるのよ」
「公平にやるんだからボクが捜査を撹乱させるわけないじゃん!ボクって…贔屓とか不正がモノミの次に嫌いなんだよね」
「…そういえばモノミは?いないみたいだけど」
「モノミは七海さんといるよ、大丈夫!モノミはみょうじさんがここにいること知らないから!」

モノクマの周到な用意にため息をつきながら、モニターに目を戻す。
そこは海辺だ。砂浜に座り込む人影は間違いない。左右田君だった。そこの隣に座り込む女性はソニアさんだと画質が少し粗めのスクリーンからでも分かる。

「…ソニアさん以外の、他の女性の話をしていいですか?」
「みょうじさんのことでしょうか?」

左右田君は海を見つめながら頷いた。

「あいつって何というかあのクラスの中だと地味なんですよ、周りが個性的すぎるんですけどね。だからこそ誰とでも仲良く出来るし、……まぁなんというかイイ奴だったんです」
「わたくしもそう思います!みょうじさんは笑顔が1番素敵でした!終里さんと弐大さんが室内でトレーニングし始めてホテルが破壊されそうになったり、西園寺さんと左右田さんが喧嘩してたとき、澪田さんが部屋で爆音でギターかき鳴らして騒音騒ぎになったとき…他にもありましたけど、何があってもみょうじさんがまとめてくれたんですよね!」
「誰にでも公平なんですよ、オレ的にはあいつらの中で1番優しいやつだと思ってます。も、もちろんソニアさんだってみょうじと同じくらい優しいですよ!」
「ふふ、ですがわたくしよりもみょうじさんが優しい人だと思っております。そんな人が死んでしまわれたなんて…信じられません…」
「みょうじが恨まれる理由が全く分からないんですよ。だから絶対に犯人を見つけてやりますよ!」
「あら、左右田さんにしては男らしいですね」
「にしてはって何ですか!にしてはって!!」


そう言いながら笑い合う2人。
2人とも海が似合う。水面に太陽の光が反射してキラキラ輝いていた。

この2人の姿から嫉妬すら感じなかった。…私はこんな輝いている2人から幸せを奪おうとした。私のわがままでソニアさんから左右田君を奪おうとしたのだ。未遂とはいえ罪悪感が重くのしかかってきた。

私は1番優しくなんかない。ただの嫉妬狂いだ。ここから出られるようになったら2人のことをたくさん応援しよう。それでいいじゃないか。

そのときだ、ドンドンと扉が強く叩かれる音がした。ここは映画館だからか肝心の内容どころか声も聞こえない。
しばらくするとアナウンスで「初めての学級裁判始めちゃいましょー!」という声が響き渡る。

視聴者感覚で見てても皆目見当がつかない。一体誰が火事を起こしたのか。

「やあやあみょうじさん、危うくバレちゃう所だったよ!」
「…さっきのドア?」
「モチのロン!九頭龍クンが来たときはびっくりしちゃったよ〜。立ち入り禁止の看板貼ってたし、メンテナンスって伝えたら帰って行ったけどねー」

そっか、アレは九頭龍君だったのか。モノクマに聞いてみると映画館の中に入ったのは九頭龍君だけだったそうな。中々勘が鋭い人だ。じゃ、裁判へ行くからとヌルリと消えていった。

そしてスクリーンにモノクマが映り、学級裁判の説明を話し始める。今回は初めてということで"オシオキは行わないつもり"とは言っていた。なんて曖昧なんだと思いつつも、いよいよ始まるのだ…。


初めての裁判にみんな戸惑っていると、狛枝君が早速話し始める。
「…まず、状況からいこうか。夜10時半頃、みょうじさんのコテージが火事に遭った。そのときにみんなが衝撃音を聞いているね。ボク達がバケツリレーして火を消していったけど、そのときにはもう黒焦げだったよね」
「音を聞いてすぐに外へ出たらもう既に燃え上がっていたよなぁー、あんなに早く燃え上がるものか?」

赤音ちゃんが疑問を投げかける。確かに火の上がり方は尋常じゃない程速かった。

「…現にそれが出来たんだよ、…だからみょうじさんは逃げ遅れた」

千秋ちゃんの元気無い声にまたみんな俯いてしまった。

「…みょうじさんの為にもまずは凶器を決めよう。モノクマファイルは貰ったけど凶器も何も書かれていないただの状況だけ書いた何の役にも立たないファイルだからね」
「狛枝。火事は爆弾の爆発によって起きたものだ。僅かだけど、火薬の跡と匂いがあった」
「ほう…?貴様は焼けた後の匂いと火薬の匂いが嗅ぎ分けられたのか。犬のような嗅覚を持っているようだな」
「ち、ちゃんと火薬の跡も見つけたからいいだろ…それにみょうじは…バラバラになっていたんだ。火事じゃなくて爆発で死んだとみて間違いない」

