黎明の灯



「この学園内で殺し合いしてもらいまーす!僕のようなプリチーな仮面をつけた人間が君達の敵だからそいつらを殺しまくっちゃって!生存者が1人になった時点で殺し合いは終了だよー!
うぷぷ、敵は強いからみんなで協力してね…アーハッハッハ!」


モノクマという謎の生き物から言い渡されたのは残酷なゲームだ。
臆病な私は泣いて隠れることしか出来なかった。だって本当は文化祭だったはずなのに。
まさかこんな目に遭うなんて思わなかった。

仮面をつけた人間に襲われたときは死と隣り合わせだったことが本当に怖かった。いつまでこんな恐怖を味わっていればいいのか分からなかった。学園に落ちていたとは思えない程に似つかわしくない拳銃をこめかみに当てる。


「っ、こんなの、殺し合いなんて……もう嫌…ッッ!」


こんな状況から逃げ出したい、その気持ちでいっぱいだった。
引き金を引こうとしたときに手を掴まれ、外側に捻られる。その手の先には石丸君が無表情でこちらを見ていた。


「みょうじくん…駄目だ、自殺行為は」


その声は石丸君の個性を殺されたような抑揚のない声だった。彼も精神的に参っているのだろうと分かったが最早それどころではなかった。


「…っ、もういや、嫌だよぉ…いつもの日常に戻りたい。みんなと一緒に過ごしたい…」


箍が外れたように涙が止まらない。本当は大声で叫びたかったけど、敵の存在もあって声を押し殺して泣いた。

ふと頭を撫でられたような感覚がして見上げると、石丸君が座り込んでいる私の頭を撫でていた。まるで子供をあやすような仕草。それがすごく心を落ち着かせてくれる。


「みんな同じ気持ちだ。だからこそ、脱出口を見つけて生き残っているみんなで帰ろうではないか」
「帰れる、かな?」
「霧切くん達が手掛かりを探している。生き残ればいずれ助けだってくるはずだ。僕達も手掛かりを探しに行くんだ」


ここで死んじゃ駄目だ、そう言った石丸君は今にも消え入りそうな笑顔で微笑んだ。撫でられる感覚が少しだけ気持ちいい。ゆっくりと頷くと手を差し出され、その手を取った。石丸君の大きい手は私の手をいとも簡単に包んだ。


「暫くは一緒に行動しよう」
「石丸君は誰か殺しちゃったの?」
「いや僕はまだだ、…だがいずれは正当防衛でそうせざるを得ないのかもしれない」
「……そっか」
「行こう」
「うん、分かった」


まだ、生き残れるかもしれない。その希望だけを頼りに生きていこうと決めた。
その後が確か石丸君と親友だった大和田君に何かが起こったらしいと聞いて石丸君が私から一旦離れたんだ。
私はただ隠れていただけかもしれない。数日くらい空き教室を探索したが何も見つからなかったのは覚えている。


ある日大きな爆発音が聞こえ目を開いた。
きっと何かが起こったに違いないと爆発がした体育館へ向かった。


「これは…一体…」


そこは焼け野原だった。床が黒く焦げていて、人であっただろうものがそこら中に転がっていた。

凄まじい爆発音が響いたことからここで大きな爆発が起きたのだろう。そして巻き込まれた人が多数…あまりにも酷い損傷を起こしていて吐き気を催しそうになる。
ここで沢山の人が死んでしまったのなら、私以外に生き残っている者はいるのだろうか。
弾数が少ない拳銃を握りしめて教壇の方へ向かった。


「生存者は後2人…?」


通りで人に全く出会わないわけだ。教壇にそびえ立つ黒いクマ型のモニターには"セイゾンシャは02"と表示されていた。
きっと私の他にはあのモノクマとかいう仮面を被った人だろう。今度こそ人を殺さなければならない。そうしないと私達の勝ちはないんだから。

…とはいえ、無闇に動き回っても体力を消耗するだけ。教壇前で様子を伺うと、誰かが近づくような音が聞こえた気がして緊張感が張り詰める。
やらないと自分が死ぬ、そう思いながら音がした体育館入り口の方へ拳銃を向けた。


