思考オーバー



「ソニアさん…今日が何の日だか知ってますか?」
「ええ!モチのロンですわ!今日は七海さんのお知り合いの日向さんと遊びに行く日です!」
「…………………」


案の定。
また彼はフラれた。


……


たまたま聞いたさりげない会話。
わざとその人の前を通り過ぎる時だけ歩くスピードを緩める。


「……日向って誰だ?」


日向君は確か予備学科の子で本科の七海さんと仲が良かったんだっけ。てっきり付き合ってるのかと思ったけど意外と他の子と遊ぶんだな。
廊下で見たことあるけど確かに良い子そうだった。モテるのも分かる。

流石に歩くスピード遅すぎると変な人に思われそうだしそのまま寄宿舎へ戻る。

廊下ですれ違う。これが1番左右田君と近い距離だったのに目を合わせることも話しかけることも出来なかった。
同じ本科の人間という括りだけど同じクラスでもない。

なのに私は左右田君のことが好きになっていた。
左右田君のことを好きになる前に、彼のことは少なからず知っていたのに。
好きな人にアプローチしまくっている超高校級のメカニック。そんな認識でいたのに残酷な思考だ。


サイテーだなぁ自分と思いつつ、手に持っていたプレゼントを皺だらけにならないよう少し強く握る。
今日は左右田君の誕生日。付き合ってもない癖にプレゼントまで用意してしまった。昨日まで楽しみだったのに今日になってどうやって渡すってことになって今後悔している。

左右田君の好きなブランドのピアスが入ったプレゼントをどうしようか…。
そう悩んでいるうちにもう放課後になってしまった。


ここまで来て考えついたのは寄宿舎の左右田君の部屋の前に置いておくことだった。
予備学科の人達だったらド定番だが靴箱の中に入れておくのに部屋の前に置くのはすごく勇気がいる。

……ええい、ままよ。そっと布ラッピングに包まれたプレゼントを置いた後に。


「……応、何をしとるんじゃあ?」


しまった、見られてしまった!
声の方向に振り向くと大柄な男性、超高校級のマネージャー、弐大君に出会ってしまった。


「えっ、あ、あの、えーっと」


まずいまずいまずい。
他の人が見てるってことを考えなかった自分が馬鹿だった!
思考がショートしそうになりかける。


「む、お前さん左右田に用があるんか?」


言葉が出ないままあたふたしていると弐大君から声を掛けられる。もういいや、ここで誤魔化したって悪い印象を与えるだけだし、正直に言おう。


「…そ、左右田君今日誕生日だからプレゼントを渡そうと思って」
「おお、そういや左右田は誕生日じゃのう。何故左右田に会わんのじゃ?」
「あまり接点無いから…友達とかなら分かるけど、知らない人にプレゼント渡されるの嫌かもしれないし」


そこまで伝えると弐大君は一瞬考え込んだ気がしたものの私を見る。大柄で背が高いからすごく見下ろされている気分だ。


「お前さん…確かみょうじといったか」
「うん、そうだよ」
「お前さんには心の奥からの好意や熱意を感じるッ、それは直接相手に伝えるべきだと思うがのう。日が変わる前に」
「た、確かにそうだけど。やっぱり左右田君には好きな人がいるし、そうじゃない人に貰うのって」
「な、中々焦れったいのう。それなら左右田を呼んでくるわい!」
「え、ち、ちょっと!」


弐大君は凄まじい動きで走り出してしまった。置いておいたプレゼントを手を待つ。
しばらくすると大きい足音がどんどん近づいてくる。小脇に左右田君を抱えた弐大君だ。抱えられた左右田君本人は喚き散らしていた。


「ぎゃあああああ!!!」
「ガハハハ!応ッ、お前さん連れてきたぞ!」
「は、はい…」


よし、と左右田君を下ろしたかと思えばすぐにいなくなってしまった。弐大君はただのマネージャーではない、絶対超人的な力を持っているのではないだろうか。


「はぁ〜〜なんだよどいつもこいつもよぉ…」


左右田君は色々あったみたいで涙目で弱気なことを呟く。…誕生日なのに散々な思いをさせてしまった気がする。


「…あ、あの、」
「あ?」


左右田君の鋭い眼差しに一瞬怯んでしまう。しまった、怒らせてしまったかな。


「オメーか。弐大に俺を連れてこさせたのは」
「…うん」
「…はぁ、何なんだよ。さっさと言ってくれ」


投げやりな言葉に気怠げな表情、ピリッとした雰囲気…こっちが泣きそうになる。
けど、ここまで来たからには何でもないで済ませる訳にはいかなかった。


「……お」
「ん?」
「お誕生日おめでとうございます!!はい!!」
「うおおっっ!?」


左右田君の胸に押しつけるようにプレゼントを渡す。彼は何だ何だと戸惑いながらも両手にそれを受け取ってくれた。

それを確認し、すぐにその場所から立ち去って自分の部屋に戻る。


自分のベッドの中に入り、先程までの出来事を思い出す。
…どうしてあんな叫ぶように言ってしまったんだろう。すぐに立ち去ってしまったのだろう。
きっと左右田君の私に対する印象はだだ下がりだ…終わった………。
過ぎてしまったことは仕方ないにしても後悔ばかりが募る。
明日から恋愛なんて忘れちゃおう。左右田君とはただ同じ希望ヶ峰学園の生徒だ。それだけ。

……

…いつのまにか寝てしまっていたようで窓から差し込む日の光で目がさめる。
気分が重い。目の前の色がモノクロになった、そのくらい世界が変わってしまった。瞼も重い。泣き腫らした目をどうしようか。タオルを冷やして少しでも治さないと。

廊下を歩いて教室の扉を開けるといつも通りの時間がクラスの中にはあった。私に挨拶してくれる友達やいつも元気な男子…いつも通りだ。また頑張るしかない。

大きく深呼吸をして中に入ろうとすると後ろからトントンと肩が叩かれる。


「…あっ!」
「よっ、やっと見つけたぜ」


振り向くとそこには左右田君がいた。
…え、私に話しかけてくれたの?左右田君が?いつもと違う出来事に身体は硬直しても心臓だけがドキドキと鼓動している。
焦るな、焦るな…落ち着こう。相手に悟られないように冷静を取り繕う。


「おはよう。どうしたの?」
「他の奴から聞いたぜ。オメーみょうじって言うんだな」
「うん…」
「昨日はありがとな!誕生日祝ってくれて!」


驚いた、わざわざ私にまでお礼を言ってくれるなんて。


「だってよ、昨日プレゼントくれた奴オメーだけだから礼を言おうっつってもすぐいなくなるからよ」
「ご、ごめん。それと…どういたしまして」


そこまで言った後で私は左右田君のちょっとした変化に気がつく。笑う左右田君の耳元には私があげたプレゼントのピアスだった。気がついてしまった。また更に呼吸が浅くなってしまう。


「それ、着けてくれたんだ」
「そうだな、オレが欲しかったやつだ。オメーってよく分かってんじゃん。こーいうブランド好きなのか?」
「え、えーっと、好きだよ!」


本当は左右田君の好きなブランドを調べていたから、そのブランド物が特別好きって訳じゃないけど…。そのブランドが似合っちゃう左右田君が私は好きだ。


「はーマジか!結構意外だなァ。こんな隣のクラスに気の合う奴いるなんてよ」
「あ、あはは…」
「さて、そろそろクラスに戻るぜ。また言うけどよ、誕プレサンキュー、みょうじ!」
「うん、どういたしまして!」


ばいばいと手を振って隣のクラスに入っていく左右田君を見送る。

……ああ、神様。私今世界が虹色にキラキラと輝いています。朝から幸せな気分になる。
あのブランド、もっと調べてみようかな。そう思いながら鼻歌まじりにクラスの中へ入っていった。


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