午前2時



山田君…そして石丸君を殺した犯人はセレスさんだった。
セレスさんとは何回も私の誘いに乗ってくれて見つけたばかりの娯楽室で勝負を何回もしたことがある関係だ。結局1つも勝てなかったけど。
そして何より、どうやって知ったのか私の好きな人を知っている人物だからだ。ある意味弱み握られていた状態だったのだが、何だかんだセレスさんは私の恋の悩みに付き合ってくれたのだ。毎回、みょうじさんの好きな殿方が石丸君だなんて驚きですわって言われるけど。
そんな彼女が人を殺してしまったのが信じられなかった。

「みょうじさん、"結果的に"あなたを傷つけた行為だと分かっています。申し訳ありませんでしたわ」と言い遺して彼女はオシオキされてしまった。ズルイじゃないか。そんな綺麗なこと言って死んじゃうだなんて。

その夜は眠れなかった。友人も、そして想い人も一瞬にして消えてしまった。その事実を一気に受け入れるなど出来もしなかった。


セレスさんが決めた夜時間に外を出歩くなんて石丸君が見たら怒られるだろうな、だなんて思いつつドアを開けてフラフラと歩く。きっと軽い運動すれば眠くなるだろうと思ったし、何より少しでも早く忘れたかったのだ。

コツコツと響く足音。1人だけの足音は妙に廊下に響いて気味が悪い。
物理室のドアを開けて、その中にある物理準備室へ向かう。
ゴウンゴウンと空気清浄機の音が虚しく鳴り響く。
物理準備室の中へ入りドアを閉める。その瞬間、ガタと膝から崩れ落ちる。
今までのことを思い返していた。


石丸君が殺される前の学級裁判後、彼は精神が崩壊していた。
石丸君の所まで言ってずっと話しかけたりどこかへ出掛けようと誘ったりしたが彼は何の反応もせず、結局はそっとしてあげようという決断し、彼から距離を置いた。
そしてあるときを境にして彼は変わってしまった。彼の見た目、言動が真逆になってしまったのだ。それでもあのとき私は勇気を出して石丸君に声をかけた。言葉1つも出なかった彼が言葉を発している…それだけで嬉しくて、食堂でお茶でも飲もうかと誘った。だけど、近寄るなと断られてしまった。そりゃ馴れ馴れしいかと自分の軽率な言葉に嫌悪しながら、他の人達と解放された3階を探索する。


探索を一通り終えた後、自分の部屋に戻ろうとすると私の部屋の前で石丸君が立っていることに気づく。

「あれ?どうしたの?」
「オウ、みょうじっつーたか?さっきはすまなかったな」
「ああ、別に気にしてないよ!私も少し馴れ馴れしかったしね」
「んなことねーよっ!こんな可愛い子の誘い断ったオレがバカだったぜっ!」
「えっ…!?」

突然可愛いと言われてビクリとする。中身は別人のようになっているが、声や姿は私の好きな石丸君だから照れてしまう。

「んだよ、照れてんのか?よぉし、気に入った!今からオレの部屋へ来い!」
「えっ、ちょっと」

彼に手を掴まれて石丸君の部屋の中へ入る。彼の部屋の中に入るのは初めてだ。机の上にある積まれた参考書を見ると彼らしいと思わされる。
そう思っていると石丸君にベッドの上まで連れられる。あれ、なんでベッドの上…?

「ね、ねぇ、石丸君?」
「石丸ってーのはどいつだ?オレはオレだよ」
「えっ?」
「まぁ、んなことよりさ、オレはみょうじの可愛い所がもっと見てーんだよ。可愛い所見せてくんねぇか?」
「えーっと、可愛いだなんて…そんな急に言われても…」
「…ならオレが手伝ってやるよ」

そう言って石丸君は私のスカートをめくって太腿を撫でた。

「ひゃっ、何するの…!?」
「そうそう、その声。スッゲーそそるから、その調子で聞かせてくれ」
「ま、待って…!」

抵抗しても無駄だった。あの後、石丸君に色んなことをされた。今まで好きな人には何されても良いとは思っていたが、こんな急にされるのは嫌だし、何よりももう彼は石丸君ではなかった。姿は彼でも全くの別人だった。


