恋と自覚した瞬間



昼寝するには10分から15分の短時間が良い。そう言われているが目の前の人物は明らかに寝過ぎだ。


「みょうじくん、起きないかッ!」
「……」


大体みょうじくんの問題行動が過ぎる。第一に寝坊、第二に居眠りだ。授業中だって眠っている。きっと夜中に遊んでいるに違いない。風紀を正す者としてこの自堕落な生活を直すしかない。


「んー、朝から元気な声は誰?」
「む、起きたかね?みょうじくん」
「あぁ石丸君だ、おはようー」
「おはよう!清々しい朝…ではないんだッ!今何時だと思っている!?」


自分の腕時計を見ると既に昼休みに入っている。恐ろしいことにみょうじくんはこんな時間まで眠っていたのだ。


「もうお昼かぁ…あっという間だね」
「みょうじくん!君は…」
「んー、…腰が痛い…」
「……っ!?」


今……みょうじくんは何て言ったのだ。
腰が痛い、夜通し起きている…。
そこから連想できたのは考えられないが卑猥なことであり…破廉恥で穢れたものだ。


「はっ、いやいや…そんな訳がないだろう」
「…どうしたの?」
「なっ、何でもない!みょうじくんはまず生活習慣の改善が必要だ!授業に出ている以上起きないと何も学べないぞ!」
「そうなんだよね、そうしたいんだけど…」


何故だろうか、みょうじくんの言葉を聞いた後僕の意識はここで途切れてしまった。次に覚えているのは見覚えのある男子達の顔だった。


「お、イインチョー起きた」
「こ、ここは…」
「保健室だよ、急に後ろから倒れるもんだからビックリしちゃったよ…」
「……」


どうやら僕は急に倒れてしまい、教室にいた男子達が運んできてくれたようだ。何で僕は倒れてしまったのだろう。そうだ、近くに兄弟がいたはずだ。兄弟なら何か分かるかもしれない。そう目線を向けると兄弟は何か言いづらそうに目線を逸らしてしまった。僕達の目線のやり取り気づいた苗木くんがどうしたの?と声をかけると、言いづらそうに無理矢理口を開けたように見えた。


「みょうじの言葉知りてーんだろ?………まぁなんだ。"そうしたいんだけど、彼が眠らせてくれない"って言ってた」
「……」
「うわー……」
「あっ!?石丸クンしっかりして!?」


苗木くんが僕の意識を呼び戻す。これが現実なのか。これは夢ではないのか。


「いや、あのな?俺も近くの席で聞いてビックリしたぜ?それに加えて兄弟がぶったまげたからな」
「いやーみょうじヤベーな…しかもイインチョーの前で堂々と言うのは天然というかお馬鹿ちゃんというか…」
「夜通し…腰痛……眠らせてくれない……」
「めっちゃ凹んでるべ!?」


ベッドの周りでザワザワとしている中、冷静な声が聞こえる。


「愚民が。お前らはみょうじの才能を忘れたのか?」
「…成る程。みょうじなまえ殿は超高校級のジョッキー。騎手ですな」
「ああ、みょうじの言う"彼"は馬のことだろう」


十神くんが完璧だとクククと喉を鳴らす。…た、確かにみょうじくんは超高校級のジョッキーだ。夜遅くまで練習や馬の世話をしていれば辻褄は合う。


「いやはや…鍛えられたオタクが言うのも何ですが、馬に弄ばれる美少女が主人公の同人誌もあるので」
「や、山田くん?変な考えはよしたまえ!みょうじくんは…!」
「てか、石丸っちがそこまで肩入れするの珍しいべ。みょうじっちのこと好きなんだべか?」
「………う」
「…バレバレだな、兄弟」


あっさりバレてしまった。今まではそんな感情なんて微塵も思わなかった。それが今となってはみょうじくんのことばっかり考えてしまっている。これが恋愛というものだろうかと半信半疑に思いながら過ごしてきた。今日になって僕は彼…もとい馬に嫉妬していたのだ。


「ってか好きなら告っちゃえばいいんじゃねーの?仲良いじゃん」
「き、君みたいな遊び人とは違うのだよ!大体みょうじくんの気持ちを理解してからでも…いやいや不純異性交遊だ、僕達高校生にはまだ早いんだ!」
「いくらなんでも硬派すぎるだろ」
「えーっと…これ言っていいのかな。とりあえず石丸クンを落ち着かせること言ってもいい?」


苗木くんが男子達の場の中で声を上げる。僕を含めた全員が苗木くんを見ると、ははと苦笑いを浮かべながら呟く。


「みょうじさん、石丸クンのこと好きだってさ」
「はっっっ!?」
「え、いや、いつも気にかけてくれていて優しい人だから好きって」
「そ、それは、ほほほ、本当のことかね?」
「う、うん」


苗木くんが僕に対して仰け反りながらコクリと頷いた瞬間、くらりと体から力が抜けてベッド上へ倒れこむ。あ、また倒れた!と騒ぐ男子達の声が薄れていくのが頭の中で理解していた。


翌日、結局みょうじくんの言葉の意味は十神くんの言ってた通りで、馬の世話で眠れなかったとか。何とも浅はかで低俗な考えをしてしまったと何も言わずに土下座したもののみょうじくんには何のことだか理解していなかった。
いや、理解しなくてもいいのだが。


「石丸君、もう顔上げていいからさ。また私が寝てたら起こして欲しいな。そろそろテスト期間だし、ね?」


地に頭をつけていた僕がみょうじくんの声の方へ顔を見上げる。
その先にいた彼女の笑顔が本当に向日葵みたいで晴れやかな笑顔だった。初めて可愛い、と思えたし、もっとみょうじくんに相応しい人になれるよう努力せねばと誓った。


「…ああ、君の為に何度でも起こそうではないか!」
「あ!でも大声はやめて欲しいな。出来れば優しく」
「う、うむ。それは何とかしよう」


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