「……みょうじくんか?」


拳銃を向けた先には聞き覚えのある声がした。


「石丸君…!」


緊張がほぐれ、すっかり安心してしまう。そこには石丸君がいて、彼もこちらを向けて笑みをこぼした。


「良かった、無事だったんだな。僕1人ではどうしようかと…」
「本当、会えて良かった…!」


この殺し合いに巻き込まれてから私のことを励ましてくれた石丸君が今も生きているのが嬉しかった。
犠牲になった78期生のみんなの分まで生きようと決意した。
だけど…


「さて、いよいよ後2人となりました!さあここで思う存分殺しあってください!」


モノクマの声が体育館中に響き、私はそのモニターの方へ目を向けた。


「僕達の敵はもういないはずだがどういうことだ?」
「うぷぷ、ルールをちゃんと聞きなよ。"生存者が1人になったら殺し合い終了"だって」


1人……1人だって?
その不気味な声と言葉に体が激しい拒否反応を起こし、その場で座り込んでしまった。生き残るのはどちらかということでそれはどっちも生き残れない、ということになる。


「みょうじくん!大丈夫か?」
「大丈夫、じゃない……」


異変に気付いた石丸君が私の方へ寄り添ってくれる。気遣いの言葉をかけてくれたのに本音をつい漏らした。


「本当に、どうすればいいか分からない…。石丸君に生きて欲しいし、死にたくないと言ったら嘘になっちゃうし…2人で生きようって今と思ってる」
「………みょうじくん…」
「あ!ここで生き延びることもナシ!老衰なんて面白くもないからね!タイムリミットはそうだねぇ、2時間!それでも2人生き残ってたらこの学園ごと爆発だよ!」


まるで面白がるようにモノクマは笑い続け、遂にはモニターから姿や声も消え代わりにタイムリミットであろう時間がカウントダウン方式で表示されている。
それを見てお互い黙り込んでしまった。ただ何も言えなかった。


「…僕達に残されている時間は長くない、ということか」


彼はその場に座りながら遠くを見つめている。この場に似つかわしくない綺麗な体育座りだ。


「……いっそのこと、殺し合わずに一緒に死んじゃうというのも手だよね」
「みょうじくん!馬鹿なことは……っ」
「私は石丸君と殺し合いなんてしたくない」
「……僕も同じだ。君を殺してまで生きようと思わない」
「……」
「……」
「…石丸君、一緒にいていい?」
「……もちろんだ」


時間が刻一刻と迫る中、沈黙はひたすら続いた。
それでも時間が経つのは早いものであっという間に1時間を切っていた。このままでいい。一瞬で消えてしまえばいいんだ。
その頃だろうか、彼が沈黙を破った。


「みょうじくん、君に伝えておきたいことがある」


彼の方へ向くと、彼は決意を固めたような凛々しい表情をしている。何か嫌な予感が胸をかすめた。


「僕はかなり前に霧切くんに会ったのだがそのときに教えてもらったことだ。しっかりと聞いてくれるか?」
「霧切さんに?」


いいよ、と頷くと彼は私の肩を掴み、目と目を合わせて話をする。力強い眼差しに目線をつい逸らしてしまいそうになるけどじっと見つめ返した。


「この殺し合いはループしているそうだ」
「ループ……?」
「僕も信じられないがそうらしい。霧切くんは"前の殺し合い"の記憶を持っていたんだ。
何故か?それは霧切くんが前の殺し合いでの生存者だったからだ」
「え…!?」


あの霧切さんが…?驚愕の表情を浮かべると彼は話を続けた。


「前の殺し合いでも生存者が1人になるまで終わらないというルールだったらしい。そこからは霧切くんの推測だが残された生存者には次の殺し合いで記憶保持者となるのではないかと考えたそうだ」
「記憶、保持者…?」
「だからこそ霧切くんが殺し合いをモノクマに言われたときから唯一冷静に行動をしていたのだと腑に落ちた。殺し合いを、このループを止める手掛かりはきっとあるはずだと」
「でも、それは…見つからなかったの?現に霧切さんはもう…」


私が目線を下に落とすと彼は考え事をするポーズをとる。


「…これは僕の推測だが、あの大きな爆発に霧切くんは巻き込まれたのでは?」
「えっ…!?」
「あの爆発前に霧切くんに会っていたのだ。そのときに話を聞いたのだが、敵は霧切くんを標的にして動いていたらしい。
そして何人かの敵が霧切くんの殺害の為に自身の命構わず良からぬことを考えていると。だから知っていることを全て話すと生存者のことも話してくれた」
「それって…」
「……恐らく、敵は自爆覚悟で霧切くんに特攻したのだろう」


そんな…言葉が出なかった。しかし、私が敵から隠れてやり過ごせたことを考えると納得がいく。前のループした記憶を持っている人なんてモノクマ陣営からしたら早めに殺しておきたいだろう。
…けど、だけども。


「でも、どうしてそんなことを話してくれたの?」


疑問だったのだ。どうして石丸君がこんなことを話し始めたのかと。
彼は少し驚き、戸惑っていたものの理由を言ってくれた。


「さっきも言った通りだ。僕は君を殺せない」


…?疑問符を浮かべると急に体全体に締め付けられるような温かさが伝わってくる。私は石丸君に抱きしめられているのだと数秒経って分かった。


「ん、…っ!?」
「…僕はみょうじくんが大好きだ」
「えっ…」


突然の告白に遂に頭のキャパシティがオーバーしてしまったようで…何にも出てこない。
好き…あの石丸君が私を?