日向君の発言に多くの人が騒めく。
どうやら死因が死因らしくて一部の人にしか伝えられていない。反応を見た感じ、真昼ちゃんと九頭龍君が事前に伝えられていたみたいだと分かる。

「嘘だよね…?昨日まで生きていたみょうじさんがバラバラに?さ、流石に信じられないよ」
「輝々ちゃんの言う通りっすよっ!あのなまえちゃんが…」
「アレは普通の人には見せられねぇ…嫌でも見慣れてる俺だって辛れーものだ。だからずっと俺が見張ってたし、日向や小泉にもあまり喋るなって言ったんだ」

超高校級の極道でさえもこう言うんだ。相当な現場だったのだろう。自分がああなってたらと思うと冷や汗が止まらない。

「分かった、俺が導いてやる。みょうじの死因は爆死だ。そうなるとやはり軍事施設が怪しくなってくる。この俺が捜査中に軍事施設の中を探してみたが…あそこに爆発させるものは無かった。あるのは花火だけで軍事施設にはないな。あるとしたら軍事施設にはない場所、もしくは爆弾を作ったんだな」
「墳…そんな場所と爆弾製作を知ってるやつがおんのかい」
「製作なら詳しそうな奴がいるだろう、そこに」

十神君が誰かに対して指差す。何となくだけど察しがついた。そういうことに詳しい人物…超高校級から考えれば…

「は!?オレ?」
「左右田…お前は爆弾の作り方を知ってるか?疑ってはいない、作り方を知ってるかだけ聞きたいんだ」
「か、完全に疑ってるだろ!ソレ!」
「ふ、ふゆぅ…確かに超高校級のメカニックなら知っているかもしれません…」
「左右田おにぃ、さっさと言いなよぉ!」

うわぁ…こんな責められるとキツイだろうなぁ…何だかこっちまで責められてる気分になる。左右田君は頭に手を当てて苦悶の表情を浮かべる。「言うからクロと決めつけるな」とでもいうような表情だ。

「…爆弾という点で考えるとC4というやつがすぐには爆発しねー奴だし、多分それだと思う。製作は難しいが化学を知っていれば代用の物は作れると思うぜ」
「C4爆弾というやつだね、ミリタリーゲームでもよく出てるよ。粘土みたいに柔らかいらしいよ?確か信管を入れたらどっかーん…って」

左右田君の話に加えて千秋ちゃんがゲーム知識で補足する。しかし、メカニックとはいえ何故左右田君は詳しいのだろう?ミリタリー好きとは聞いていないが…

「??オレにはよく分かんねーな」
「ワシもじゃな…」

赤音ちゃんと弐大君がハテナのマークを大量に頭にかかげる。その姿は緊迫した空気を和らげる。

「はぁ?何でそんなに詳しく知ってんの?左右田おにぃがクロな訳?」
「ちげーよ!そもそも寝てたわ!」
「それは俺達も一緒だ、誰もアリバイがないから厄介なんだ」
「しかも爆弾使ったってなりますと遠隔もあり得ますよね?ドラマだとよく見ます!」

とりあえず分かったことはコテージに爆弾が仕掛けられていたこと。夜時間過ぎた頃に事件が起きたこと。凶器から左右田君が怪しまれてること。かな…。

議論が拮抗してきたときにペコちゃんが話を切り出す。

「お前ら、覚えているか?一昨日…みょうじが何者かに襲われたのを」
「そういえば…ってことはみょうじさんの周りで既に何かが起き始めていたんだね」
「そうだ。襲われた後になったがみょうじには特に怪我はなかったようだ。コテージに誰か入ったってことだから一緒に調べたが盗まれた形跡も何もなかった…」
「…ねぇ、それ何か仕込まれたって考えられない?」
「何?それって爆弾のことか?何を言うんだ。変な物も無かったんだぞ?」

千秋ちゃんが考え込む。会話からして私自身も何かを感じてしまった。C4爆弾って確か…

「だからってベッドの裏とかきっちり見てないでしょ?」
「ベッドの下は見たがそこまでは…」
「C4爆弾ってね、粘土なんだよ。だから隙間とかにねじ込めることも出来たしベッドの裏にくっつけるのも出来たと思うよ?」

千秋ちゃんと同じ考えを持ってたことに安心しつつも、自分が本当に危険な状況に置かれていたことに寒気が止まらなくなった。自分のベッドの下に爆弾があるなんて誰も思わないじゃないか。

「なるほど、七海の言う通りだとすると使われたのは恐らくC4爆弾……に似せたもので遠隔で爆破させたということだな。一昨日にみょうじのコテージに入り込み、昨日の夜にボタンを押して爆発させたんだな」