部屋から出た後、何のあてもなく大浴場へ向かった。今思えば何故だかそこに誰かがいる気がしたのだ。

「あら、みょうじさん?珍しいですわね、こんな時間に…」

そこには果たしてセレスさんが湯船に浸かっていた。
お風呂でリラックスしていたセレスさんの顔は微笑んでいたが私の顔を見た途端にその微笑みは消え、湯船から出て私の前まで来る。私が入って来るの邪魔だったかなと思っていると、セレスさんの白い手が私の肩を撫でた。

「……みょうじさん、肩の赤くなったアザはなんですの?」
「…えっ!?」

思わず肩を見ると確かに数ヶ所に赤くなっている箇所があった。バスタオルの下からも覗こうとするとセレスさんが「隠さないでください」と体を露わにさせられる。そこにはギョッとしてしまうほど胸や腹にアザがあった。
絶対あのときだ、と認知するとセレスさんは表情の動きを読み取ったようで問い詰められた。

何が起きたかを話すと、彼女は最初は驚いていたが次第に眉をひそめるようになった。私のことを終始見つめていたのはきっと真実かどうか見極める為だろう。ギャンブラーらしい行動だ。

「…あなたの表情から嘘をついているようには見えません、信じられませんが石丸君がみょうじさんにそのような暴力を振るったのは間違いないようですわ」
「ご、ごめん、信じられないよね。今でも信じられなくて…」
「ですが、あなたの話の中では彼は石丸君ではないと仰ってたとか。そのことから彼は石丸君のような誠実さはもうないでしょう。……だからとはいえ、ずっと心配してくれる少女がいたのにも関わらず、その仕打ちは同じ女性として怒りしか湧きませんわね」

彼女の赤い目の奥から怒りの渦が巻いていることがこちらからでも分かった。と思うと彼女はコロリと表情が変わりいつもの笑顔に戻る。

「安心してください、わたくしから石丸君に"お説教"をしましょう。それで彼はあなたに近づくことはありませんわ」
「え、でもセレスさんに任せていいの?」
「被害者であるあなた1人だとまた起きてしまう可能性は十分にあります。あなたとは何回か一緒に勝負した関係です、少しくらい頼ってくれても良いのでは?」
「あ、ありがとう。セレスさん」
「そうそう、あなたはそうやって笑ってれば良いのです」

その翌日にアルターエゴが無くなり、石丸君はそっちに目を向けて私を見ることはなかった。
その騒動の中、「優等生であるオレが盗むわけない」と石丸君が発言したときに私の後ろにいたセレスさんが「どの口で優等生と言っているんだか…」と低い声で呟いたのは忘れなかった。

そしてその翌日に事件が起きた。私はこの事件の犯人がセレスさんだと分かってしまったのかもしれない。けどそれが信じられずに犯人はセレスさんじゃないという証拠を求めてずっと捜査していた。結局報われなかったが。


物理準備室の中で座り込みながら考え込む。ドアの外ではゴウンゴウンと清浄機の音がする。その音をずっと聞いていると安心する気がした。腕時計を覗くと深夜2時になろうとしていた。




「……くん!みょうじくん!」


聞き覚えのある声にハッとする。いつのまにか意識を失いかけていた。モノクマに罰則で殺される所であった。
視界には見覚えのある黒ブーツが見える。あれ、これは石丸君のブーツだけど何でこんな所に?

「みょうじくんッ!ダメじゃないかこんな時間、こんな所で!」

石丸君の声が聞こえる。まさかと思いつつ、上を見上げると黒髪のいつもの彼がいた。だがよく見れば分かるが彼の体が少し透けていることが分かり、夢ではないことを知る。
まさか、私は視えているのか?