「すまない、こんなことを急に言いだしてしまって」


彼は申し訳なさそうに、私の首元に顔を埋める。それが少しだけくすぐったかった。


「手掛かりや兄弟を探す為に君と共に行動したときがあっただろう?そのたき僕は非常に嬉しかったし、何よりも君を守りたかったのだ。一緒に行動する前、君が自殺しようとしていたときは本当に焦った…」
「…石丸君…」
「…守りたかった、一緒に脱出したかった…全ての理由は君が好きだったからだ」


ポツリポツリと呟く彼の言葉は少々恥じらいがこもっていたのか言葉が途切れ途切れだった。
これがどんなに嬉しかっただろう…


「だから…君に"生存者"になってもらいたい」


この不穏な言葉を聞くまでは。

私の体を抱きしめていた石丸君の手は油断していた私から拳銃を取り上げ、自らのこめかみに銃口を向けた。


「え、な、…なんで、…?」
「だから言っただろう?僕は君を殺せない。2人共死んでしまったら記憶保持者がいなくなってまた振り出しに戻るかもしれない。それなら君に生存者になってもらってほしいだけだ」
「石丸君じゃ、駄目なの?」
「君が死ぬ姿を見たくない」
「そんなの、石丸君のわがままだよ…!私だって石丸君の死ぬ姿見たくない!私のことを大好きって言ってくれた人を殺したくないよ…!私を励ましてくれた石丸君の為に自殺しないで生きてきたのにっ!」


そう叫ぶと石丸君は驚いた表情を浮かべた後にボロボロと涙を零しながら頬を染めて微笑んだ。


「……っ、それは嬉しいものだな」
「い、石丸君…1人にしないで…」
「……大丈夫だ。また会える。次の"僕"に」
「そんなこと言ってるわけじゃ…!」
「次からは何も知らない僕に教えてあげてくれ。僕は君を守る使命があるのだと」
「……石丸く、…っ!」


名前を呼んだところで私の顎を上に引き上げられる。


「最期だけ、…いいかね?」


お互いの顔が近づき思わず目を閉じる。優しくゆっくりと唇が触れた。
ずっと続いてほしいなんてそれはただの夢幻に過ぎなかった。

キスした瞬間にカチリと私の手元で音がして、彼の手は銃身を持ちながら銃口を彼の胸に固定した。
そして私の人差し指が彼の親指に強く押され、引き金を引こうとしていた。


「僕達を助けてくれ、みょうじくん」
「-------ッッ!!」


初めて人を撃った瞬間。
酷く重い銃声が響き渡り、ドサリと彼が私の体に覆い被さった。


「エクストリーーーム!」
「ひゃあっっ!?」


突然の声に体が震え上がり、目を開ける。自分の部屋をぐるりと見渡してここは学園の寄宿舎だと理解する。
ふと目線を下にやると私の膝の上に人がいた。石丸君だ。私の恋人。
江ノ島さんから貰ったモノクマの目覚まし時計を止めて深い呼吸を繰り返す。モノクマのエクストリームの声で毎回ビビってしまうんだけど、石丸君は声に動じず規則的な寝息を立てている。空は晴れやかな青空で綺麗な朝だ。試験が近いから徹夜で互いに勉強していたんだけどソファでつい背もたれに寄っかかりながらうたた寝をしていたようで、きっと石丸君も私の膝の上で寝てしまったのかな。

……というとあれは酷い悪夢だったみたいだ。夢なのにも関わらず涙が溢れそうになる。この世界は平穏が1番だなぁ。そっと頭を撫でているともぞもぞと体が動き始める。起こしちゃったかな。でも朝だからいいか。


「ん、みょうじくん。おはよう」
「おはよう、大好きだよ」


そう告げると彼は照れたのか私の太腿に顔を埋めた。くすぐったいよなんて笑いながら、頭から背中にかけて石丸君を沢山撫で続けた。


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