嫉妬って醜い感情だ。 前の席に座る好きな人の顔を眺めるたびにそう思う。 私の好きな人は私のことなんて気にもせずに友人と仲良く会話を弾ませている。そんな様子を見て心が温かくなったり、寂しい気持ちになったり、悔しくなったり。 石丸君の隣で話していたいなぁ、どうしたら大和田君や不二咲さんみたいに仲良く話せるのだろう。 そう思う度に羨む気持ちと共に黒い感情が胸いっぱいに溢れ出す。 大和田君の場所と変わりたい。 不二咲さんのような可愛い笑顔を彼に向けたい。 そんな願望砂上の城のように脆い。そもそも石丸君との接点なんて同じクラス以外何にも無いのだから話すことすら出来ない。 いいなあ、って思ってしまう。 何もかもが悔しいって感じてしまう。 そんなの誰かにぶつけることなんて出来ない。そもそも私だけが生み出した嫌な感情だから。どうして、あの2人の方がいいのだろう。ああまた最低な感情だ。どうしてこんなに溢れてしまうんだろう。 「みょうじくん」 凛とした声にハッとする。目の前には振り向いた石丸君が首を傾げながら私を見つめていた。 「ど、どうしたの?」 「ボーとしていたが大丈夫かね?」 「ううん、大丈夫だよ」 「それなら良かった。体調不良だったら心配していたからな」 落ち着いた声とは対照的に私の胸の中がぎゅっと熱くなっていく。少しだけ心配してくれたのかな。そう思うと彼から見て私の存在は認知されているんだってポジティブになれる。そこまで卑下しなくなっていいって自分でも思うけれどやっぱり自信を持てない。 まだひとつ溜息をついた。 …… 「はぁ」 「石丸君、どうしたの?」 「……いや、なんでもないさ。少し考え事をしててな」 「兄弟が考え事なんて珍しーな、なんかあれば俺達に聞けよ」 「ありがとう。でも大丈夫だ」 僕は不ニ咲君と兄弟に笑みを浮かべた。2人はそれを見るといつものように次の授業の準備を始めた。後ろにいる彼女は準備を進めているのだろうか。 最近みょうじくんは鈍い。ここ数ヶ月はぼーっとしているようで動きが遅く、心配になってしまう。みょうじくんが自主的に進んで行動すれば僕が心配することはなかっただろう。だけど、それをありがたく思っている自分がいた。 僕は次第にみょうじくんのことを気になり始めている。それは決して恋なんかではない……と信じたいがはっきり言えない自分がいる。 こんなこと、誰かに聞いたらどうなるのだろうか。僕が恋をしているなんて誰もが思わないし、面白おかしく笑われてしまう恐ろしさもある。 けれども、僕は後ろの席にいる彼女がどうも気になってしまう。シャーペンシルの音がうるさいという訳ではなく、ただ後ろ姿を見られ続けるのはどうもむず痒くて、変な所を見せていないか気になってしまうのだ。 「石丸君。どうかしたの?」 真横からみょうじくんに話しかけられて肩が少し震えた。次の授業が移動教室だからかいまだに動かない僕を不思議そうに見ていた。 「なんでもないさ、これから一緒に向かおうではないか」 「えっ?」 「む、何か問題でも?」 「ううん。何も問題無いよ、早く行こう」 みょうじくんは驚いた表情を浮かべた後すぐに笑顔になった。目を細めた満面の笑みで若干頬が桃色に染まっていたのが分かった。 僕は君の笑顔に心を奪われてしまったみたいだ。 「みょうじくん」 「うっ!な、何?」 「そんな驚かなくてもいいだろう……む」 「どうしたの?」 言葉が出てこなかった。みょうじくんの肩が驚きで跳ねていたせいでもあるのだが、僕はその後の言葉を何も考えていなかった。ただ名前を呼んで人を引き留めただけ。相手の時間をロスさせてしまったことに罪悪感が募った。 「すまない。何も考えてなかった」 「そう?じゃあ行こうか」 「ああ」 次の教室へと足を進める。何故だかいつもより緊張してしまう。見慣れた廊下や階段でさえも一歩一歩神経が張り詰められているかのように。僕はきっとどうかしてしまったに違いない。恋の病とかいう明確な症状もない病になっていないことを祈りながらみょうじくんと次の教室へと向かった。 |