ラムネ



上を見上げると真っ白な入道雲が湧きたち、夏なんだと思わせる。
縁側に座り、団扇をパタパタとあおぐ。
それでも涼しさは全く感じないが風が無いよりかはましだ。


「みょうじくん」


彼がやってきて私の隣に座る。
彼は黒青色の着物を着ており、こめかみ辺りや首に汗が雨雫のように滴っている。
そんな姿がやけに色っぽく見えてしまうのは私が暑さにやられているのか分からない。
一方私は着物を着ずに普通のTシャツにスカートだ。
と言うのもここは彼の親戚が持つ家であり、私はお邪魔をしている。
どうやら所有してるだけの家らしいが家からの景色が綺麗だとかで別荘みたいな扱いになっているそうだ。
その家には和服が多く仕舞ってあると石丸君から聞いた。和服を着てとお願いしたところ彼は快く頷いた。


「石丸君、どうしたの?」
「ヘン、ではないだろうか?」
「ううん、似合ってるよ、物凄く」
「あ、ありがとう、制服じゃないからなんだか慣れなくてな」


彼は顔をキョロキョロさせながら、着ている和服をくまなく見る。
制服姿しかイメージが無いから、着物を着た彼は別人のように見える。
姿勢がいいし、彼の持つ赤い瞳が黒青色の着物を映えさせる。


「ふふ、そんなにキョロキョロしなくてもいいのに」
「気になるものは気になるだろう」
「ぴったりよ。この景色にね。縁側から見えるのは青空と庭園。素敵な所に誘ってくれてありがとう」
「…ここは祖父が遺してくれた場所と言ってもいいだろう。親戚は最初はここを売ろうとしていたが最終的に残すことになったんだ」
「そうなんだね」


なるほど、元々は彼の祖父の家だったのね。それなら納得がいく。


「…僕はここに来るといつも思うんだ。努力が報われる社会を作る…と」
「石丸君なら実現できそうだよ。頑張ってね」
「うむ、みょうじくんに言われると元気が出る」


そう言いながら石丸くんは立ち上がり、台所の冷蔵庫を開ける。瓶と瓶が触れ合う音がここからでも聞こえる。


「みょうじくん、今コレしか無いが大丈夫か?」


そう石丸君が見せてきたのは2本の水色の透けた瓶だ。中の液体にある小さな泡がふわふわと上に向かう。


「え、それってもしかしてラムネ?」
「そうだな、茶を切らしてしまったようだ」
「大丈夫だよ!むしろこんな日に飲むべきだって!」


私は立ち上がり、石丸君の方へ向かう。
彼は台所のシンクにて栓を使って2本のラムネを開けている所だ。
プシュッと爽快な音が響く。少し栓を離すのが早かったのか液体がわずかに溢れ、彼の指先についた。彼はラムネがついた指をペロと舐める。胸がドキリとする。
彼は何とも思っていないだろうが、私からしたらその仕草は性的である。
やはりさっき色っぽく思えたというのは夏の暑さにやられた訳ではないようだ。


「では縁側で飲もうか」
「う、うん…」


2人で縁側に座り、ラムネを飲む。
ガラスの縁に口付けて透明な液体を喉に滑らすように流し込む。しゅわしゅわとした刺激がたまらなく快感だ。
ラムネの瓶からはカラコロと小さい音を立てる。その音の主であるビー玉は瓶の中で踊りながら青空を写す。
カラコロと鳴らすと隣から石丸君の声が聞こえる。


「今日は花火大会があるらしい。ここからもよく見えるそうだ」
「花火?やったー楽しみだよ!」
「それは良かったな、僕も君と見るの楽しみだ!」
「え!えーと、それって…」


私が戸惑っていると彼は最初ハテナの文字を浮かべているような顔をしていたが次第に顔が赤くなっていた。


「ま、まだ花火大会まで時間はあるッ!それまでに勉強でもしようではないか!参考書を持ってくるから待っててくれ!」


そう言って彼は参考書を取りに縁側から離れる。彼のその行動は通常運転でもあり、なんだかはぐらかされたようにも感じた。
君と見るのが楽しみという彼の言葉を繰り返しながら、分厚い参考書を持ってくる彼を待っていた。


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