「…石丸君?」
「みょうじくん!君はここで寝ると罰則で死んでしまうぞ!さあ起きるのだ!」
「大丈夫。大丈夫だよ」
「そうか!なら部屋まで送るぞ!君の身に何かあっては困るのだッ!」

そうして、彼と準備室から出ようとした所で彼の足は止まってしまった。

「どうしたの?」
「……体が動かない」
「えぇっ!?」
「この部屋から出られないのだ、足が全く動かない。それにみょうじくん、ここから見えるあの大きな機械みたいなものは何なのだ?」

彼の言葉に驚きを隠せなかった。
彼だって知ってるはずだ。あの物理室の大きな空気清浄機の存在を。
だが、探索のときの彼を思い返してある仮説が思い浮かんだ。

「ねぇ、石丸君。ここ、どこか分かる?」
「…恥ずかしながら何も分からない。1階、2階には無かったぞ」
「…娯楽室、記憶ある?」
「娯楽?…そんなもの学生には不要だろうッ!?何を言っているのだね!」
「ま、待って!」

もしかして、石丸君は兄弟と呼んでいた大和田君が死んでからの記憶を失っているのか?
そして、石丸君が死んだ物理準備室から出られない。これは一種の地縛霊となってしまったのだろう。
1番厄介なのが、石丸君は死んだことを忘れている、もしくは記憶を失っている。

「………」
「みょうじくん、どうしたのだ?」

石丸君が困ったような顔で見つめる。
きっと彼にとって訳分からないだろう。それでも彼は記憶失ったとき何をしていたのか気になるだろうし、正直に起こったことを話そう。
…彼が私にしてきたことも、全て。

「えっとね、実は…」

私が全て今まで起こったことを話す。石丸君はずっと話を聞いてくれた。ただ、人格が変わった後の出来事で彼の顔はスッと青ざめる。怒りや悲しさを超える感情を超え、羞恥の感情が表れている。
話し終えた後、石丸君は床に顔をつけ、土下座をしていた。

「みょうじくんッ……申し訳なかった!僕がそんな行為を君に、していたなんて…!そんなことしていたなら、確かに僕はセレスくんに殺されてもおかしくなかった…」

彼の声は震えていた。心なしか石丸君の背中が小さくみえる。

「大丈夫だよ、石丸君。私は許すよ?」
「…いや、君が許しても僕が僕を許せないんだ、あんなことをして」
「……石丸君」

私は石丸君に寄り添う。当然だが彼に触れられず温かさも感じない。

「こんな気持ちで、成仏出来ないって分かっているのだ…お詫び、にならないが僕に出来ることはないのだろうか」
「私は石丸君が謝ってくれるだけで十分だけど…それでもダメなら私を見守るとか、どうかな?」
「…は?」

石丸君は口をぽかんとしている。確かにこれが石丸君が石丸君自身を許せる行為か分からないし、これは私の願望といってもいい。

「んー、私って弱いから。これから私にくる悪いものを石丸君が倒す、的な。守護霊とでもいうのかな?それなら石丸君だけに出来ることだと思うよ」
「……」

石丸君は黙り込んだが、何かを決意したような顔で私を見た。

「分かった、みょうじくんが許してくれるのならそうしよう…だがこの部屋から出られるのだろうか?」
「あー…もう1回挑戦してみる?」

私は準備室から出て物理室に行ってみる。石丸君に来てと言うとさっきとは違い、すんなりと私の隣まで来る。

「おお、部屋から出られたぞ!みょうじくん、感謝する!」
「良かったね、じゃあ夜中だし部屋に帰ろうか」
「…女性の部屋……か。いいのか?」
「大丈夫に決まってるじゃないですか!石丸君が天国に行けるまでシャワールームまで着いてきていいんだよ?」
「さっ、流石にそこは遠慮させてもらうぞッ!さあ帰ろうッ!」

彼は顔を赤くしながら私の後ろをついて来てくれる。
石丸君が天国に行けるまでの少しだけ一緒にいられる。
今度は私の方から何かやましいことをしそうだが、その気持ちをめいっぱい抑えた。


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