日向君が犯行についてまとめる。…犯人像について皆目検討つかない。

「みんな知ってると思うが手荷物検査、コテージの中探したがボタンとか変な物は見つからなかった。まぁ…何処かに巧妙に隠したのだろう」

十神君が考え込む。ここで行き詰まってしまった。このまま議論が進まないと犯人が分かりゃしない。しかも現時点で疑われているのは左右田君だ。

あの日不法侵入した際に左右田君は眠っていたし、何も持っていなかった。だからみんなが出した推理だと左右田君は犯人ではないのだ。

「あ、あのぅ…」

みんなが行き詰まったところで小さい声が聞こえる。この弱気な声は蜜柑ちゃんだ。

「お!蜜柑ちゃん、何か大発見っすかー?」
「い、いえ…そのぅ……」
「なんだよ、ゲロブタ!さっさと言えよ!」
「ふええぇぇぇ……ごめんなさぁいぃ」
「お前ら落ち着けって。罪木、どうしたんだ?」

日向君が周りの女の子を落ち着かせる。周りの視線が刺さる中で蜜柑ちゃんはある物を取り出す。これは私も知っている物だ。

「こ、これ…コテージ周りの水底に落ちてたんですぅ…見覚え無くて…み、みなさん知ってますかぁ?」

それは空になった小ビンだ。そう、私がモノクマに渡された物と全く同じ形状の物である。

「あ?なんだそりゃあ?」
「…待って。私も持ってたよ。一晩眠らない薬だよね?夜中にゲームを沢山進めちゃった」
「え?ぼくも持ってるよ!けどぼくのは料理を美味しくする調味料だって」
「あ、アタシも持ってる…アタシのはカメラの液体レンズクリーナーだったよ」

え、え?

「あー、いいセンいってるね!それはねボクが一部の人に渡してるんだよ!悩んでる人達にピッタリな物を渡してるんだ、偉いクマでしょ?」
「それはいつのことだ?」
「人によって渡す日は違うけど…一昨日と昨日しか渡してないよ!ボクが渡したのは5人でもちろん1人1本ずつ…ぶひゃひゃ!コレ、結構なヒントだと思わない?ヒントはこれっきりだよ!」

…5本?ああ、千秋ちゃんと花村君、真昼ちゃんと私と空の小ビンか。

「おい、後持っている者はいないのか!それと空の小ビンを忘れた者だ!」

十神君が声を掛けても誰も手を挙げる者がいなかった。

「………そうなると1本はみょうじか」
「後名乗り出ないとなると…クロかもしれねーな」
「ふ、ふゆぅ…まさかこんな大切なものだったなんて…」
「罪木ありがとな!クロの手がかりを見つけるなんて」
「そ、そんな…え、えへへぇ……」

日向君に褒められる蜜柑ちゃんは笑顔になる。
誰も手を挙げないとなるとクロしかいない。問題はその小ビンは何が入っていたか…。

「ニトログリセリン……」

狛枝君がボソリと呟く。

「お、オイ…なんつった?」
「…4番目の島でドッキリハウスってあったでしょ?ボクさ、そこのファイナルデッドルームっという所に入ったんだけど…そのゲームにクリアするとある部屋に入れるんだよ。そこに爆弾が大量にあってさ…爆薬の元になるニトログリセリンもそこにあったんだよ、それだけ」
「そ、それだけええ!?オメーとんでもねー所見つけてんじゃねーよ!?」
「アハハ…大丈夫だよ、ちょっとした脱出ゲームだった、入るときはモノクマが同行してくれるからね」

狛枝君…か。彼に近寄りがたいから避けちゃってたけど、まさかそんな所まで行っていたなんて…。

「モノクマが気になること言ってたんだよね。この部屋に来たのは狛枝クンで2人目だって」
「つまり、狛枝以外にもその爆弾がいっぱいあった部屋に行った者がいるのか」
「いやぁ、分からないよ?モノクマが渡して来たのがニトログリセリンだって可能性もあるさ」
「いや、仮に火炎瓶にしたとしてもビンは割れるだろ。それにそこに行ったんならC4爆弾とかすぐに用意出来る」

……思考をロックせず考えろ…。これは小さい頃学校の先生に言われた言葉だ。小ビンの中身がみんな違っている。それは人の悩みそれぞれだから違っていい。もし、もしもだ。ビンの中身が同じ液体なら。そう考えると裁判前、いやもう少し前に引っかかることがある。でもそれは疑うことになってしまうんだ。自身の気持ちそして2人のことを。

_____彼女は今まであんなに彼のアプローチを突っぱねたのに告白をOKしたのだ。

もし小ビンの中身が私と同じ物なら、あの小ビンは実は左右田君が使ったのではないかと…そう思い始めてしまうのだ。



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