初夏の香り



「はぁーあ」


嫌なことはどうしてこうも立て続けに起こるのだろう?
朝寝坊による遅刻、授業中に突然当てられて答えられず、体育で転んで足に擦り傷が複数出来て、昼食のお弁当を忘れて食べられず。
午後に至っては実力テストで失敗して追試行き。そんな立て続けに起こる不幸を笑った友人にイラついて感情任せに言葉を投げつけ距離を置かれる。その後に友人に謝罪の意を込めた言葉をチャットアプリから送る。明日改めて顔を合わせて謝ろう。
放課後になって自室へ戻った後、気分を変える為に大好きなシュークリームをオヤツとして選んだけど、クリームが食べた箇所の反対側から盛大に包装紙の上に零れ落ちた。心なしかクリームが寂しそうに佇む。
嗚呼、今日は厄日だ。

放課後の校庭はクラスメイト達がサッカーやらバスケやらをして遊んでいる。本当に元気だなあなんて思いながら自販機で買った缶コーヒーを飲む。
残りが少なくなった缶コーヒーを下に丸を描くように回す。この動作、意味もないのにやっちゃうんだよね。きっと少し前まで飲んでいたコーンポタージュのせいだ。
それにしても買ったばかりなのに一気に飲んじゃったなあ。


「みょうじくん?」


真後ろから聞こえた声に思わず缶コーヒーを落としかけた。振り向くとブレザーの上から腕章を掲げた石丸君がそこにいた。
ああ、と腕章を見つめながら察する。きっと見回りなのだろう。


「お疲れ様、見回り?」
「ああ。もうこの教室は戸締りせねばならない」
「はいはい、分かりました」


この誰もいない教室で考え事をするのが好きなのにもう終わりか。つまんないのって思いながら手に持っていた缶コーヒーをチラと見る。


「石丸君ってコーヒー飲む?」
「勉強中の気分転換として飲むことはあるな」
「そうなんだ、意外かも。お茶のイメージが強いからかな」


お茶も好きだぞ!と豪語する石丸君を軽く受け流す。このまま話していると彼の話を聞く羽目になって、時間が経てばもう帰らねば!なんて言ってまた面倒なことになりそうだから。


「最近、調子が良くなさそうだが」
「え?」
「今日の君はヘマばかりで君らしくない。何があった?」


優等生は私のことまでも気にかけてくれるのか。いや、違う。流石にあんなヘマしてたら誰でも気づく。


「何にもないよ。とことん上手くいかない日もあるってだけ」
「そうか。まあ明日は明日の風が吹くって言うからな!きっと君にも良いことはあるさ!」


ハッキリとした大きな声は今の私にとってはキンキンとしてて聞きづらい。さっきまで静かな時間を過ごしていたなら尚更。石丸君が腕時計に目線を向けたとき、焦ったような声が自然と出る。ここで話をしている場合じゃないって少し怒られそうだった。


「じゃあ、寄宿舎へ戻るね」
「ああ!気をつけたまえ」
「……さっきはありがとね。今度、石丸君の淹れたお茶飲んでみたいな」
「はっはっは!任せてくれたまえ!この時期は新茶の季節だから爽やかな味が楽しめる!気分爽快になるぞ!」
「すごく気になる!そのときは飲ませてよ」
「ああ!」


石丸君の高らかな笑いを受けてこっちもつい笑ってしまう。あまりにも自然体過ぎる笑顔は私の中の黒い感情を一気に洗い流した。
今までの悪い出来事が嘘のように小さく思えたのはきっと彼のおかげなのだろう。


「みょうじくん。何かあったら相談に乗るぞ」
「うん、ありがとう」


肘を90度きっちりに曲げ、手のひらをこちらに向けて振る姿が石丸君らしい。別れ際にあんなことを言われる身としては彼がお節介に思えるけどそんな彼のことを心のどこかで気になっていた。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -