帰り道



いつから溜息が当たり前のように出る生活になったのだろう。刺激の無い仕事だけの毎日に辟易としていた。帰り道で変わったことと言えばコンビニが潰れた跡に別のコンビニチェーン店がオープンするくらいだ。外の冷気が服の中に入らないように身を縮こませながら歩いていると、人だかりの中から見覚えのある人が遠くから見えた。誰だろうか。見たことある。少しずつ距離を縮めていると男性は振り向いて私を見つめてきた気がした。


「あっ」
「ん?」


ガクッと急に足が止まる。目の前の男性は足が止まる私の顔をしばらく見て、ああ!と声を上げて満面の笑みを作る。


「みょうじくんではないか!久々だな!」


変わらない笑顔だ。彼のその表情に懐かしさを覚える。かつての友人、そして私が密かに想いを寄せていた人物。


「え、え?石丸君?」


突然のことに言葉が詰まる。聞き返すとハキハキとした声で「勿論」と声が聞こえてきた。間違いない、石丸君だった。


「久しぶり。元気そうでなによりだよ」
「君こそ!これから帰るのか?」
「うん、後は歩いて家に着くだけ」
「そうなのか!実は最近引っ越してこの街に住むことになったのだ」
「本当に!?」


素直に嬉しかった。好きな人と住んでる場所が同じだって。石丸君と会える確率が高いんだ、思わずニンマリとしてしまう。

帰り道、2人で帰ることになった。話の話題は尽きない。
石丸君は今まで通勤1時間以上もかかっていたらしい。だが引っ越したことによって通勤時間は30分で良くなったみたい。
空いた時間で仕事を進めてるだなんて石丸君らしかった。


「すごいなぁ、私なんてまだまだだよ」
「何も僕のペースに合わせなくていいさ。君のペースで頑張ればいい」
「ありがとう」


石丸君の笑顔につられて笑顔になる。
いいなぁ、石丸君に激励の言葉をかけられるなんて仕事頑張れそう。

そんな話をした所で信号が赤色になって立ち止まる。


「ここで僕は右へ曲がるんだが…」
「本当?私は真っ直ぐ進むんだ」
「ではここでお別れだな」


ここまで一緒か、と思いつつ寂しさを覚える。ここの信号って長いのはいいんだけれど、きっとこれから短く感じるんだろうなぁ。


「みょうじくん」
「ん?」


ふと石丸君が目線を逸らしている。何だろう、何かあるのだろうか。
そう思っていると信号が青色になる。青だよ、と指差そうとしたときだ。


「僕は前から君のことが好きだ!!」


…………。
な、なんて…?好き…?
大声で叫ぶように言われてこっちは何も言葉が出ない。
当の本人は顔を真っ赤にしながら私の手を握ってくる。
周りに人がいるのにそんなのお構いなし。もっと選ぶべき場所があったのに。

でもはっきりと愛の告白をされて、嬉しくて頷くと彼も嬉しそうに笑みを見せた。


「本当か!?」
「本当だよ、私も好きです」
「ありがとう、みょうじくん!明日も帰り道一緒に帰ろうではないか!」
「勿論だよ」


噛みそうになりながらも石丸君に言うと、握っていた手は離れ、その手を振ってバイバイしてくれた。


「じゃあね、また明日…!」


ああ、毎日が幸せな帰り道になりそうだ。


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